第3話

 時たま食べさせ合いをした後に、並んで食器を洗う二人。歯磨きをした後にそのまま学校へと向かう2人。


 今日は、二年生になってから初めて通う学校。去年はお互いに別クラスだったので、今年は一緒のクラスになれるといいね。なんて会話をしながら登校する。


 その間、勿論二人はしっかりと手を繋いでいる。しかも、指と指をバッチリと絡めている恋人繋ぎである。


 ひとつ言うならば、暁斗から自分でやったことは無いが、エミリは嬉しそうだし、なんなら暁斗自身も触れ合えるので普通に嬉しい。ただ、暁斗はこれを、外国風スキンシップとしか思っていないことが残念であるが。


 二人が通う高校は、公立長月学園。公立であるにかかわらず、校則がなかなか緩いことで有名である。しかし、治安が悪いという訳ではなく、無闇に生徒を校則で縛りたくないという思いからである。


 二人が学校に辿り着くと、一瞬は視線を集めたが直ぐに「なんだ、いつものか」と視線を逸らした。二人の関係はもはや見慣れたものであるため、入学したての頃のように騒ぎ立てる人はいない。


 そして、そんな二人に話しかける猛者が一人いる。


「チョリーッス!立川兄妹!おひさー!」


「おう。おひさ」


Lange nicht gesehen久しぶり!ナナミ!」


「イエーイ!アキちんとエミちん相変わらずラブラブだね!ヒューヒュー!」


 一世代前のギャルのような喋り方をするこの女子の名前は黒柳奈々美くろやなぎななみ。髪を金髪に染めており、ピアスもバッチバチに開けており、制服も見事に気崩している。


 さらに、びっくりするほどユートピアな肌の黒さ。一体日本のどこにいたらそんなに焼けるのかという程の黒ギャルである。


 だがしかし、見た目とは裏腹に友達とかめっちゃ大事にするし、授業も真面目に受けるし、去年は学校を一度も休んだことも無い数少ない皆勤賞の優等生である。


 そんな三人が話している場所は正に魔境。周りの人は「やべ、関わらんどこ」と思っていそいそと校舎の中へ入っていく。


「春休み中二人はなにしてたん?私?私はめっさチョベリグな出来事が――――」


「話すのはいいけど、まずはクラス分け見に行かないか?」


「Ja。アキトに賛成」


「それもそうだね!それじゃ、バイブスあげてこー!」


 元気満々にクラスが張り出されている場所へ向かっていく奈々美。その姿を見て、暁斗とエミリは顔を合わせて笑い合う。


「アキちん!エミちん!」


「はいはい、今行くよ」


「少し待ってね」


 ブンブンと手を振る奈々美の後を追い、玄関前へと向かう。紙の前まで辿り着き、暁斗達は自分の名前を探し出す。


「立川……立川……あ、黒柳発見」


Eins1組……ナナミは別クラスね」


「あちゃ~マジ萎えだわ……。テンションダダ下がり~」


 前で肩を落としてガックリとする奈々美。だがしかし、二人はそんな奈々美を一旦無視して名前を探す。


(立川……立川……あ、いた)


Entdecken!見つけた


 暁斗が発見したのと、エミリが声を出したのはほぼ同時。暁斗のすぐ下には、エミリの名前がキチンとあった。


 つまり、今年は同じクラスである。それと同時に、二人と同じクラスになった人は二人のイチャイチャを休み時間毎に見ることになることが決定した。なにそれ軽い地獄。


 イエーイ!と一旦繋いでいる手を離してからハイタッチをする。そんな二人を奈々美を恨めしそうな目で見た。


「いいなぁ、二人は同じクラスで」


「別に、お前友達たくさんいるじゃん」


「そうだけど、二人のやり取り見てたいじゃん」


「ま、来年に期待ということで」


「んー……どんまい?」


「こんちくしょー!!二人が嫉妬するくらい別の友達と仲良くしてやるかんなー!」


 二人を置いて先に校舎の中に入る奈々美。


「……やっぱあいつ、面白いな。一緒にいて飽きん」


「Ja。見てて楽しい」


 そんな奈々美を見て、二人は「やっぱりおもしれー」と彼女の存在を再認識したのであった。

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