第3話 式神

「聖護視えてんの?」


真剣な目で慈照君が問いかける。


「視えるって、その狐みたいなの?」


「あ〜、完全に視えてるやん!」

「しまったなぁ」と言いながら、片手で顔を覆う。


どうして、「しまった」なのか分からない。とりあえず、悪い事をしてしまったと思い謝ってしまう。


「ごめん。」


「いやいや、謝らんでええねん。しまったっていうのは、こっちの話やから。」

「まさか、登校初日にバレてしまうとは思ってなかったわぁ。みんなには言わんといてな。」


もちろん言う訳ない。初めての友達と初めての秘密。僕には、この秘密がかけがえのないもののように感じられた。


「言う訳ないよ。でも、この狐はなんなの?」


「俺の式神や。名前は狐虎(ここ)っていうねん。可愛いやろ。」


慈照君が狐虎を撫でる。狐虎は気持ち良さそうに慈照君に身を委ねていた。その様子を見ても信頼関係がある事が伝わる。気づかなかったが、ステータスのようなものも見える。


★☆★☆★☆★☆★☆★

五行特性 陽の火

十二支属性 寅

レベル 1

☆★☆★☆★☆★☆★☆


「で、話戻るんやけど、」

「その目、どうしたん?」


僕にもさっぱり分からない。むしろ、この目にそんな霊的な力がある事すら知らなかった。


「分からない。」


それ以外の返答は思いつかなかった。


「せやな〜。式神が視えるのは呪師だけや。特殊な儀式を受けるか厳しい修行を何年も積まないと、式神などの霊は視る事ができない。俺が推測するに可能性は三つある。」


慈悲君の説明を待つ。


「一つは、その目が呪具である事。これは呪いを観るための義眼のようなものや。二つめは、お坊さんに霊を視るための呪術がその目にかけられた。三つめは、・・・」


「三つ目は?」


「天才かもな。」


「・・・天才?」


ありふれた言葉だが、自分には縁のない言葉だったので素直に入ってこない。


「天才じゃないよ」


ふと、否定の言葉を返答してしまう。こういう不意を突かれる質問は、自分の日頃の自己肯定感がでてしまうんだなと言いながら感じた。


「可能性の話やで。そんな卑屈にならんでええやん。実際霊を見るために呪師の人たちは何年も修行をする。すぐ視える人もいれば何年も修行して視えず挫折する人もおるんやで。」


「天から恵まれた才能ってあってもええと思うけどな。」


無言で慈照君の話を聞く。

慈照君自身、これまで色々あったのかもしれないと思った。


「ま、正味俺には分からんけど。」

となぜか慈照君は笑っていた。


「どないする?」


急に話が戻った。関西の人ってみんな話のテンポ早いのかなと思いつつ論点を元に戻す。


「どないする?」って聞かれても、どないもこうもない。よく分からない言葉がたくさん出てきてそもそも理解が追いついていない。


返答に困っていると、慈照君がガイドをしてくれた。


「理由は置いといて、霊が視えるってのは事実や!今後の事考えると、その才能を活かすかどうかやで。」


「霊が視える事って何の役に立つの?」


「聖護も呪師を目指したらええやん。」


さらっと、慈照君はすごい事を言った気がする。

呪師って、オカルトの話でしか聞いたことがない。


「呪師って職業あるの?」


「あるで!マイナーやけどな。世間では呪師よりか陰陽師もしくは霊媒師の方が分かりやすいかもな。ほとんどの人は呪師の活動は裏でやってて、表向きはお坊さんとかしてんねん。うちの爺ちゃんとかもそうや。」


「へえ」


ふと母さんの姿が浮かんだ。これなら大人になるまで待たずにお金を稼ぐ事ができるかも。


「それってお金稼げるの?」


その質問が意外だったのか。慈照君は目を丸くする。


「ぼちぼちやなぁ。爺ちゃんは立派な家持ってるし、底辺呪師でも大企業のサラリーマンくらいは稼いでるって聞いた事あるわ。」


「ぼちぼちやなぁ。って全然ぼちぼちちゃうで!!」


その返答に思わずノリツッコミを入れてしまう。大企業サラリーマンなんて、今から塾も通ってめっちゃ勉強して有名な大学入って、コネとかないと入れないって聞くじゃないか。


生活ギリギリの僕の家庭にはこれ以上ないチャンスのような気がした。


母さんを楽にさせてあげるのはこれしか無い!と善意なのか、邪なのか分からない気持ちだったが、慈照君に返答した。


「僕も呪師になれるかな。」


慈照君は堂々と答えた。


「分からん!」


「っ!?」


夢を見せてくれたのは、慈照君なのに急に梯子を外された気持ちだ。


「呪師にも国家認定呪師と民間呪師がいるからな。まずはどんな呪師になりたいかが大切やで。って爺ちゃんが言ってた。」


「で、まず呪師になりたければ式神を呼ばなあかんねんけど、式神呼べる?」


さも、当たり前やと言わんばかりに聞いてくるが、こちとら今日初めて霊を見たばかりである。


「むしろ、どうやって呼ぶの?」


質問を質問で返すしかない。


「せやな〜。俺よか爺ちゃんに聞いた方が早いなぁ。」


慈照君は腕を組んで考え込む。普段は居心地の悪い沈黙も慈照君の場合は温かみを感じた。


「ええ事思い着いた!来週の三連休にうちの爺ちゃん家遊びに行かへん?京都になるけど。」


是非行きたいところだ。

色々と聞きたい事がある。だけど、、、


「行きたいけど、交通費が、、、」


「そんなん気にせんでええで。事情説明すれば親父が出してくれるわ。むしろ俺が出してもええで!その時は出世払いやで。笑」


「じゃあ、出世払いでお願いします!」


「十一で大丈夫?」


「え?」

急に闇金用語がでてきて焦ってしまう。


「冗談に決まってるやん!関西のノリについてきてや。友達やからもちろん無利子や!」


「呪師なったら、たくさん稼ごうな!」


話はとんとん拍子に進み、来週の三連休に僕は京都に行く事となった。


・・・


就寝前、昨日と今日の出来事を思い返していた。


僕の人生が大きく変わっていく唸りのようなものを感じていた。


昨日のお爺さんから、転校生の慈照君。


「あんな世界があるんだ。」


慈照君の式神の狐虎を思い出しながらつぶやく。


そういえば、呪師になるには式神が出せないといけないと言っていたな。


僕にも式神が出せるんだろうか。


期待半分、不安半分。週末の京都旅行を待つことにした。

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