第7話

「よっ、お疲れさん」


「賢治」


 二年生になってから一週間がたった。長月学園では、新学期が始まってから直ぐに、親交を深めるためのレクリエーションという名の球技大会がある。男女別で別れていて、全員強制参加のドッチボールと、バレー、バスケット、卓球のどれか一つに出なければならない。


 暁斗は、バレーにエントリーしたエミリの勇姿を見たかったので、卓球に出て適当に負けた。それからずっとエミリの姿をこの目に焼き続けており、目線が会うと満面の笑みで手を振ってくる。


「それで、バスケはどうだった?」


「準優勝。あと少しだったんだけどなあー」


 悔しそうに呟く賢治の言葉を聴きながら、座っているベンチから一人分横にズレる。賢治が「さんきゅ」と言って空いたスペースに座った。


 その瞬間、体育館にわぁぁぁぁ!!という歓声が響き、時々「えみりちゅぅわ〜ん!!」という野郎の気持ち悪い声まで聞こえる。どうやら、エミリが見事なアタックで点を決めたようだ。


 それを聞いて暁斗は眉を顰めた。それを見た賢治はため息をついた。


「立川さんは人気者だな」


「どうした、藪からスティックに」


「ま、立川さんはお前に心底惚れ込んでるから、誰かに取られるということは無いだろうが」


「………お前は何を言ってるんだ?」


「?だってお前と立川さん付き合ってるんだろ?いやぁ、義理の兄妹だけど、血が繋がってないならOKだから、俺は全力でお前と立川さんの―――」


「……俺とエミリは付き合ってないぞ」


 その言葉を聞いて、賢治の周りは一瞬時が止まった。しかし、直ぐに復活をすると「はぁぁぁぁぁ!!」と大声を出した。


「お、おまっ……!あれで付き合ってないってまじか!?」


「まじだよ。だって告白されてないし」


「……え、まじ?されてないの?」


「おう」


 暁斗は賢治から目線を逸らしてエミリをバレーをしているエミリを見る。


「俺だって最初は――――義理の兄妹になって三ヶ月後位から、ボディタッチが激しくなったことには気づいていた」


「お、おう……」


「その行動にあれ、もしかしたらエミリ、俺のこと好きなんじゃね?と思ったよ……思ったさ。それを意識してからエミリと触れ合うことがやけに気恥ずかしくなったし……当然、エミリのことは異性として好きになった時期もあった」


 だけど、と暁斗は言葉を続ける。


「エミリはさ、抱きついてきたり手を繋いできたりすることはあっても、いつまでも経っても告白をしてこなかったんだ」


「……じゃあお前から告白すれば良かったんじゃね?」


「………ハッ、そんな勇気俺にあると思うか?」


「ヘタレか貴様」


「ヘタレだわ!お前、これで勇気出して告白してVerzeihungごめんなさいなんて言われたら死ぬぞ俺は!?明日からそれで家族間の仲が微妙になったらどうしてくれんだおめぇ!」


「俺は毎日その状態だがな」


 ベンチから立ち上がって叫ぶ暁斗。体育館全体が騒がしいため、誰も暁斗に目はむけなかった。


「んで、ぶっちゃけ立川さんとベッタベタにスキンシップ取っているお気持ちは?お兄さん」


「お兄さんと呼ぶな。ぶちのめすぞ」


「俺に彼女いるの知ってんじゃん……」


 明らかなシスコ―――シスコン?宣言に呆れた声を出す賢治。


「それで、スキンシップだったか……勿論、嬉しいに決まってんだろ。あんな美少女と毎日毎日手を繋いだり腕組んだり、ハグしたりとか……嬉しいに決まってるんじゃん?お前、俺がどれだけ『これはただのスキンシップ』って自己暗示させるのに時間使ってるか分かるか?」


 はぁ、とため息をついてベンチにもう一度座り込む暁斗。簡潔に言うならば、暁斗はただ『痩せ我慢』をしていたに過ぎないのであった。


「……じゃあさ、結局立川さんのことは『好き』ってことでいいのか?」


「……どうだろうな。昔なら即答で好きと答えられていたんだろうが、今はその好きと家族に向ける好きがゴッチャになって分からん」


「………」


 暁斗が頭をかく様子を見て「これは重症だな……」と心の中で呟く賢治。


(……そうなれば、今度は俺の番かね)


 賢治は、暁斗に恋愛相談をした時の恩がある。


(今回は、俺がやりますかね。暁斗と立川さんをくっつけるために……まぁ、めちゃくちゃ簡単そうだけど)








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今更ですが、これは長く続きません。続いて20話程度で、下手するともっと短くなります

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