第7話 雷風
「聖護!どうやった!」
「うん。なんか凄かった。」
「式神はでたんか?」
「いや、何もでてこなかったよ。」
「そうか。タイミングは人それぞれやからな。」
「でも、30 日で式神降臨の儀までできてよかったな!明日から胆識の修行や!」
「うん。」
「俺も久々の胆識修行や!気合入れるで!」
そのまま布団に入った。
慈照君ほどではないが、僕も寝付きがかなり早くなった。
そして、朝の掃除ルーティンを済ませ胆識修行1日目を迎えた。
「では聖護君、呪符を出せるか。」
「どうやって出すんでしょうか。」
「手に呪符を持ってるイメージをして念じればよい。」
「はい!」
呪符をイメージしてみた。手には呪符が現れた。
だが、その呪符は2枚あった。
「お師匠様。2枚ある。」
隣で慈照君が驚いていた。
「2枚だな。」
お師匠様も驚いていた。
「2枚はよくないんでしょうか。」
二人の反応が良く分からなかった。
呪符が2枚と言う事が珍しいという事は分かった。
「2枚あることはええ事やで!、、けど。」
「式神によっては、2枚同時使用は呪力供給が間に合わなくなる事もある。」
お師匠様が説明を補ってくれる。
「呪力消費が激しいって事は僕の呪力を鍛えればいいってこと?」
「そうっちゃ、そうやけど、」
なんとなく、慈照君の歯切れが悪い。
「式神は呪力を喰うと伝えた事は覚えておるか。」
お師匠様が、慈照君の代わりに言い切ってくれた。
「式神を宿すという事はその責任も背負う事となる。」
「例えば、ご飯を食べさせてもらえない子供はどうなる。」
「死ぬという事でしょうか。」
「それもあり得る。だが、飢餓に苦しむ子供たちがどういう生活をしてどんな大人になるか想像できるか。」
難民の子供や、ストリートチルドレンなど学校で学んだ知識を想像してみる。
「生きるために、盗みや強盗など犯罪を犯すという事でしょうか。」
「そうだ。似たような事が式神にも起こるという事だ。」
「飢餓状態の式神は、時に暴走する事もある。悪霊になる事もあれば、使い手である呪師の命を食らうこともあるのだ。精霊と悪霊は紙一重の存在だ。」
「式神を二枚持つという事は、それだけの義務があり責任も重くなるという事だ。」
「呪力を食べさせるという事は、穢れを祓い続けねばならないという事でしょうか。」
「その通りだ。お主に宿した式神はまだ眠っておる状態だ。今なら引き返せる。」
「そうやで、無理する必要無い。俺は聖護がどっち選んだとしても友達である事は変わらんからな。」
慈照君が僕を気遣ってくれた。
何も怖いと感じなかったが、ふと、自分がここにいる理由を思い返していた。
そうだ。
すべてはあの河原から始まったんだ。
たしか、僕はあのお爺さんと【3つ】の約束をした。
あの絶望の中で、光が差し込んできた光景を思い出す。
「人を助けること。」
「友を守ること。」
「自分に正直であること。」
河原のお爺さんの言葉がフラッシュバックする。
そして、慈照君にお師匠様。僕を勇気づけ励まし、強くしてくれた。
今、僕がここにいる理由が腑に落ちた。
「僕は大丈夫です。」
死にたいと思って過ごしていた毎日だった。
だけど、僕は誰かのために生きる事ができるんだ。僕はもう無力じゃない。
多くの人を助ける事ができるんだ。
「聖護君。良い眼をしている。」
お師匠様は、昔の事を思い出すかのようにつぶやいた。
「誰もいつ死ぬか自分の寿命などわからない。明日死ぬことだってあり得る。だからこそ人は魂のままに、あるがままに強く生きたいと願う。」
「聖護君なら大丈夫だ。君は良い呪師になれる。」
「俺も負けへんで!」
隣で、元気よく慈照君が励ましてくれた。
こんなに人に勇気づけてもらったのは初めてだ。
僕の心の中で、熱い何かを感じた。
「よし。聖護君の式神を起こす前に呪力を解放しよう。」
「まず聖護君の属性を知らんとな。」
「これに呪符を写してみい。」
お師匠様は八角形の銅板に丸い鏡が入ったものを僕にむけた。
後に知るのだが、八卦鏡という呪具である。
呪力の効果を高めたり、呪具の特性を見るために使うものらいし。
僕は、そこに札を写す。
呪符は緑色に光っているように見えた。
「緑色に輝いて見えます。」
「木属性やな。」
「うむ。」
「自身の式神属性により、呪力の感じ方がそれぞれ違う。」
「木属性の呪力イメージを伝える。」
お師匠様から教わった、木属性の呪力イメージはこうだ。
まず、自分自身を大木と捉える。
大木が地下深くに根を張り養分を吸収するように、大地の奥深くから気を吸い取るイメージをする。
そして、一つ一つの葉が呼吸をするように、口だけでなく体全体で気体の出入りを感じるように自然と一体となるイメージをする。
そして、太陽の光を浴びて酸素を生み出す葉緑体のように自分の呪力を細胞一つ一つから解放するのだ。
「きた!」
なにかのコツを得た時にはまる感覚。
悩みに悩んだ知恵の輪が外れた時の快感。
固い地面から芽が飛び出し、それがどんどん大木に育つように僕の呪力は一気に溢れでた。
「じゅ。呪力が溢れでてくる。」
自分からとめどなく溢れる呪力に驚いた。と、止められない。
これはまずいと判断したのか、お師匠様は印を結び、掌底を僕のみぞおちに打ち込んだ。
「うっ」
みぞおちからにぶい感触が伝わる。
お腹にもろに打撃を味わうのは久々だった。
息苦しくなり咳き込んだが、溢れていた呪力の勢いは、弱まり穏やかになった。
「それでは、その呪力をコントロールするため、纏(まとい)を行う。」
「やっぱ、天才やな!初日で纏まとい)もやんのか。」
慈照君に背中をバンと叩かれ、集中が途切れ呪力がまた溢れそうになる。
「ちょっと」
ムスっとして慈照君を睨んでしまう。
「ごめん。ごめん。」
てへぺろという表現が似合うような、おどけた謝罪だった。
僕はなんだかおかしくてつられて笑ってしまう。
「二人とも気を抜くでない。」
「慈照、纏(まとい)を」
「はい。」
慈照君は指を二本立てて、右手は下左手は上から右手の二本を包んで指を立てた。
よく子供がにんにんって言いながらする忍者ポーズだ。
慈照君の呪力を視る。慈照君の呪力は赤い。
そして、その呪力は炎のようにゆらいでいたのだが、その輪郭は丸くくっきりとしてきて、慈照君の体と同じ形になった。
そして、さっきよりも呪力の濃度が濃かった。
「よいぞ。慈照も腕を上げたな。よい纏や。」
慈照君は褒められて嬉しいのか、満面の笑みだった。
「では、聖護君もやってみなさい。」
「はい。」
僕も慈照君のように、忍者のポーズ(刀印)を結び、呪力をまとうイメージをする。
僕の溢れでていた呪力は、ゆっくりと渦を巻いていった。
「嘘やろ。。。」
二人とも驚いていた。
やがて、その呪力の渦は僕を中心に竜巻のような風を起こし雷鳴をバチバチ鳴り響かせた。
そして、その竜巻は突然パッと消えた。
「はぁ、外は久しぶりだなぁ!ねっ!ふうちゃん!」
「うん、また一緒に遊ぼるね!らいちゃん!」
妖精?
大きさは9cmくらいの小さな女の子が2人現れた。
その女の子は着物?みたいな、竜宮城の乙姫が着ていたような服を着ていた。
らいちゃんと呼ばれた方は黄色い着物で背中には小さな太鼓が円状に並んでいた。
ふうちゃんと呼ばれた方は薄い緑いろの着物で両肩に袋をかけていた。
「、、ふ、風神様、雷神様」
お師匠様は言葉を失っていた。
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