第3話 エマージェンシー!!

 この世界は〈甘やかしてくれるあなたに恋してる〉略して〈甘恋〉のベッタベタな設定のご都合主義満載な乙女ゲームの世界である。


 ゲームの主人公であるヒロインは平民で両親に先立たれた孤児であった。たまたま貴族の老人が持病で倒れているの偶然助けたことによりなんやかんやあってその貴族の養女になるのだ。


 そして、貴族の子供なら必ず通う学園にも入学してくるのだが……。


 その貴族……と言っても廃れかけの貧乏男爵家なのだが、その男爵家にはヨボヨボおじいちゃんがひとりきりで跡継ぎもいない。必然的にヒロインが跡継ぎとなるがヨボヨボおじいちゃん男爵はヒロインを孫のように甘やかすだけで教育的なことはまったくしなかった。お金もカツカツだったはずだが、こってりクリーミー・甘さ増し増しに甘やかされる生活はヒロインとしては天涯孤独の孤児だった時に比べれば天国のような暮らしをしていた。


 だが、甘やかし過ぎたのだ。何事もやり過ぎってダメだよねって話である。


 その結果、恋に夢見る究極のお花畑ちゃんが誕生してしまったのである!


 なんかこう、「いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるのよ!幸せになるためなら何をしても許されるのよー」みたいなのをさらに拗らせた天然のお花畑ちゃん《モンスター》が産み出されてしまったのだ!おじいちゃん男爵ったらとんでもなくヤベーもんを作り出しやがった!


 いや、現実問題さ。この世界の王子(ハインリヒト殿下くらいしか知らないけど)ってあんまり馬に乗らないよ?ほら、危ないからさ。そんな、馬に乗ってその辺に現れる王子なんて、どこの暴れん坊将軍だよって話だよ。一応王子だから。馬に跨がってパカラパカラ歩いてたらいつか狙われるから。マジで。


 というか、白馬って珍しいからそんな気軽に乗り回すもんでもないしさ。馬車だって普通の馬(茶色)がのんびり引っ張ってて、はっきり言って人間の早歩きの方が早くね?!みたいなのんびりさだからね?そのおかげで道路上で衝突事故とかほとんどないからとっても安心だけど。そう思えば治安は良いのかもしれないが。


 とにかく、そんなお花畑ちゃんなモンスターヒロインがご都合主義の中で国士無双する乙女ゲームなのだ!

 そして攻略対象者たちはヒロインに簡単に一目惚れしてそれはもう甘やかす。チョコレートパフェに蜂蜜ぶっかけて粉砂糖でデコレーションしたくらい甘やかす。胸焼けするくらい甘やかす。ついでにチョコポッキーもつけるくらい甘やかす!食後の飲み物はクリームソーダ(もちろんアイスつき)なくらい甘やかす!!


 みんなにちやほや甘やかされてベッタベタにされたモンスターヒロインの恐ろしさよ……。


 自分がヒロインの立場でプレイしているときは小難しい駆け引きもなくスムーズにサクサク進めるし攻略は小指で箸を転がすくらい簡単だし、まさにストレスフリーで「らくちん☆たっのしーい!」な感じでプレイできていたのだが……。


 そんな、ヒロインの言動ひとつでさくっと殺される悪女令嬢になってしまった私はどうしたらいいのか?!


 やべーじゃん!やべーよー!マジヤバですよー!エマージェンシー!!


 そんな危機を乗り越えるために太ってみたり婚約者に婚約破棄を訴えてみたりしたが何の効果もなく、とうとう学園の入学式を迎えてしまったのだ……。


 相変わらずぽっちゃり体型のまま(太るのは簡単だが、痩せるのは難しい理論)の私は、入学式の現場でとんでもないものを目の当たりにするのだった。

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