3羽
ここ中ツ国の『六龍』のビル1棟では、【九龍】分断を記念して立食パーティーと洒落こんでおり、仮面を着けた紳士淑女達が笑顔で会話し、料理に舌を打っていた
「『六龍』はやはり料理が絶品だ」
「『二龍』で獲れた
「『二龍』が『飯の街』とはよく言えたものですなぁ!」
【九龍】の『七龍』には『狩人連盟』に所属の狩人達が、荒廃した土地に森林と海の混ざる『二龍』で仕留めた猛撃豚をレストランや飯屋が連なる『六龍』へ提供し、金持ち共が舌鼓をうっていた時、パーティの主催者が現れる
「皆様ごきげんよう!この日のために予定を開けてくれて感謝しますわぁ!」
壇上に上がる老婆は下品で煌びやかなドレスを振り、汚らしい赤で唇を染めていた
「『五龍』の崩壊、そして!完っ全っに、貧富が分断された中ツ国を祝いましょう!!」
分断の吉報は1週間前
『五龍』の最終防壁である
司馬はその後、現在廃墟となった『五龍』警察署から行方をくらましている
それを機に【暗寧】の元メンバー達は『五龍』で暴れ回り
来るものは仲間するか撃ち殺し
去るものは死を与えた
今や『好機の街』が『死んだ街』に
変貌を遂げた『五龍』に喜ぶものは『六龍』からの富んだ人間達だけとなった。何かの陰謀が揺れ動くように、誰かの思惑通りに
「さぁさ!記念して乾杯しましょ!」
人の不幸を蜜として、グラスに注がれた黄金色の『
「乾杯!!」
ドン!
1つ、音が響いたそれはパーティ会場のビル1棟全体に覆われた、魔力無効化が施された防弾ガラスの割れる音だった
「な、何?!ちょっとあなた!なんの音なのこれは!?」
老婆は近くにいたボディーガードに迫るが、知らない分からないとジェスチャーする間にドンドンドンドンドン!!と連続して、音が鳴り響いてくる
「ち、近付いてくる?」
「このビルは私が設計したテロ防止措置の完璧なビルだったはず!!」
「じゃああなた!この音はなんなの!?」
「そ、それは……」
パーティ会場のざわつきが止まらない間に天井が割れ、黒い長方形の箱が堕ちてきた途端、蓋が飛び出す
中にいた白いガスマスクをし体を拘束された白い少年は、シルバーに金の装飾がされたロングバレルのリボルバーを両手に装備していた
ボディーガードは主を庇いながら移動させる。行動の速さからして予期せぬ自体に柔軟な対応が求められるボディーガードにとって十八番だろうか
「……う?」
白の少年は堕ちた後、何もせずに箱から出てきた。標的が居ないこともあってか、必要以上の行動が出来ないのだ
ざわつきが静かになる頃には、少年は箱の鎖を引っ張りながらパーティ会場から出ようとする
「ま、待て貴様!!どこのモンだぁ!!」
群衆の中から声が上がり、白の少年は視線を移動させる
「うー……《『ペンギン』》」
その一言で理解出来たのは半々だろうか?黒い箱に白い少年、『ペンギン』と名乗れば自ずとそいつは、神国の特殊部隊の人間だと理解するのは
「ま、また
「こちらに兵を寄越した!あなた達はこれで終わりだ!!」
昔昔の話で、中ツ国は神国から喧嘩を吹っ掛けられ戦争が起き、敗退した
神国の特殊部隊が来たとなれば、また戦争が始まりかねん状況だ。
老婆はボディーガード達に白の少年を抑えるよう指示を出す
「うー……」
ペンギンはモゾモゾと拘束具をずらし、肘から下を動かせるようにすると西部劇よろしく腰元で射撃し、迫るボディーガードの脳天を撃ち抜く
銃声が響いたことでパーティ会場は騒然となり、転びながらも下の階へと逃げていった観客をペンギンは観察していた
「……」
「このやろぉぉおおお!!」
声のする方向から捕まえられたペンギンは、心臓に2発撃ち込み足先で地面に叩きつけると首を逸らし、別の敵からの銃弾を避けた
「な、ぁ……っ!?」
射撃をした敵の唖然とした声は目の前に来ていたペンギンに気付かず、顎を撃ち抜かれ脳天から血潮を吹き、ペンギンに倒れ込む
「……うー」
敵の撃ち抜かれた顎からの血に、目を瞑っていたペンギンは白髪を赤く染めていく
「なんつー強さだよ!……んん?」
敵の1人が、目の前に広がるありえない光景を見た
少年が1人先頭に立つのはまだ分かるが、奥で料理に手を出している少女の姿と男の姿があったのだ
「司馬さん、これやっぱり美味しいな!」
「斑鳩、あーんまり急いで食ーぅと……あーほら、口元汚れてーんぞ」
「むぐー!」
「ほーれ、綺麗になぁーった」
そこに居たのは司馬 武蔵と、司馬に撃ち殺されたはずの斑鳩が飯を頬張っていた
勿論、会場に入る客は身分証明もしているし不法侵入した形跡もない、記憶もない
「司馬……な、なんで」
「んーぁ?別にーぃ、入れ替わったんだぁよ」
「ホントに俺死んだことになってんだな、司馬さん」
訳が分からなかった
吉報の出処は【九龍】に仕える最強部隊『黄龍』によるものだ
彼らが裏切り、嘘を報告するなどはありえないし、ましてや目の前にいるのが本人だとすれば”中ツ国”自体を信用出来なくなる
入れ替わり、偽物を殺した?黄龍が見逃すはずがない
「わ、訳が分からん……」
「ちょっとあなた!何を突っ立ってるの!?」
「司馬 武蔵が生きているんです!!ここに存在するわけが無い!!」
ボディーガードの怒声に主催者の老婆はたじろぐ
老婆本人も司馬の姿を確認し、記憶にある吉報と照らし合わせていたのだから混乱は必須である
「し、しし、司馬ァァァアア!!」
「おーおー、年ー老いてーも元気だねーぇ。おばーあちゃん」
「なぜあなたが生きてるんです!?斑鳩も!!2人は死んで当然の人間ですよ!!」
ザクり、と静かに料理にフォークを突き立てた武蔵は、老婆を見据える
実際に『黄龍』が完璧に捜査したかというと、していない
出処を黄龍だと偽って印刷会社に売り込み、広まっただけなのだ
武蔵が撃った女の子は【暗寧】の敵対組織のトップの娘で、『出る杭は出る前に討つ』、『毒芽は出た瞬間に摘む』をモットーにした【暗寧】のルールによって殺されたに過ぎない。蒼の目はカラーコンタクトだ
「誰が、死んで、当然だって?」
「ペンギン!依頼料追加するからあのババアも殺せ!」
「うー?」
ペンギンは2本、小指と薬指を地面に向けて伸ばす
「200万?」
「いや、あのババアだと2万の価値だな」
「うーうー」
頷くペンギンを見て、老婆は腰を抜かし叫ぶ
「あ、あのものたちを殺せ!拘束する必要は無いわ!」
「は、はい!!」
ボディーガードはパーティに使われていたテーブルを倒し盾にして、装備していたハンドガンの銃口をペンギンに向ける
「撃て撃て撃て撃て!!」
「うー」
銃声が鳴り響くも、同じようにテーブルへ滑り込んで盾にしたペンギンと、司馬たちは銃弾を頭に掠める
「結局のところペンギンちゃんは【神国】の犬でしかないわね!寧ろ傭兵の頃が抜けてなかったかしら!?金で解決するところが醜いわねっ!!」
「言われーぇてんぞーぉ?ペンギンちゃん」
「なんか言い返してやれよ雇われ!」
「うー」
ペンギンは倒れたテーブルにガトリングガンの銃身を置くと、一気に回転させながら、落下突入直前に少将チェリーから伝えられた指示をを思い出す
『いいか?目標は運が良ければパーティ会場にいる、いなけりゃ探せ。姿かたちは覚えたな?命賭けて逝ってこい』
もはや数字を数えることすら止めたダイシームーンに乗ったチェリーにイラつく今日この頃、ペンギンの指に掛る引き金は一段と強くなる一方で、敵は蜂の巣になっていった
ガトリングガンを撃ち続ければ熱を持ち、使い物にならなくなるのは当然だが、それを解決すべくペンギンは火傷跡にある氷魔法『
無限に回り続ける銃口からの鉄の弾丸に、老婆もおいそれと黙っていられない
「煩わしい!『
地魔法により天井から突起した土壁で銃弾を防ぐことに成功した老婆は、続けざまに土壁へ地魔法を発動させる
「このままだとペンギンちゃんが見えないけれどね……!『
土壁に触れる老婆は、目に嵌められた義眼で仕込まれた”透視魔術”によってペンギンを捉えると、鋭利な円錐を形成した土がペンギンに向かって射出される
「……」
ガトリングガンの銃口を動かし放たれる円錐の土を銃弾で削り落としていき、老婆の魔力切れを狙うペンギン
しかし、違和感を覚え始めると弾の消費を抑えるために一旦止める
違和感の正体、その答えを知っていたのはテーブルを盾にしてボディーガードをロングバレルリボルバーで撃ち殺していく武蔵だった
「ペンギン、その婆さんは胸のペンダントが魔力貯蔵庫の役目を補ってる」
老婆が纏うドレスの胸元には、青黒いペンダントが怪しく揺らめいていたが、ペンギンは『万千尖土』による円錐の土が途切れないことに眉を顰める
「うー……《 生成 早い 》」
「隙がないってことか?」
コクコクと頷くペンギンを武蔵は見て、よれたスーツの懐から黒玉を2つ取り出すと地面に
「『
かろうじて狼だろう2体の黒い物体が地面から這い上がると、一体は直進し、一体はカーブを描いて老婆の背後に回ろうとする
「くっ、そ!」
「邪魔するなっ」
ボディーガードの1人が背後に廻る狼を仕留めるのを老婆は確認すると、直進して
「《 hell 》」
きた狼を『土起』で挟み殺す瞬間、老婆の上顎から上が吹っ飛んだ
「あ──……ぇ──……っ?」
「お、俺の助言ー……無視ーぃ?」
「……《 隙が出来た 》」
「司馬さん、ペンギンのやつ喋れたんだな」
ほんの数秒の出来事だった
ペンギンは、自身を照準にしていた老婆が黒狼に視線を向けた間に、黒箱の鎖を引っ張り近づけると、テーブルに固定していたガトリングガンを投げ捨て
゙対怪物専用魔改造ライフル”
【Boys AT Rifle】ver.Monster
を取り出してテーブルに固定し、筋力魔法を最大限に引き出しながら銃と右足に体重を乗せ、スコープを覗き狙いを定めた
ここまでで老婆は直進してきた黒狼への対処を始めるも、ペンギンは既に引き金を引いている
殺し文句の《 hell 》は、少将に向けて怨念を込めた意図もあり、『土起』による土壁の挟み込みスレスレを弾丸が抜けていくと老婆の頭を吹き飛ばした、となる
──────
「んぐ、状ー況……確認すーるか」
「うー」
「これうめーな司馬さん!」
飯が喉を通った司馬 武蔵の発言に、黒箱に座り込むペンギンと飯に齧り付く斑鳩が適当に返事する
「……まーぁ、聞くだけ聞いてー」
「司馬さん要するに、上の階にいるペンギンの目標を殺すんだろ?」
「俺何もー、喋ってねぇー」
「……」
老婆の死体、元々居たボディーガード、迫り来た『六龍』管轄の兵士たち
ペンギンが求める標的はそこにはいなかった
「俺のぉー黒狼も探してるけどー、このビルにャーぁ、もう人っ子1人も居ないみたいだぁーね」
「司馬さんよォ、それで困るのは俺たちもだぜぇ?」
「……うー」
ペンギンは椅子代わりにしていた黒箱を立ち上がり背負うと、2人に目配せして帰ろうと促した
━━━━━━
「中ツ国の九大政治家が1人、大統領候補『カシツ』。やっと巡り会えたか」
「な、なんだお前は!だ、誰かおらんのか!?」
薄暗い地下駐車場にて、少将チェリーの目の前に腰を抜かしたカシツはピシッと仕立てたスーツが汚れようと構わず、這い逃げようとする
カシツに付いていたボディーガードは
「斑鳩の死をもって『五龍』が崩壊した今、完全に分断したことによって得するのは『六龍』以上の人間のみ。計画実行犯は消去法であんたしか居なかったが」
「わ、わかったぞ!あんた【暗寧】の元メンバーだな!逆恨みにも程が────ガハッ!」
チェリーはカシツの頬をぶん殴ると黙らせる
「チンケなヤクザと一緒にするな。消去法とは言ったがそれ以外の関連でお前さんはクロだよ、真っ黒。麻の輸入は禁止されてんのに『四龍』の下民に垂れ流すだの、【暗寧】の内乱の発端はお前さんだの……まだあるぞ?聞くか?」
カシツが腹這いになって進もうとする背中にケツをつけたチェリーは胡座をかく
「そんなことは嘘に決まってる!私は知らない!!」
「俺も知らねぇよ。報告書に書いてあったのを思い出して言ってんだからよ、てめぇらの国事情なんざ興味ねぇ」
「な、なんだと……?その口ぶりだとあんたは中ツ国の人間じゃないのか!?」
「冥土の土産に、教えてやろうか?」
チェリーの言葉にカシツは嗤う、腹這いになってでもこの状況から離脱し、逃げる算段があったからだ
まずは、自身の持つ能力で駐車場に停めてある車の爆破から始まり、男を吹っ飛ばして逃げる
中ツ国の人間でないならば【神国】の連中だろう。これを口実にして戦争を起こせば利益も膨らむし、麻の輸入に黄龍共も手が回らなくなる
戦争による兵の消耗は避けられんが、自身が戦場に立つわけでもない。痛くも無い出費だ
「土産は鉛玉だ」
地が黒、金の装飾がされたオートマチック銃の引き金を引いたチェリーは、銃口から響く音ともにカシツの頭を撃ち抜いた
「それ持って三途の川でも渡ってろ」
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