第13話
玄関前。深呼吸して、鍵を一度握りしめる。俺は合鍵渡してるし、俺ももちろん合鍵もらってる。友達であり、家族だから。
「ただいま!」
俺の家じゃないけど、伊藤くんと上原くんの家だから半分は俺の家だ。そんな論理的思考。ぐいぐいと靴を脱いでると、中からパタパタと上原くんが姿を見せた。
「遅かったね。心配したんだよ」
しまった。やっぱり遅いって思ってたんだ。二人を心配させちゃダメなのに。
「ごめんね」
衛宮さんに会ったことを言ったらもっと心配させてしまうと即座に判断。
何も悟られないようにあっけらかんを装おうとしたけど、上原くんの後ろからにょこっと顔を出した伊藤くんにビシッと突かれた。
「謝らなくていいんだ。…スエに捕まってたのか?」
あっけらかんが崩れ去る。俺がヘタクソなのかそれとも伊藤くんが鋭いのか。安心させるために、へにゃっと笑って見せると、伊藤くんの手が伸びて鼻をつままれた。
「何か言われた?」
言われたことをそのまま伝えると、二人をイヤな気持ちにさせてしまうかも。どう答えるか迷い、下を向いてぐずぐずもごもご口をもにょもにょ動かしてたら、上原くんに頭を撫でられた。
「言って。言わなきゃゴハン抜きだよ。コロッケ作らないよ」
冗談みたいなセリフとは裏腹に、上原くんの声が悲しそうで。本当のこと言わなきゃと腹をくくる。
「なんかね。あの。俺たちが三人一緒にいるのを知ってて、そんで。前世に囚われてるんじゃないかって。前世から離れたほうがいいってアドバイスされた」
そこまで言うと、玄関に静寂。
伊藤くんをまた傷つけて、上原くんを泣かせたらどうしよう。ビクビクしながらふたりの顔色をうかがう。すると。
「なーんだ。そんなことか」
上原くん、急にホッとしたように胸に手を当てた。
「今更それを突っ込まれてもな。俺たちは充分悩んだ上で…今も悩み続けてる上で、こうしてるわけだし」
伊藤くん、あっけらかんとしている。俺がまだ乗り越えてない山を、二人はとっくに乗り越えていたようだ。
「伊藤くん、上原くん…。二人ともイケメンだね」
語彙力が乏しいけど、とにかくカッコよくて輝いてると言いたかった。そしたら二人はプッと噴き出した。
「イケメンの使い方、間違ってない?」
さっきの言葉は二人の思考に対してだけど。
それとは別に、二人の顔もまじまじ見てみる。家族感があるから、今まで顔の造形に対して何も思わなかったけど…。あれ?二人とも本当にイケメンだ。
「正しいと思う。コロッケ作ろ」
俺はまだゆらゆらと悩むけど。一人で悩まなくってもいい。三人一緒。
大学から連絡あって、伊藤くんは今週いっぱい停学という処分になったそうだ。
「ちゃんとノートとっとくから安心してね」
コロッケ祭りのあと、今日は上原くんを真ん中に川の字。
明日は自分のウチに帰ろう。もう一人で寝られる。ヨルだって自立をする年頃だった。俺はヨルより年上なんだからしっかりしなきゃ。…それに、二人のイチャイチャの邪魔しちゃ悪いし。
翌朝。
停学中の伊藤くんに見送られ、上原くんと二人で大学行く。
「今日さ。英語の授業あるでしょ?俺のクラスの先生、めっちゃ当ててくんの」
「当てられたらしっかり答えてね。間違っても恥ずかしくないよ。伊藤だって俺だって間違えまくってるし」
上原くん優しい。無意識にぴとっとくっついてしまう。母性という名の引力が働いている。だのなんだの思ってたら、大学の門の前。
「スエだ。じゃなくて、衛宮さんだ」
衛宮さんを発見してしまった。昨日の今日だし、俺を待ってるんだろう。上原くんの声も少し動揺。
「本当だ。どうしよう。…あ、目が合った。避けられないね。挨拶くらいしようか」
こういうとき、伊藤くんがいないと不安になる。俺たちの精神的大黒柱が不在の中、衛宮さんへゆっくりと近づき。
「おはようございます」
ずいっと上原くんが前に出る。俺は守ってもらってしまってる。息子として同級生としてこれでいいのか。いやダメだ。
「おはようございます!」
一歩踏み出し、思いのほかの大声で挨拶。上原くんはビックリしたあと微笑み、衛宮さんは弱弱しく笑った。
「おはよう。少しだけ、いいかな」
コクリと頷くと、衛宮さんはひとつ深呼吸した。
「僕はあなたたちの前に現れないほうがいいと、頭では理解している。だけど、足が動いてしまって」
俺は衛宮さんの気持ちが分かる気がした。だからアドバイス。
「置き去りにしたことを後悔して申し訳なく思ってるからだよ。きっと。でも、気にしなくていいよ。昨日、衛宮さんが自分で言ってたでしょ。前世に囚われないほうがいいって。それはスエにも、衛宮さんにも当てはまるよ」
昨日言われた言葉をそのままお返しした。だけどこれは皮肉ではない。前世との折り合いをつけて生きていかなきゃいけないんだ。
伊藤くんと上原くんに頼りまくってる俺が言うことじゃないかもしれないが。
なのに、俺のせっかくのアドバイスに対し、衛宮さんは弱弱しく首を横に振る。
「そうかもしれない。気にしないでいればいい。そう思い込もうとしたが、ダメなんだ。出会ってしまったら、どうしても考えてしまう。決して二度と置き去りにしないから、だから時々僕とも会ってもらえないか?」
困った。上原くんを横目でうかがう。
すると、上原くんは俺の目を見てニッコリ笑った。
「自分で決められる?」
そんなふうに優しく問いかけられた。俺自身で決めなきゃいけない。俺の人生だから。
俺はどう思うか。スエのこと、衛宮さんのこと。
「時々だったら。でも俺は『ヨル』じゃないよ」
俺はヨルであって、ヨルじゃない。衛宮さんもスエであって、スエじゃない。
「分かっているよ」
ふっと微笑む衛宮さん。スエはこんな顔しなかった。こんな笑顔見たことない。
だけどやっぱり、衛宮さんはスエだって思う。スエじゃないけど、スエ。
ここで待ってると言ったヨルを、スエは今頃迎えに来たのかな?
そんな想像して、「遅すぎだよ」って心の中でツッコミ入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます