序幕~開幕は光から3

 










「なに? どうしたの…?」


 本来ならば地下神殿に描かれている魔法陣の中でしか姿を現さない『その者』。

 少女は『その者』へと尋ねるべく瞳を空へと向け、語りかける。

 優しく穏やかな口調はまるで猫や犬に語りかけるかのよう。

 だが直後。

 突如少女は首筋に両手を添えた。

 添えた、というよりも自分で自分の首を絞めていた。

 驚愕する二人の男は即座に少女の手を首から引き離そうと、その腕を引っ張る。


「何やってんだ、死ぬ気か…っ!?」


 しかしその腕はまるで少女のそれとは思えないほどの力が加えられていた。

 初老の男性はともかくとしても、無精ひげの男は力にそれなりの自信があったというのに、だ。


「ど…して……あな…た……ぐっ…!」


 苦しむ少女の顔色は見る見る青白くなっていく。


「な、んつー馬鹿力だッ…ぐぅ!」

「おね、が…だす、けっ…て……!」

「安心せい! 絶対に助ける…!」

「じいさんがよく言うぜ…んんっ!!」


 無精ひげの男は渾身の力を込めて少女の腕を引っ張った。

 彼女の腕がどうなってしまおうと構わない、というほどの力だ。

 すると、彼女の両手はようやくその首から離れた。

 少女は力無くその場に倒れた。

 勢い任せに引っ張った男、そして初老の男性までもその反動で尻餅をつく。

 騒然となる周囲。

 兵士たちは焦燥と恐怖を抱きつつも、恐る恐るながら三人の傍へと駆け寄る。


「ベルフュング大将!」

「アグオン殿もお怪我はありませんかっ!?」


 と、近づこうとする兵士たちへ掌を出し、制止させる。

 ベルフュングと呼ばれた無精ひげの男は息を粗くさせながらゆっくりと起き上がった。

 同時に初老の男性もまた兵士たちに支えられながら身体を起こしているところだ。

 そして、肝心の予言者の少女は―――。


「大丈夫かっ!」


 兵士の一人に抱きかかえられる少女。

 元々白い肌がより一層と青白く染まっている。

 そして、開いていたはずの双眸はいつの間にか閉じられていた。

 すると彼女は囁くような声で話し始めた。

 切れ切れの掠れた声で彼女は語る。


「百年後…世界は………終わる…」


 その場にいた兵士を含めた男たちの顔が凍り付く。

 少女の言葉に困惑と恐怖を抱かずにはいられない。

 それは彼女が唯一の存在たる予言者だからこそ、だ。

 その場にいる兵士たちもまた彼女がそう言った人物であることは知らされていた。

 無精ひげの男ベルフュングは少女に駆け寄ると静かに片膝をつけ、耳を欹てる。

 彼女は静かに、まるで最期の力を振り絞っているかのように話しを続けた。


「天使が…再…誕………」

「天使? 天使ってあの天使か?」


 天使。

 それは彼も昔に伝記―――御伽噺で聞いた程度の名だった。








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