第4話 進路
3連休初日、品川駅は混んでいた。
ここから、新幹線に乗り京都へ向かうのだ。
2泊分の荷物をまとめ慈照君と品川駅の新幹線改札まえで待ち合わせする。
母さんには、転校生と仲良くなったので京都へ遊びに行くと説明した。
母さんは、友達と旅行に行くという僕の相談を快く承諾してくれた。
多分、友達付き合いの事を気にかけてくれていたので、少し安心してくれた部分もあるんだろう。
新幹線改札の前は、連休前もあり賑わっていた。
目の前にはいろいろお土産コーナーがある。
「そうだ。お土産買っとかないと。」
母さんから慈照君のお爺さんへの手土産代をもらっていた。何を買えばいいかわからなかった。お爺さんだから、煎餅みたいのがいいかなと思ったけど、なぜか関東バナ菜を買った。
そうこうしていると、慈照君が来た。
「ごめんな。お待たせ。」
慈照君は、少し大きめのキャリースーツを持っていた。
実家に遊びに行くには、大きいなと思いつつ僕たちは新幹線に乗り込んだ。
新幹線の中では、駅弁を食べながら他愛もない話をした。
京都駅に着いた。そこからバスで25分くらいでそこに着いた。かなり西に走った。大阪と京都の県境くらいで、山の中だ。
あの京都のまっすぐした道路やお寺など歴史を感じる雰囲気がここにはない。
目の前の家を除いては。
「これ家?」
家というか寺だった。
門から長い通路があって、また小さな門みたいなのが見える。
その先にお寺のようなものが見えた。
「寺ちゃうで、寺っぽい家やけどな。理由はよくわかんらんけど。」
家に続く両脇には立派な木が並び、蝉の喧騒の中を突き破るようにどんどん慈照君は奥へ進んでいく。
僕は門をくぐるのに
「おじゃまします。」と一言言って慈照君についていった。
奥の家?に辿りついた。
「ちょっと待っててな。」
僕は、寺なのか家なのかよく分からない建物の前で一人待つ。
慈照君の爺ちゃんってどんな人なんだろう。急に緊張して喉が乾いた。
慈照君が戻ってきて離れに案内してくれた。
離れの中は、完全に茶道室であった。
お茶の飲み方とか知らないんだけど、、、
何か作法みたいなのがあるくらいしか分からない。
余計に緊張してしまった。
慈照君が正座して待っていたので、僕も正座して待つことにする。
スーウっとふすまが開く。
作務衣を着た肩幅の広い男性が立っていた。しわは深く刻まれていた。
身長は170cmくらいだろうか。姿勢が良いので、僕よりもはるかに大きく見える。なんとなく、目を治してくれたお坊さんと雰囲気が似ている。
慈照君が正座のまま頭を下げる。
僕もつられて頭を下げる。
殿様を迎える武士みたいだ。
「そんな固く出迎えんでええ。楽にせえ!」
お爺さんは笑顔で優しく語りかけてくれた。
「慈照。こんな事したら友達も緊張するやろ。ごめんなぁ。」
そうすると慈照君が
「いやぁ、雰囲気大事かなあ思って。」とおどけて返す。
「聖護がすごい緊張してたから、悪乗りしてもうた。」
なるほど、これも関西的なノリなのかと思いつつ、少し肩の力がぬけた。
「はじめまして。佐藤聖護です。」
「本日はお忙しい所、ありがとうございます。」
「これはつまらぬものですが、」と手土産を渡す。
「つまらぬものやったらいらんで。」
とお爺さんは笑いながら受け取った。
見た目のわりにノリは軽いなと思つつ、中身は関東バナ菜だったので、内心焦った。気にいらなかったらどうしよう。
「爺ちゃん、それ東京で高級なお菓子やで」
慈照君がなぜかハードルをあげてくる。
「そうか、ちょっと開けさせてもらうな。」
まずい。中は関東バナ菜です。
改札前で1500円で買った。関東バナ菜です。
ごめんなさい。心の中で謝った。
「バナナやないかい!」
お爺さんは、驚いた感じだった。
やばい、怒らせてしまったと内心焦ったが、
「わし、バナナには目がないねん。聖護君ありがとな!!」
「関東バナ菜気になっててん。」
すごい気に入ってくれたようで、ホッとした。
「爺ちゃん、俺はいつも通りこれな。」
と、155の豚まんを取り出した。
「おお、よく分かっておる。」
そのまま、茶道室ではお茶会が始まった。
談笑しつつこれまでの経緯を話した。
失明していた右眼が回復したこと、その眼が紅く霊が視えることなど。
お爺さんの顔が一瞬険しくなった気がした。
「なるほどな、では本題に入ろうか。」
「はいっ。」
お爺さんが手を「パン」叩いた。
お皿やコップなどが宙に浮き勝手に片付いていく。
もしやと思い、右眼の眼帯を外す。そこには小さなヒト型のうさぎがわさわさ片付けをしていた。
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五行特性 陰の木
十二支属性 卯
レベル 1
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視線を感じると、お爺さんが僕の目をまじまじと見ていた。
急いで眼帯で目を隠す。
「隠さんでええ。それを外しなさい。」
「はい。」
お爺さんは急に緊張感のある雰囲気に変わっていた。
いつの間にか慈照君は正座をしている。
僕も姿勢を正座に直し、背筋を伸ばして待つ。
「それでは、茶をたてる。」
黙々とお茶をたてる、お爺さんの動作一つ一つが美しかった。時の流れが遅くなるようなそのような感覚を味わった。
お爺さんの立てたお茶を頂いた。
そのお茶を頂いたときに、なんとも言えない穏やかな気持ちになった。
また、お爺さんが手をたたく。
電気が消え、明りは丸い障子からの柔らかな光が部屋を包んだ。
「お主、その眼でわしを見よ。何が視える。」
静かに、しかし、芯のある声で僕にお爺さんは問いかけた。
お爺さんを視る。
ありのまま目に映るものを話す。
「はい。お爺さんからは黄色、黄色というよりかは茶色に近いオーラが視えます。」
「なるほど。」
「では、今はどうかな。」
後ろが透けるほどのオーラがどんどん濃くなっていた。
紅茶の色が時間がたつと濃くなるように、透明ではあるが確実に濃くなっていた。
「オーラが先ほどよりも濃くなっております。」
「これは。」
一瞬にしてオーラが消えた。
「オーラが視えなくなりました。」
「・・・お主の目は何か他の特性もあるようじゃ。」
「慈照、狐虎をだせ。」
「はい!」
「聖護君、狐虎は視えるか。」
「はい。視えます。」
「他に視えるものはあるか。」
「ステータスみたいなものが視えます。五行特性が陽の火、十二支属性が寅。って書いてあります。」
「なるほど、オーラの濃さはどう。」
「先ほどのお爺さんの濃いオーラを10とすると、1ぐらいの濃さです。」
「よろしい。慈照もよいぞ。」
「はい。」
狐虎が消える。
お爺さんが手をたたく。
部屋の電気がつき、人工的な照明が目を刺した。
「2級といったところかの。」
「マジで!俺は5年もかかったで。」
慈照君が驚く。
「あくまで見識のみの評価じゃ。他の力はまだ分からん。」
「それに5年も早いほうじゃ。ましてや慈照はまだ幼かったからの。」
急に階級の話になって、ついていけない。
「修行なしでここまでの力を獲得しとる。その眼力の底が見えぬな。」
「まじか、爺ちゃんでも分からんのか!」
慈照君が驚く。
「分からん訳ではない!」
お爺さんが少し怒って返答する。
「ただ、確証が持てぬのじゃ。紅い眼に関しては、わしも秘伝書にある知識しか持たん。」
「今ここで多くは伝えられぬ。ここで言える事はその眼は秘めた力が多く希少価値があるという事じゃ。」
「この眼に関しては、時がくるまで秘密にした方がええ。この眼を利用する悪い奴らもいる事は事実じゃ。」
急に話が恐ろしい方向に進み、身震いする。
「僕はどうすればいいんでしょうか。」
「修行じゃな。自分の身は自分で守れた方がええ。」
「慈照。聖護君。お主ら二人とも陰陽呪術高等学院に通うか。」
※陰陽呪術高等学院:通称【いん】
「いいのか。爺ちゃん!!」
急に進路の話になり驚いた。
さらに慈照君が驚いたのは意外だった。通う予定じゃなかったのか。
「通うのは良い。家を継ぐかどうかは先の話じゃがな。」
「よっしゃ!」
慈照君はガッツポーズをする。
「聖護はどうする?」
慈照君がまっすぐな目で問いかける。当然通うやろ?的なノリだ。
「進学の話は、母さんに相談しないと。僕じゃ決めれないな。」
「ちなみに、聖護。【いん】は学費、寮費、付属病院の治療費も全部タダ!!さらに給料もでるで。月額10万やけど。」
「行きます!」
即答だった。母さんに無理をさせなくてすむ。
「どうすれば、入学できるんでしょうか。」
僕は急に前向きになり、興味津々になった。
「認定講師の推薦と、試験を合格できれば入学できるんやで。」
慈照君が説明してくれる。
「認定講師ってのは。」
なんとなく察しがつくが、念のため質問をする。
「もちろん、わしだ。」
中学2年の夏休み前、僕の進路は急な展開で決まる事となった。
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