第10話

 部屋に、二人だけの時間が流れる。エミリはまさかの事態に、心臓は早鐘を打ち、顔は真っ赤である。


 ゆっくりと、暁斗がエミリに手を伸ばす。


 ぴと、と優しく首を触り、ゆっくりとその手を頬まで持っていく。


「……っ、んっ……」


 それが、妙にくすぐったくて、口から甘い吐息が漏れる。暁斗に触れられた部分が、優しくも確かな熱を感じる。


 でも、恥ずかしくて暁斗の顔を注視出来ないエミリは、瞼を閉じて感触に耐える。こうして触れられているだけで、どうにかなりそうだ。


「……こうして、俺から触れることはなかったな」


 ポツリと呟く暁斗。確かに、いつもアクティブなのはエミリで、暁斗はそれをただ受け止めていただけ。買い物とかで自ら手を差し出すことはあるが、責めるのは常にエミリだ。


「……エミリ」


「アキ――ひうっ」


 首を撫でられる。変な感覚に体がピクっと反応する。それを見て、暁斗の心臓は更に高鳴る。


(……やばい、可愛い……)


 ほんの少し、魔が差した暁斗は、首からゆっくりと手を正面に回し、鎖骨へと触れていく。


「んっ……アキト……」


 エミリは、ゆっくりと瞼を開き、暁斗と目線を合わせる。その目からは、少しだけ涙目になっていた。


「……可愛いよ、エミリ」


「……っ、あ、アキト……Peinlich恥ずかしい……」


「恥ずかしがらなくていい、もっと、顔見せて……エミリの可愛い顔を、もっとみたい」


 エミリが手で顔を隠そうとしたが、暁斗はそれを阻止。手をしっかりとつかみ、指を絡めてベッドに押さえつけた。


「……その、エミリ……ごめんな。お前の気持ちに気づいてやれなくて」


「………え?」


 突然のセリフに、エミリの目が点となる。


「ちょっと調べたんだけどさ……ドイツって告白の文化がないんだってね……全く、恥ずかしい限りだな。俺は、こんなにも可愛らしくて健気な人の好意を袖にしてたんだから」


「あ、アキト……?」


 急すぎる展開に、エミリがついていけていない。ちなみに、この文化のことを暁斗に教えたのは花音である。さっき、暁斗の元にメールが届いた。


「……俺さ、そういう雰囲気とかで察せとか苦手だからさ……直接、言葉と行動で伝えるよ」


「あ、アキ―――――んむっ」


 優しく、上から堕ちる唇に塞がれる。一瞬、何をされたかエミリは気づかなかったが、キスをされていることに気がつくと盛大に混乱した。


(……き、キス!?わ、私、アキトとキス……!)


「んっ……んんっ……」


 軽いリップ音と水音が部屋支配する。特に技術のあるキスというわけでしないが――――暁斗の心を伝えるのには充分である。


「好きだエミリ。愛してる。俺と結婚してくれ」


「けっ!?」


「あ」


 色々、飛ばしすぎたようだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

付き合ってからももう少しだけ続くんじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る