序幕~開幕は光から2











 予言者の少女―――彼女の一族は代々、王権国家が繁栄していた古の時代から国のために仕えていた。

 かつては『神子』とも呼ばれていた。

 先代であった祖母が老衰し、その後を継いだのが彼女というわけだ。

 彼女は幼いながらに、歴代最高の逸材と言われている。

 それはまるで神と対話をしているかのようで。

 そして詳細に至るまでの的中率なのだ。

 故に、世界で唯一未来を見ている存在とまで称されるほどだ。

 世の政が王権から軍へと移行した現在も、少女はその特異な身の安全を保障して貰う代わりに、新たな国家の繁栄を願い預言を授けている。

 少女が預言を始めて7年と経っているが、付添い人として側にいる男二人も彼女の預言には毎度、感嘆していた。


「こんなに当たるなら年一回と言わず、毎日見てほしいもんだな。明日の天気とか」

「滅多なことを言うもんではない。神より授かりし力は多用なれば寿命を縮めるとの話だ…」


 相変わらずの軽口を叩く無精ひげの男に、初老の男性は一睨みする。

 それから男性は少女の手を引きながらこの地下神殿を後にする。

 一人、その場に取り残された男はその無精ひげを掻きながら「先代の預言者さんは百歳越えの大往生だって聞いたがな」と溜め息を漏らした。






 何処までも続くかと思うほど長い螺旋階段を登る三人。

 灯りは先頭を歩く無精ひげの男が持つランプのみ。

 後ろに続く初老の男性は預言者の少女の手を引き、ゆっくりと階段を登っていく。

 そうして地下神殿から出てきた三人を迎え出たのは数人の警備兵と、そして輝かしい太陽と青い空だった。

 思わず目を細めてしまうほどの強い光。

 それは瞼を閉ざしている少女も感じてはいた。

 ーーーと、次の瞬間。

 少女はその双眸を見開いた。

 それは預言をするときに見せる現象と同じであった。

 男たちは突然立ち止まり、その瞳を見せている少女の状況に驚く。

 彼女が予言以外に瞳を開けることは今まで一度もなかったことだからだ。


「お、おい…」

「どうしたのじゃ…?」


 直立不動の少女に動揺を隠せず、二人の男は少女の様子を伺う。

 しかしその肩を揺さぶっても、声を掛けても彼女は全く反応しない。

 二人に気付いていない、といった様子であった。

 そもそも、彼女の瞳は輝きこそ宿しているものの、その目には何も見えはしない。

 映るのは明暗、光か闇。

 そして、予言を授けるという『その者』の姿だけ。

 彼女が瞳を開くとき。

 それは、予言をくれる『その者』と語り合うときだけなのだ。








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