4羽

『こちらチェリー、上空5000m到達、目標落下地点誤差修正起動完了、合図を待ちます』

《こちら本部、視認完了。カウントと同時に切り離せ》


少将チェリーと本部のやり取りを、腐死海海月ダイシームーンに咥えられた黒い長方形の箱から聞き取った『ペンギン』は、カウントダウンがある事に嬉しくなる

いつも唐突に落とすのだ、チェリーは気持ち悪い浮遊感を自身に与え、小便を漏らす姿を見て笑い転げたいのだろう


『ペンギン、聞こえるな?敵は海上近くを浮遊している。貴様を海底に沈めてもいいが……こちらも任務だ、甲板に着地次第全員殺せ』


敵は海賊カリスマ団と名乗り、寄った港に押し入っては金目になるものや食料を奪い、必要があれば殺し、邪魔すれば殺し、立ち塞がれば殺す悪党だ

しかし、その程度で『ペンギン』が出向くほどではないし地元の【海国】が対応すればいいだけの話だ


《──……ぃ、どけっ!いいかクソガキ!!【神国】の名のもとに全てを殺し!!奪い取れ!!さもなくば────》

『通信終了。いやはや、大将殿は頭に巡る血の沸点が低いようだ』

「うー」


【神国】が誇る大将には『ぎょう』のコードネームを持つ人物がおり、本名は隠してあるものの素性は【神国】公式ホームページを調べるとデカデカと表示されるほど、出たがりな男が存在する

自らが広告塔になり、兵士を募集しているが大半は【神絵師】『μ』による萌え絵で釣られているのが現状なのは本人の知らぬところだ


『まぁなんだ、船ごと帰ってくればいい。業のストレスで貴様に死なれては困る』

「……」


思わず装備するガスマスクの会話機能を起動させ「お前が死ね」と言いたくなるところを堪えたペンギンは、謎の浮遊感を覚えた


『命賭けて逝ってこい』


もはやカウントダウン無しに命を賭けろと言われた



海上を浮遊する海賊船は船底を海のスレスレを漂っていた


「親分!空から謎の箱が来やす!!」


子分と思わしき男がマストから叫び、親分の判断を待つ


「あと何秒だ!!」

「3秒前!!」

「いいぞ!何かに捕まってろ!!」


親分と呼ばれた男は姿勢を低くして腰に装備した海賊剣を構えると、唱える


「『我が宝剣に宿いし風よ──」


黒い箱に狙いを定めて剣を一気に振り上げる


「──乗りたまへ』『裂波』ァーっ!!」

『蓋射出』


声は同時だった

黒い箱から射出された蓋が青い空に飛び出したかと思えば、親分と呼ばれた男のが放つ『裂波』とぶつかり、蓋が粉微塵になった


「……」


ペンギンは空中で黒い箱から持てるだけの装備を取り出すと黒い箱と共に甲板へ着地し、船底から舞い上がる波しぶきを白髪に被った


「俺の技をあんな蓋で……坊や、悪いが俺たちゃ侵入する不貞な輩は殺すことに決めてんだよ」

「……」


ガスマスクのペンギンは白いコートを何重にも縛られた拘束ベルトをしているにも関わらず、火傷跡からの筋力増幅魔法で両手のガトリングガンを敵に向ける


「やる気があるのはいいねぇ!!」


親分の叫びと同時に放たれた弾丸は、甲板と親分以外に穴を開けていく

状況を見た限りではペンギンが優勢にも見えなくはないが、目の前にいるのが敵の全てではない

ペンギンの火傷跡が残るうなじにチクリと何かが刺さると、ペンギンは両手に持つガトリングガンを落とした


「う、う……?」

「目の前にいるヤツらが全員だと思ったか!行くぞみんな!!」


後ろで足音が聞こえだし、ペンギンは納得した

チクリと刺さったのは麻痺毒で、即効性のあるものだと判断した

ペンギンは目の前から迫る敵から銃弾を浴びるも、幸い白のコートは防弾の為、痛みはあるが青痣が残る程度に済んだ


『無様だな、ペンギン。手を貸すか』

「う”ぁ”?」

『元気そうでなによりだ、【第一拘束魔封印具、展開しろ】』


ペンギンには拘束ベルトが巻かれており、その数5

ひとつ外せばペンギン自身に掛けているリミッターが外され”成長”でき、全て外れると『とある姿』に戻れることが出来る


チェリーの許可を得て、ペンギンはバチィンと拘束具のひとつを弾けさせる

麻痺毒を無理やり無効化させると、銃弾を避ける為にペンギンは横飛びし物陰に隠れたと思えば跳躍してマストを駆け上がり、そこに居た敵の首を捻り殺す


「チッ、やってくれるぜ!もうちぃと体力減らしたかったが……狙い定めて殺せ!」


マスト上を狙う敵はペンギンの移動速度についていけず、定まらない

それを機にペンギンは動きながら両手に持つ黒のオートマチック銃で射撃をし2人、3人と頭を撃ち抜く


「なんつー正確なショットだよ……!油断するな!散れ、散れ!」


敵がバラけて行くのを見たペンギンは物陰に隠れた敵のひとりを捕捉し、マストから跳躍して背後に立つ


「あ、ぁぁああ!!クソがァァ!!」


発狂しながらも敵は銃口をペンギンに向けるが、片足で銃を持つ手を踏みつけられ顔を蹴飛ばされた


「……」


即座にダッシュしたペンギンは、次の敵を手で殺め、さらに次の敵には足先で、次は銃で、剣で、指で、頭で、膝で────

そして、ものの数分で親分を除く全ての敵が、甲板とペンギンを赤く染めあげた


「ば、バケモンかよこりゃあ……俺は何を相手してんだ!?」

「……ゔー……」

「あぁっくそぅ!俺ん故郷ァ海ん上!海に産まれちゃ海に還んが俺のことわり!死ぬ気でいったらァ!!」


親分は死を決意して海賊剣を抜く

赤のペンギンは姿勢を低くしてオートマチック銃を構える


「来やがれぇぇえええ!必殺!【真空裂波】!!」

「……っ!」


海賊剣を振り抜いた親分は遠距離攻撃の【真空裂波】を飛ばすが、ペンギンは木箱を投げて当てることで防いだ

木箱は分解されるように粉微塵になったが、即座にペンギンは親分の懐に入ると、待ってましたと言わんばかりに海賊剣の刃先がペンギンの眼前に迫る


「【真空刺殺】!!」

「……!」


ペンギンは首を横に動かすもガスマスクが破壊され、縫われた頬から耳までを引き裂かれる

だが、ペンギンは勢いをそのままに親分の首筋に噛みつくと


食い破った


「ペッ……」


──────


黒い箱は甲板の血を吸いながらペンギンの投げ入れる拘束ベルト、書類、金品を受け入れているとペンギンの受信機にチェリーからの無線が入る


『舵をとれ。南西近くの港に停泊し【神国】海上部隊の奴らと合流しろ』

「うー……ぁ゙ー、ぁ゙がっ、だ」

『マスクを壊されたか、つまらん』


ペンギンは言われた通りに海賊船の舵を取り、停泊させるとバタバタと足音を聞いた


「親分!……親分じゃねぇ?」「お前誰だよ!!」「むさいオッサンを出せー!」


子供だった。まだ年端も行かない子供たちが海賊船を待っていたのだ


「……?」


ペンギンは子供たちの指示通り親分の首を差し出す。身体は黒い箱に喰われた


「う、うわぁぁ!!」「お、親分!首しかねぇ……」「てめぇ何しやがんだよ!!」


言われ、ペンギンは悩んだ

このまま放置すればまた新たな海賊が現れるかもしれないが、今回の任務は船に乗る船員の皆殺しと金品や書類の回収だ

子の殺戮は任務に入っていない

困惑するペンギンに、またも足音が近付き見やると海上部隊大人たちが来、敬礼してくる


「お疲れ様です」

「う」

「船の回収はこちらで行います。そちらは黒箱の『吐き出し』を願います」

「う」

「ま、待てよ!!船だけは……」


子供らが懇願した


「……ペンギン殿、こちらは?」

「……?」

「分からないですか、まぁ地元の子でしょう。海賊に興味あったんでしょうね」

「違う!!これは親分の船だ!!どこの奴らか知んないけど奪われてたまるかってんだ!!」

「そーだそーだ!!」


意義を唱える子らに、海上部隊らは無視して船の点検を始めマストに帆を張り、黒い箱と共に海賊船を進ませペンギンはそれを見送ると、子供らを無視して別の海上部隊員が用意したジープに乗り込む


「元気でしたね……青い海、白い砂浜、澄んだ空のもとで育って欲しいものです。近くに拠点があるので医療班に傷を回復させましょう」

「ぁー……うー……」


ジープが進み出した時、小さな人影を見たペンギンはシルバーの金の装飾されたロングバレルリボルバーを人影に向けて発砲するが、撃たれた人影は丸太に変化したかと思えば、車に乗り込むようにして背後に人が立った


「忍忍!それがしでなかったら死んでいたぞ白いの!」

「あ、あー……いがの者でしたか」

「……」


歪の者、それは歪の里から年に2度派遣される【神国】の隠密部隊に配属するものたちの呼称で、声をかけてきたのはそのうちの一人である【かなめ】という女子おなご

纏められた腰まである黒のポニーテールに身体に装備する鎖帷子の上を布切れ1枚で覆う姿は、くノ一というより痴女である


「怪我をしておると聞いてな!急ぎ参上した迄でござる!」

「あと少しですよ、ペンギン殿」

「ぁ゙ー」

「2人して無視するでない!!歪の忍法回復術で癒してしんぜようと言うのに!」


要がこれほどペンギンに固執する理由はいくつかあるが、自分を負かした相手というのが1番に来る


【神国】に配属された当初、ペンギンに目をつけた要は勝負事を挑み、果たし合いから殺し合いに発展してしまい、収拾つけるためにチェリーの許可無く拘束ベルトを全て外して要を圧倒させた過去がある


「あの時の白いのは勇ましかったというのに、あたいはこんなちんちくりんなやつに負けたのが悔しくてな!」

「着きましたよペンギン殿」

「ゔー……」


ジープから降りて医療班の待つテントに潜るまで着いてくる要


「だから怪我が完治したなれば再戦を挑もうというわけでここに参上した迄でござる!」

「あ゙ー……」

「派手にやられましたねペンギン殿、口閉じていいですよ」


治療を始めようと医療班のひとりが針と糸を取り出し、縫い始めても要の口は回る


「ところで白いの、その傷を完全に消し去っても良いのだぞ?」

「あ゙ぁ゙!?」


口内に針が通った瞬間、針を噛み砕いたペンギンに医療班は要に怒鳴る


「要さん!治療中にペンギン殿の気に触るようなことはやめてもらいたい!!」

「抜かせ阿呆!そのような施術よりもあたいの歪の回復術で────」

「だあ゙れ゙!!」


濁音混じりのペンギンの命令は、要を怖気付くには充分で、更にペンギンは言葉を続ける


「ごの゙傷ぁ゙名誉め゙い゙よ゙で!あ゙がじだ!」


殺しているから殺されもする

だがそれは守りたいものがあって、殺すことは奪うということ

ペンギンは今まで奪っていった命を失いたくないがために相手からの傷跡は完治せず残していた


それは名誉であり、殺された者の、生きた証だから


「ふん!言うとれ馬鹿者」


一瞥した要は黒の髪を揺らしてテントから出ていくと、医者が口開く


「ペンギン殿、傷が開きましたので大人しくしていてください」

「フー……フー……あ゙い゙」


治療はハプニング含む1時間で終わった


────────


ペンギンにとって人前に傷跡を晒すことは無い


「……」

「どこへ行くのじゃー?白いのー」


夜が更けた港まで歩くこと半刻、目的地には子供が複数電灯の下におり、新品の白いガスマスクを着けたペンギンは手を振る


「……ぁ」

「あの子らに用事でもあるか?」

「うー」


子供たちはペンギンの姿を見ると睨んだ。無理もない、親分を殺した人間が目の前にいるのだから


「なんの用だよ!!人殺し!!」

「親分の船まで持っていきやがって!!」

「死ね!人殺し!!死んじまえ!!」

「……」

「のう、白いの。あヤツらを殺して吊るさぬか?」


要の提案に子供たちは「ヒッ」と声を上げ、怯え震えるが、ペンギンは首を横に振りガスマスクを外す


「うー……」

「な、なんだよ……縫われてんのか?」

「うわ、耳まで裂かれてるぜ」

「ここら辺に、強力な魔物なんて……聞いたことないぜ」

親分お゙や゙ぶん゙がら゙、食ら゙っ゙だ。づよ゙がっだ」


ペンギン《殺した人間》からの賞賛に、子供たちは目を見開く


「そ、そうだろ!なんたって親分は十メートル級の大魚をいとも容易く捌くくれぇなんだぜ!!」

「海で大暴れしてた巨大な海坊主だって!」

「悪さする悪蛸の群れすら一網打尽したんだ!!」


子供たちの親分伝説に、ペンギンは笑うと子供たちも気を緩めていたのか引き締め直し、口をもごもごとした


「ん、何か言いたければ言わぬか」

「いや、でもさ……」

「僕が聞くよ……親分の最期、どんなだった?」


ペンギンは笑顔で濁音混じりの言葉で語り始め、全て語り終えた時には朝日が登っていた

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