第8話 清祓(せいばつ)
「ふ、風神様、雷神様。」
お爺さんがごくりと唾を飲む。
らいちゃんと呼ばれた方は、僕の方へ視線を向け近づいてくる。
「あんたがご主人様なの!?」
「そ、そうだけど。」
なんだ。この上から目線。
「今回のご主人様弱っちそうね。」
「ダメだよ。ご主人様にそんな事いっちゃ。謝った方がいいよ。」
「なんで謝るの。だって、ホントにそう思ったんだも~ん」
ぴゅーっと黄色い方の式神が飛んでいく。
「あ、こら!」
薄い緑色の式神も追いかけていく。
僕の式神が勝手に僕を品定めして、追いかけっこして遊んでいる。
「自由だなぁ。」
式神って、こんなのもいるのか。
僕はコミュ障だから、狐虎みたいな落ち着いた動物タイプの方が良かったなと思った。
お師匠様に救いを求め視線を向けると、茫然としていた。
お師匠様に声をかける。
「お師匠様どうしたら戻せるんでしょうか。」
お師匠様ははっと我に返ったようだ。
「呪符を出し、戻れと念じればよい。その前に隻眼を凝らして視よ。」
「はい。」
★☆★☆★☆★☆★☆★
五行特性 陽の木
十二支属性 辰
レベル 1
☆★☆★☆★☆★☆★☆
「確認したら、戻してよいぞ。」
言われたとおりに呪符を出し、念じる。
「え、ちょっと、」
まだ、遊びたりないよと不満を言いたそうな表情を見せたが、二人は光の束となり呪符に吸収された。
一通り落ち着いたので、茶道室で今回の反省会をする。
「マ、まじで!?」
慈照君も驚きが隠せないようであった。
「お主が出した式神は風神、雷神。木属性希少種、神に近い上位精霊だ。」
と、お師匠様から伝えられた。
おぉ、なんとなくすごい式神を出したことはわかった。
「初めての式神降臨であのレベルの精霊はあり得ない。才ある者が長年の修行の末に降臨できるかどうかの式神なのだ。」
「降りる式神の強さは召喚呪師の潜在的呪力と時代の流れが影響する。」
「時代の流れ?」
「そうだ。平和な時代には呪力の強い式神は降りづらいとされる。世の中が動乱の時代には、強い式神が降りてくる。
また、悪霊にもそれは当てはまり動乱期には強い悪霊も降りやすい。世界は陰と陽のバランスを保つのだ。」
「強い式神が降りたという事は時代が大きく動いていく兆候とも考えらえる。聖護君はこの動乱の時代の流れがくるなかで、大きな役割と使命を持っているかもしれない。」
「偉大なる力には、偉大なる責任が伴う事を忘れず精進するのだ。」
お師匠様はいつになく真剣な眼で僕を視た。
「はい!」
それほどまでに、大きな力を僕は得てしまったのであろう。この力、早く使いこなさないと。
そうして、僕たちの修行は終わり東京に帰る事となった。
お師匠様が帰り際に何かのケースをくれた。
「お主専用の特注の呪具だ。」
小さな木箱を渡してくれた。
「ありがとうございます!中を開けていいですか。」
「もちろんだ。」
木箱の中には、黒いガラスで作られた眼帯があった。
「これは外から見るとただの眼帯だが、お主からは薄く視えるようにしておる。その眼の呪力を抑える効果もあるので、疲れんですむだろ。」
「お師匠様、ありがとうございます!」
これからの東京生活も気遣ってくれた優しさに目頭が熱くなった。
「気にせんでよい。」
「慈照、お主にもある。」
「え!俺にもあんの!?」
お師匠様は、慈照君にも木箱を渡す。
中を開けると、黒い数珠だった。
「これは?」
慈照君が尋ねる。
「これは、お主と狐虎の霊感知能力を向上させる呪具だ。」
「聖護君も聞いてくれ。これからはお主らは式神を養う義務があるのだ。だが、まだ上位の悪霊を祓う力はない。」
「そこで、下位の悪霊(4級以下)を祓うために慈照の感知能力を上げておる。二人で協力して東京の悪霊を祓いなさい。陰陽呪術高等学院【通称:いん】の入学試験は2月15日だ。それまで己を日々研鑽するのだ。」
「はい。」
僕と慈照君二人で返事をした。
「お師匠様、僕はまだ術式を使えませんが、」
「術式は覚えるものではない。心の中、潜在意識にあるイメージが具体化されていく。困難と向き合った時、正しい心であれば自ずと術式を体得していくであろう。」
「はい!」
そして、帰りの新幹線で知るのだが、慈照君のお父さんは裏稼業で清祓(せいばつ)の斡旋業もしているらいし。清祓斡旋業とは穢れの案件を呪師に紹介するのである。
お師匠様から話も通して頂いているようで、下位悪霊の案件などを僕たちに情報を流してもらえるようだ。呪師としてデビューするまで、そうやって式神を養う事となった。
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