第4話 色んな意味で格闘する俺




「いただきま~す!・・・う~ん、美味しい~♪」


 ・・・・・


 女の子って本当に美味しそうにスイーツを食べるよね・・・


 それはもう・・・

 惚れてしまいそうなほどに・・・


 って、何言ってんだ!?

 主人公ヒロインに惚れそうになるんじゃねえよ、俺!!


 ・・・ふう。

 とりあえず、心を落ち着かせて・・・


 明日風さんを見るからダメなんだ。

 見ないようにして、俺もパフェを頂くことにしよう。


 ・・・おお。

 久しぶりにパフェを食ったけど、やっぱり美味いな。


 まあパフェに関しては、この店が特別に美味いという事ではないのだろうけど。


 と、どうでもいい事を考えていると・・・


かいくんって、本当に美味しそうに食べるよね?ふふっ、なんか可愛い~♪」


 ・・・いや、それ、さっきの俺の心の中のセリフ!!

 しかも、余計なセリフが追加されてるし!?


 てか、なんで俺と同じ事考えてんだよ!


 しかも、男に向かって可愛いだなんて・・・可愛いだなんてだな・・・

 喜ぶと思うんじゃ・・・喜ぶと・・・


 ・・・ああ、喜んだよ!!

 喜んじゃいましたよ!!


 何か嬉しいじゃねえかよ!!

 何か来るものがあるじゃねえかよ!!


 いや、ちげえ!

 絆されてんじゃねえ!


 ・・・くそっ!


 明日風さんが俺に接触してから、なんかおかしい・・・

 何かが狂ってきている・・・


 俺が頭を抱えて悩んでいると・・・


「なんか、海くんが美味しそうにそのパフェを食べているの見たら・・・私も食べたくなっちゃったな」


 と、明日風さんが言い出した。


 まあ、別にシェアするくらいなら別にいいか・・・


「あ、ああ、それは構わないけど」


 でも、そのためには新しいスプーンを店員さんに貰わないと。

 そう思って、俺は店員を呼ぼうとしたのだが・・・


「本当!?ありがとう♪」


 と言って、俺のスプーンが刺さったまま、パフェを自分の前に持っていった。


 え!?あれ!?

 ちょ、ちょっと待って!!


 と、止める間もなく・・・

 すでにそのスプーンを持ち、パフェを口に頬張ってしまった・・・


 明日風さんを止めようとした俺の手は、空中で固まってしまう。


「う~ん、このパフェも美味しいねぇ♪」


 そう言って満面の笑みを浮かべる明日風さん。


 そして、その手に持つスプーンは・・・

 クリーム一片も残してたまるものかと言わんばかりに、綺麗なスプーンになってしまっている・・・


 むしろ、まだ使ってないのではというくらいピカピカに光っている・・・

 確実に、スプーンのクリームを取るために舐めたのがわかるほどに・・・


 そんなに綺麗にしなくても・・・


 更には・・・


「ねえ、海くん?美味しいから、もう一口・・・もう一口だけ!」


 と催促してくる始末・・・


「あ、ああ・・・好きなだけ食べてくれ・・・」


 むしろ俺は、もう全部食ってくれと願うばかりである。


 そんな願いも空しく、明日風さんはもう一口パフェを頬張り、やはりそのスプーンは綺麗にされた上で、パフェと一緒に元の俺の場所へと戻ってまいりましたとさ・・・


 ・・・もう・・・もう!!

 ホントにもうやめて!!


 色んな意味で意識しちゃうじゃん!!


 そんな事を考えて明日風さんを見ていたら、俺の視線に気づき察してくれたようだ。


「あ、私ばっかりごめんね。海くんも私のパンケーキ食べたいんだよね?」


 って、ちげえええええ!!


 全く察してなかったじゃん!!

 察しろよ!!


「遠慮しないで言ってくれればいいのに・・・はい、どうぞ」


 遠慮じゃない!

 遠慮じゃないんだよ!!


 そう思う俺の前には、明日風さんのパンケーキが置かれる。


 しかも、明日風さんが使ったフォークは俺のパフェスプーンの時とは違い、これ見よがしに明日風さんが食ったとわかるように主張されたクリームが残っている。


 なぜだ・・・

 そ、それも食えとでも・・・?


 せ、せめて、別の・・・

 別のフォークをぉおおおお!!


 そんな事を考えている俺は、そのフォークを目にしたまま全く動けずにいると・・・


「あ、ごめんね・・・もしかして、同じ物を使うのは嫌派だった・・・のかな?・・・ごめんね・・・私のなんて・・・汚いよね・・・」


 ・・・もう!んもう!!

 違うよ!違うんだよ!!


 貴方のせいで、色々と意識しちゃってんだよ!


 絶対わかってて言ってるだろ!?


 そうは思うものの・・・

 明日風さんの落ち込んだ表情を見ると、はっきり言えない俺・・・


「い、いや、別にそれは大丈夫なんだけど・・・」

「そ、そっかぁ・・・よかったぁ」


 俺の言葉に、明日風さんは本当に安心した表情を見せる。


 いや、そんな顔されたらさぁ・・・

 はあ、諦めるしかないか・・・


 俺は仕方なしに、目の前に置かれたパンケーキを食べる事を決意する。


 明日風さんの使ったフォークを持ち・・・


 そして・・・


 手をプルプルさせる。


 ・・・いや、プルプルさせんなよ!

 俺はどんだけ緊張してんだよ!!


 覚悟を決めろ俺!!


 そう自分を奮い立たせ、ハアハア言いながらパンケーキを一口サイズにカットする。


 ・・・いや、だから!

 明日風さんのフォーク持ってプルプルさせながらハアハア言ってたら、それはもう変態だろが!!


 緊張しすぎだっての!


 俺は心の中で一人バカな事を考えながらも、フォークに口を付けずに何とかパンケーキを口に入れる。


 ・・・ふう。

 何とかミッション成功だな!


 そう思っていた俺は甘かった・・・


「あれ?海くん、せっかくの美味しいクリームがまだフォークに残ってるよ?」


 ぐっ!

 目ざとい!!


 違うんだよ!それはわざと残したんだよ!!

 フォークに口が付かないようにさ!!


 しかし、俺を見る明日風さんは、どうして食べないの?と首を傾げながら目で訴えかけてくる。


 さっき明日風さんを落ち込ませた事もあり、ここで渋るのは気が引ける・・・


 気づかれてしまった以上は、もう覚悟を決めるしかないのか・・・


「あ、ああ本当だ・・・肝心のクリームが残ってたね。クリームが・・・」


 そう、俺はクリームを食べるのである。

 決して、フォークを舐めるのではないのである。


 自分自身にも何度もそう言い聞かせながら、フォークに付いたクリームを食べるべく、フォークを口に入れる。


 そして俺が口から取り出したフォークには、クリームは残っていなかったのである・・・


 俺・・・よくやったよ、俺!

 もう二度と勘弁してほしいが・・・


 俺は本気でそう願う。


「ふふっ、どう?そのクリームも美味しいよね?」

「あ、ああ・・・オイシイネ」


 いや、もう味なんてわかんねえっての・・・


 そう思う俺とは裏腹に、明日風さんは満足そうに笑顔を見せながらタピオカミルクティーを飲む。


 俺は俺で、色んな意味で甘ったるくなった口を洗い流すべく、酸味のあるアップルジュースを飲む。


 そして一呼吸置いた俺は、パンケーキを返そうと思って明日風さんを見ると再び目が合う。


「あ、海くんはタピオカって飲んだ事ある?」

「い、いや、ないけど・・・」


 なんだか嫌な予感が・・・


「やっぱりそうなんだね?飲みたそうに見てたもんねぇ!・・・じゃあ、はいこれ。飲んでみていいよ」


 違う!

 飲みたかったわけじゃないの!!


 パンケーキを返すタイミングを伺ってたの!!


 そうは思うものの、すでに明日風さんによってタピオカミルクティーが俺の目の前に置かれてしまっている。


 とりあえずパンケーキは明日風さんに返したが、タピオカを目の前に動けずにいる。


 俺が躊躇していると、明日風さんはどうしたの?とでも言うように首を傾げていた。


 もう諦めるしかないのか・・・


 そう思ってコップを手にしたのだが、明日風さんは薄く化粧をしているのかストローにグロスが付いている事に気が付いてしまった。


 ・・・いや、余計な事に気づいてんじゃねえよ俺!!

 マジで!!


 そう思いつつ、意を決してグロスの部分を外してストローに軽く口をつける。


 そして軽く飲んだら返そうと思ったのだが・・・

 思いの外・・・ミルクティーばかりで意外とタピオカが上ってこない・・・


 タピオカを吸い上げるためには、ストローを上手いことタピオカに照準を合わせた上で、思った以上に吸い込まないといけなかった。

 俺はとにかく早くタピオカを吸い上げねばと、一心不乱にストローを吸った。


 スポン!


 そしてようやく、ストローの中のタピオカが俺の口の中に飛び込んでくる。


 ・・・ふう。

 任務達成!


 俺は達成感に溢れて、清々しい気分になっていた。


「初めてのタピオカはどう?美味しい?」

「う~ん、美味しいというかなんというか・・・この食感がたまらないって感じかな?」


「ふふっ、だよね♪」

「ただ、何にしても飲むのが大変だ・・・」


「うん、そうなんだよね~。私も飲みたいと思って頼むんだけど、タピオカだけ残っちゃったりしていつも苦労してるんだよ」

「そこまでして飲みたいんだ?俺はたまにでいいや・・・」


「ふふっ、そう?このタピオカとミルクティーを、同時に無くすために頑張るのも楽しみの一つだよ」

「・・・いや、俺は普通に飲みたいよ」


 タピオカと格闘する事に夢中だった上に、明日風さんに話しかけられていた俺は、すっかり忘れている事があった・・・


 それは・・・


 俺が口を離した後のストローが、ふと目に入ったのだが・・・


 ストローに付いていたはずの、明日風さんのグロスが・・・


 なくなっている・・・


 それはつまり・・・


 ・・・・・


 おうふ!!

 マジか!!マジなのか!?


 俺はタピオカを吸い上げる為に、しっかりとストローを咥えてしまっていたのだ。

 それが故に、彼女の咥えた部分に口を・・・


「あはっ、海くんの口にグロスが付いちゃってキラキラしてるよ」


 ・・・・・


 あひゃあああああああ!!


 やめて!

 余計な事言わないで!!


 ただでさえ自分でも気がついたのを誤魔化そうとしていたのに・・・

 なんでハッキリ言っちゃうんだよ!


 っていうか、何で気にしないの!?


 恥ずかしくないの!?嫌じゃないの!?

 俺みたいなやつと関節キスしちゃったんだよ!?


 そんな動揺する俺の心とは裏腹に、明日風さんは楽しそうにニコニコしていた。


 だから主人公ヒロインは嫌なんだよ!!

 こういうイベントがあるからさ!


 平気そうな顔しやがって!!

 もっと気にしろよ!!


 そう思っていると、更には・・・


「あ、ねえねえ海くん!私もそのりんごジュース飲んでみていい?」


 あ、はい・・・

 もう好きにしてください・・・


 もう抵抗する心の気力も無くなり、放心状態と化してきた俺はぐったりとしながら彼女の前にアップルジュースをそっと差し出すのであった・・・



 ・・・・・



 店を出る頃には俺も調子を取り戻してきた。


 うん、もう深く考えるのはやめにしよう!

 どうせ、今日はこれで明日風さんとはお別れなのだし。


 それにもう、こんな事は二度とないっしょ!!


 そう楽観視していると、明日風さんが口を開く。


「はあ~、美味しかったねぇ♪」

「ああ、そうだね」


 正直、あまり味は覚えてないけど・・・


「また今度、一緒に来ようね!」

「ああ、そうだね」


 ・・・


 ・・・えっ?

 ちょ、ちょっと待て・・・


 明日風さんは今なんと言って、俺はなんて答えた!?


 ・・・また一緒に来る!?


 ・・・何言ってんの!?

 俺も何、返事しちゃってんの!?


「本当!?約束だよ!」

「ああ、そうだね・・・」


 もうホント・・・

 俺のバカ・・・


「じゃあ、今日は帰ろっか!」

「ああ、そうだね・・・」


 はあ・・・

 ようやく帰れる・・・


「あのね、海くん?・・・また絡まれたら怖いから、家まで送ってくれる?」

「ああ、そうだね」


 ・・・

 って、だから!!


 俺はなんで、「ああ、そうだね」しか言ってないんだよ!!


 全部肯定しちゃってんじゃん!!


 本当にもう、何やってんの俺!?


 もう条件反射で応えちゃったから仕方ないけどさ・・・


 ・・・・・


 ただね・・・


 一つだけ言わせてもらうと・・・


 僕んはアナタの家とは反対方向なんですけど・・・






 ―――――――――――――――




 あとがき


 お読み頂きありがとうございます。


 他の作品を手掛けている中での、気分転換の為に投稿した作品ですので、一旦ここで打ち切らせて頂きます。

 身勝手で申し訳ございませんが、続きは今書いている作品が完結してからにしようかと思っています。






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クラスメイトに主人公的キャラ!?・・・ま、空気の俺には関係ありませんけど・・・って、あれ? 黄色いキツネ☆ @kitakitsune3

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