第8話

「さてエミリちゃん。乙女緊急会議をしよっか」


plötzlich急にwas!?」


 賢治が暁斗の口から恐ろしい(?)ことを聞いた三日後。とある空き教室に四人の姿がいた。


 その内の一人は当事者である立川エミリである。その目の前にいるのは、クラスがそれぞれ違う女子たち。


 エントリーナンバー一番。エミリをこの教室に呼び出した黒柳菜々美である。いつものギャルっとした雰囲気は淀の川にでも捨て去ったのか、いつもより真面目である。


 エントリーナンバー二番。ドイツからの帰国子女、花見坂花音。賢治から思わぬことを聞き、エミリ、暁斗両名の友達である菜々美に招集をかけるように仕掛けた元凶。


 そしてラスト、エントリーナンバー三番。九条智和の彼女である松田絢香まつだあやかである。黒髪ツインテールに、黒色の瞳と、保護欲が湧き上がってしまうほどの可愛らしい容姿をしている。


 そして、先程花音が言った乙女会議の議題は――――


「……あの、皆?」


「………エミちん。驚かないで聞いて欲しいんだけどさ……告白してないってマ?」


 ――――暁斗が漏らした、この二人実は付き合ってないということに関してだった。


 そして、ここにいる三人は、どうにかエミリと暁斗をくっつけようと集まった人達である。なお、賢治は現在暁斗を足止め中である。


「……え?うん」


 もちろん、エミリの返答はYESである。


「………かのりんから聞くまで信じてなかったけど、確定か……」


「ですね、まさかドイツに告白の文化がないとは……」


「?」


 菜々美と絢香が頭を抱えていることに首を傾げるエミリ。そんなエミリに、花音がガシッ!と肩に手を置いた。


「エミリちゃん。エミリちゃんにとって立川くんは好きな人?」


「Ja。私、アキトのこと大好きよ。将来、私たちはフウフになるの」


「うんうん。その思いは素晴らしいわ……でもね、エミリちゃん。立川くんはね……どうやらエミリちゃんの事をLiebhaber恋人と思ってないのよ」


「………Was!?」


 エミリは、座っていた椅子をガタン!と倒してしまうほどの勢いで立ち上がった。


「どっ、どどどどういう――――」


「落ち着いてエミリちゃん!でも、直ぐに恋人になる方法はあるわ!」


「!」


 花音の言葉に落ち着きを取り戻したエミリ。まさかの事態に目尻には少しだけ涙が浮かんでいた。


「エミリちゃん……あなた、今すぐ告白をしてきなさい」


「こく、はく……」


「エミちん!このままだったらアキちんのこと取られちゃうよ!」


「!それは嫌!」


「ならば、告白をするのですエミリさん!このままだと、――――自主規制もできないんですよ!」


「「絢香さんなんてこと大声で!」」


 まさかのセリフが絢香の口から飛び出た。


「……でも、告白とかどうすればいいか分かんないよ……」


「エミリさん。自分の気持ちを、正直に暁斗さんに言えばいいのです。大好き、私と付き合ってくださいって」


「アヤカ………」


「さぁ、行くのですエミリさん!暁斗さんは教室に居ます!賢治が足止めしてますから!」


「うん!」


 そして、エミリは暁斗の待つ教室へ走る。その場に居残った三人は――――


「ここで議題です。エミリちゃんは無事に告白できるかどうか」


「「うーん…………多分無理?」」


 ――――新しい議題が生まれ、即座に判断がされた。


 場所変わって暁斗。賢治になんだかんだ「まぁまぁ」と言われ続けること30分。夕暮れの日差しが教室に舞い込んで来た頃に、ガラリ!とほぼ無人の教室に扉が開く音が響いた。


「エミリ?」


「やっと来たか……んじゃ、俺ちょっと行くから……ちゃんと答えてやれよ、暁斗」


「賢治?」


 エミリが現れると同時に姿を消す賢治。その態度に勿論気にしまくりだが、エミリ優先なため、膝に手を着いて息を整えてる彼女の元へ向かう。


「エミリ、大丈―――」


 ぶか?という前に、暁斗はエミリに勢いよく抱きつかれる。急なことだったため、体勢を崩した暁斗は、咄嗟にエミリの事を抱きしめながら尻もちを着いた。


「いてて……エミリ?一体どうし―――」


「アキト」


 その三文字が、暁斗の口をとじらせる。何故か、口を挟んではダメだと、そんな気がした。


「わ、私……アキ……アキトのことが……i……ich liebe 愛して――――~~~~っ!」


「え、エミ―――」


Peinlich恥ずかしいUnvernunft無理!」


「お、おい!?エミリ!?」


 そして、三人の予想通り、エミリは告白をすることが出来なかった。


(……逃げたわね)


(逃げたね)


(逃げましたわね)


 そして、その三人は通路の角からまるでトーテムポールのように顔を覗かせていて見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る