第3話 主人公のヒロインは俺に興味あり!?




 いやまあ、本当に拒否権がないわけじゃないんだけどね・・・


 ただ、関わりたくもない主人公様のヒロイン相手とは言え、女の子に強く言えないチキンハートな俺・・・

 なので、俺はただ単に断れなかっただけです、はい・・・


「それで、どこに行くのさ?」

「え~とね・・・最近できたカフェなんだけど、スイーツが美味しいって聞いて気になっていたの」


「ふ~ん、そうなんだ?そのスイーツは何系?」

「色々あるらしいけど、ケーキやパンケーキ、パフェなんかがあるらしいよ」


「へぇ、そりゃ楽しみだ」

「だよねぇ!えへへっ♪」


 俺の受け答えに、明日風さんは楽しそうに笑う。

 よほど、カフェに行けるのが嬉しいんだな。


 って、う~む・・・


 やっぱり不思議だ・・・

 なぜ俺と一緒にスイーツを食いに行こうと思ったのだろう・・・


 そして、俺はなぜ・・・

 普通に受け答えしているんだ?


 謎である・・・


 そんな事を考えている内に、目的のスイーツ店へとたどり着く。


「あ、ここだよ!ここ」

「へぇ~、中々おしゃれだねぇ」


「うん、可愛いお店だよね♪・・・じゃあ、早速入ろっか♪」

「うい!・・・って、ちょ、ちょっと!」


 明日風さんは嬉しそうにしながら、俺の手を取って引っ張っていく。


 おい!

 なぜ、俺の手を取るし!?


 やめて!

 まじで、やめて!!


 ・・・いや、これが俺と同じ空気の女の子だったら、俺も喜んでますよ?

 ウハウハですよ?


 むしろ店に入らず、そのまま2人で夕日に向かって一直線にスキップランランもやぶさかではない!

 やぶさかではないのだ!


 しかし・・・

 しかしだ!!


 主人公ヒロインズは別・・・

 むしろ、俺はある種の畏れしか抱かない・・・


 だから主人公のヒロインが、もうこれ以上俺のパーソナルスペースを侵さないでくれませんか!?


 そんな事を考えながらも、強く拒否が出来ない俺・・・

 俺はそのまま明日風さんに手を引かれながら、泣く泣く入店していく。


 すると・・・


「いらっしゃいませ~!カップル様ですか?」


 と女性店員に聞かれた・・・


 いや、違うに決まってるだろ!

 そもそも2名かどうかの確認じゃなくて、先にカップルかどうかを確認するってなんだよ!


 それは、店員としてどうなんだ!?ああん!?


 大体、明日風さんも俺みたいなやつとカップルなんて嫌に決まっているだろが・・・


 だから俺は否定しようと口を開いたのだが・・・


「あ、いや、ちが「はい!そうです!!」」


 俺の言葉をかき消すように、明日風さんが肯定してしまった・・・


 はっ?この子何言ってんの!?


 俺達付き合ってないよね!?

 むしろ俺達は、今日初めてまともな会話をしたばかりだよね!?


 俺はそんな風に動揺していると・・・


「かしこまりました!本日、当店ではカップル様限定で3割引とさせて頂いております!」


 と店員に言われた。


 ああ、だから店員はカップルかどうかを確認してきたのか。


 ・・・って、店員が確認してきたのはいいとしてもだ!

 明日風さんが肯定する意味がわかんねえよ!


「あ、そうだったんですねぇ!やったぁ!ラッキー!」


 カップル限定3割引と聞いて、彼女はセリフ口調でそう言った。


 ・・・・・ああ。

 この娘、ネットか何かでイベントの事を最初から知ってやがったな?


 それで俺を連れてくれば安くなると・・・

 要は偽装カップルのために連れてきたのだな?


 しかし、そのセリフ口調・・・

 君、役者には向いてませんよ・・・


 ・・・でも、あれ?

 俺である必要はなくない??


 幼馴染くん辰巳とか・・・

 彼が部活で無理なら、彼の親友である松坂渉とか連れてくればよかったんじゃないの?


 さっきも言ったが、初交流の俺を偽装カップルに選ぶ必要ないよね?


 そんな事を考えている内に、店員に席へと通されていた。


「いやぁ、本当にラッキーだったね♪」


 明日風さんは嬉しそうに俺に話しかけてきた。


「いや、最初から知ってたっしょ?」

「え?何の事ぉ?」


 俺が問い詰めようとすると、ニコニコ笑って誤魔化してくる。


 これは本当の事を答える気はないな・・・


「はあ、まあいいけどさ・・・」


 まあ、別にそこは重要じゃないから俺も諦める。


「ねえねえ!そんな事より、何食べるか決めないと♪」


 まあ、そうだな。

 とりあえずは、食うものをさっさと決めるか。


 そこで選んだのが、俺が抹茶パフェと濃厚アップルジュース、明日風さんがイチゴとアイスのパンケーキにタピオカミルクティー。


 甘いものを食って甘いものを飲むとか、流石は女の子だな。

 俺には無理・・・


 とか言いながら、俺もアップルジュース。

 いや、アップルジュースなら甘い中にも酸味があるじゃん?

 だからオケ!


 まあ本当ならコーヒーを飲みたかったけど、アップルジュースの“濃厚”という言葉に惹かれてしまっただけなんだけどさ。


 とまあ、それはいいとして・・・

 店員に注文をして品物が来るのを待っている間に、俺は明日風さんに疑問をぶつける。


「っていうかさ、今日は何で俺を誘ったの?」

「え~?理由がないと誘っちゃだめなの?」


 はい、ダメです!

 特に、貴方の様なヒロイン達はなおさらです!


 ・・・とは言えないチキン南蛮野郎な俺。


 ふん、チキン南蛮は最高なんじゃああああ!!

 チキンをチキンだからってなめんなよ!?


 ・・・いや、俺は誰に何を言ってんの?


「い、いや、ダメな事はないけどさ・・・」

「ふ~ん?・・・でもそれ、本心じゃないよね?」


 なぜわかるし!?


「海くんさぁ・・・明らかに私達・・の事避けてるよね?」

「えっ!?い、いや、そんな事はないけど?」


「まあ、避けているというか、出来るだけ関わろうとしないようにしているという方が正しいのかな?」

「・・・・・」


 ばれてるし・・・

 いや、ばれてるからどうだという事はないのだが・・・


 しかしわかっているなら、なぜ俺に関わろうとするんだ!?


「海くんが何でそうしているのかはわかんないけど、だからこそ逆になんか気になっちゃってたんだよね~」


 ・・・もしかして、今までの俺の行動は全くの逆効果だったのか!?

 関わろうとしない事が、かえって彼女の興味を引いてしまったのか!?


「そこに、昨日の事があったからなおさら・・・ね」


 くっ!

 昨日の不良共め!


 あいつらも原因の一つかよ!


 絶対に許さねえ!!

 覚えておけよ!


 俺の恨みは深いからな!!


 と、二度と会う事はないだろうとわかっているため、強気で不良達に怒りをぶつける。


 そんな事を考えている間に、頼んだ品物が運ばれてきた。


「わぁ~、美味しそう!」


 明日風さんは、そう言いながらスマホを取り出して写真を撮り始めた。


 はあ、くだらない事ばかり考えていても仕方がない・・・

 俺も彼女にならって写真撮ろう!


 おほぉ・・・

 アイスと抹茶と生クリームのコントラストが絶妙ですなぁ!

 さらに抹茶ゼリーと白玉が良いアクセントになっておりますよ!


 ・・・って、俺ナニモンやねん!!


 バカな事を考えながら、俺も写真を撮っていると・・・


 ・・・・・


 なんか・・・

 なんかさぁ・・・


 俺の視野に入る明日風さんも、写真撮ってるんだけどさぁ・・・

 そのスマホの角度・・・


 おかしくね!?


 彼女のパンケーキは下にあるのに、どう考えてもスマホは立てた状態でパシャパシャ鳴ってるよね!?


 そう考えて、俺は恐る恐る明日風さんへと視線を移すと、それに合わせて再びパシャっという音が鳴る。


 おい!

 やっぱり俺を写してんじゃねえか!


 肖像権侵害で訴えるぞ、こらっ!


 ・・・

 とは口が裂けても言えない僕・・・


「ね、ねえ、ちょっと・・・撮るのはパンケーキだろう?何で俺を撮ってんだよ・・・」

「え~?だって、普通は友達とこういう所に来たら写真撮るでしょう?」


 うん、まあ・・・

 それは友達と来た場合ね?


 俺と君は、いつ友達になったのかな?


「あ~、その顔は私とは友達じゃないと思ってるでしょう?」

「い、いや、そんな事は・・・あるけど」


 あ、やべ!

 正直に応えちゃった・・・てへっ!


「いや、自分で言っておいてなんだけどね・・・あるんか~い!!」


 俺の言葉に、明日風さんがツッコミを入れる。

 しかし、次の瞬間には・・・


「って、まあ・・・それはそうだよねぇ」


 と、笑顔を見せながら肯定する。


 うぬ、よかった。

 明日風さんにも、ちゃんとした常識が備わっているらしい。


 だって、今までの俺達のやり取りで、すでに友達になっていたなんて要素はどこにもないもんねぇ。


 まあ今は、意味不明に偽装カップルにされてしまっていますけど・・・


「でも、今まではそうだったかもしれないけど、こうして関わったからにはこれからは友達にはなれるよね?」


 ・・・くっそぉ!

 そんな聞き方は卑怯じゃん!


 関わりたくないからといって、ここで俺が否定したら・・・

 俺はただのクズ野郎じゃん!


 だから・・・


「あ、ああ、うん。それはまあ・・・」


 と、答える。


 とはいえ、完全に肯定するのは気が引ける。

 だから、多少濁すのは許して頂きたい。


「うん、だよね!よかったぁ!」


 俺が濁したにも関わらず、それを気に留める事も無く本当に嬉しそうに満面の笑顔を見せる。


 ・・・くそっ!


 さすがは主人公様のメインヒロインめぇ!!

 その反則級の笑顔は卑怯だぞ!!


 しかもさっきまでの、俺の表情や態度から察していた鋭さはどこにいったよ!?

 今こそ俺の気持ちを察しろよ!


 つーか、間違いなく確信犯だろが!!


 そう思う俺に、更にニコニコと笑顔を向けてくる。


 ・・・


 はあ、わかったよ・・・わかりましたよ!


 もう、諦めますよ・・・

 特別仲良くなろうとは思わないけど、無理に距離を取るような事はしませんよ・・・


「うんうん、納得してくれたようでよかったよ!じゃあ、早速食べよう?」


 納得したわけじゃないんですけど・・・


 ま、まあいい。


 もう深くは考えず、明日風さんの言うようにとりあえず食べる事にしたのである・・・



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