第3話 「冬月」

この家にきて 2 カ月が経ったころ、

さすがにこのままではまずいと思ったわたしは

男が仕事から帰ってくるのに合わせて夕飯を作るようになった。

出過ぎたマネかな・・とも思ったが

わたしの作った拙い料理でも

「うん・・なかなか上手いじゃないか」

そう言いながら残さず平らげてくれる。


食卓を囲みながら

二人の間では次第に会話がうまれるようになっていた。


「あの・・・一つ聞いていいですか?」

「ん? なに?」

「言いたくなければいいんです。あの写真の方なんですけど・・」


ずっと気になっていた。

キッチンには、綺麗な女性の写真が写真盾に飾られている。


「ああ・・女房だよ。涼子っていうんだ」


わたしの心臓が音を立てて脈打った


「え・・・・わたしも・・亮子です」




───────────────────




「あのさ・・明日、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」


男から何かを頼まれるのは、初めての事だ。

どこに連れていかれるんだろう?

一抹の不安はあったが、今のわたしには断る理由などない。


その日の夜は久しぶりに眠れなかったけれど、

ここにくる前の眠れない夜とは明らかに違う。


レースのカーテンを開けると

冬の空に下弦の月がぽっかりと浮かんでいた。

まるで、

わたしを寝かしつけてくれるように・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る