第9話 クエスト出発(ファンファーレの音と共に)

所変わって、街の外と中を隔てる門の前。


街の出入りには網が張られているだろう、という俺の予想は当たったようで、門では十人近くの騎士が検問を敷いて道行く人を厳しくチェックしていた。


地図によるとこの街から北西に行ったところにもう一つ別の小さな町があり、その距離はかなり近い。


つまりは歩きで十分移動できる距離であり、必然と行き交う人々の数は多くなる。


そんな大勢の人々が、今は門前で面倒な検問を受けていたりするワケで。


門の前には結構な行列が出来上がっていた。


これが俺達のせいだと思うと少し申し訳なくなる。


でも俺達は何も悪くない。文句ならそこの甲冑共に言え。


「……よし、通っていいぞ」


お婆さんと孫らしき小さな子供のコンビが、必要以上の身体検査から解放されて門を潜る。


一応女性には配慮しているらしく服を脱がされるようなことはないが、大きな荷物は全てチェックされ、これでもかというくらい顔もガン見されている。


(……ほ、本当にこれで大丈夫なんですか……!?)


信じられない、と女の子が不安そうにそう耳打ちしてきた。


(いや私も知らんけど、もし駄目だった時は私達が何とかして逃げれるようにするから)


俺もそう小声で返し、列の流れに乗ってゆっくりと歩を進める。


そしてとうとう、俺達の番が来た。


「ふむ……おい、これは何処行きの荷物だ?」


「へぇ、こりゃランバースですよ。あっしは宅配のモンでして、明日までにこの荷物を運ぶ手筈になってるんでさぁ」


ビールっ腹なおっちゃんが、馬車のシートの上で愛想笑いを浮かべた。


2頭の馬に引かれる形でリアカーみたいな台車が繋がっており、そこに幾つもの白い袋が沢山詰まれている。


この時代の運送業ってのは、こういう形で定着しているらしい。


「そうか。では荷物を調べさせてもらうぞ」


「へぇ、どうぞ」


おっちゃんに確認をとった騎士が、荷物を調べる為に俺達の“目の前”を通り過ぎていく。

 

「…………ッ!」


ヨシツネ以外の全員が息を呑む。


だが騎士は俺達の姿に、というか存在そのものに気付くことなく荷物の中身を調べ始めた。


「……こっちは誰も入っていないな。そっちはどうだ?」


「こちらも違う。中は香辛料ばかりだ」


俺達が中に隠れてるか探しているんだろう。お目当ての人間は堂々と目の前に立ってるのに。


しかも俺達は変装も何もしていない。女の子が怖がってフードを被っているくらいだ。


「どうだ、居たか?」


「いや、見つからん」


悪戯に千年殺しでもかましてやろうと思ったが、流石に気付かれそうなので思い止まっておく。


それに汚いし。


「……よし、通れ」


「へぇ、どうも」


全ての荷物、そして台車の裏まで隅々調べ尽くした後、大丈夫と判断したのか騎士が通行許可を出した。


そして動き出す馬車。当初の予定通り、俺達もそれに乗り込んで荷物の上に腰を下ろす。


しかし誰もこっちの行動を気にかける人はいない。騎士らも迷わず次の人のチェックに入っている。


「すごい……本当に気付かれないなんて……」


目の前のおかしな光景に女の子がそう呟いた。


「ちょっとした認識疎外の魔法です。で、でもあまり騒ぎ過ぎると効果が消えてしまうんで……注意してくださいね」


つまりは覗き専用、と?変態紳士共が喜んで覚えそうな魔法だな。


「すごいです!私、こんな魔法初めて見ました!」


俺も初めて見ますた。


しかし普通に魔法が存在するとはいえ、異なる世界間ではその種類も違ってくるのか。


となると、人前で特殊な魔法を使うのは少し控えた方がいいかもしれない。後で井ノ原さんに注意しておこう。









リンチャナの町が次第に小さくなっていき、乱雑に作られた土の道を馬車がゆっくりと進んでいく。


これからこの馬車は半日以上かけてランバースに向かうらしい。


馬先輩マジご苦労様です。

 

空を見上げる。ほんの少しだけ薄暗くなっているがまだまだ綺麗な青空だ。


この世界に来てまだ数時間しか経っていない。なのにもう最初の町を出発するとか鬼畜ゲーにも程がある。


ちょっとくらい休ませてくれてもいいだろうに。


「はぁ~……いい天気ですね~」


俺の心労とは裏腹に、女の子は車輪の音をBGMに心地良さそうな空気を味わっていた。


見た目と違ってほんと図々しいなコイツ。


「風が気持ちいいです……」


「眠くなってきたのじゃ……」


既にこの二人が女の子側のポジションに居ることにはもはや言及すまい。


なんだかんだ言ってもメンタル面で弱いのは俺だけということか。


……俺が神経質な訳じゃないと信じたい。


「ここまで来たら騎士隊の方々も追って来ないと思いますし、とりあえずは一安心ですね」


ヨシツネに並んで女の子が荷物の上に背中を預ける。今はその図太さが心底羨ましい。


これから化け物の巣に突入するというのに誰が安心など出来ようか。


というワケで今更ながら文句の一つでも飛ばしてやろう……と思ったが、そこで俺はふと気付いた。


「そういや、名前聞いてなかったね」


「……あ」


説得に必死すぎて忘れていた、という顔だ。こいつ本当はアホなんじゃないだろうか。


「一応自己紹介しておくと、私は不洞新菜。で、そこで呑気に寝てる猫がヨシツネ。こちらのメガネっ娘が井ノ原叶葉さん」


「フドー・ニーナさんに、ヨシツネさんに、えっと……」


一人一人の名を努めて覚えようとする女の子。


「イノファラ・カナファさん?」


誰だよ。


日本の名前の発音が難しいのか、何度挑戦しても井ノ原さんだけ名前が変になってしまう。


「わ、私の名前って……そんなに言いにくいですか……?」


「ごごごごめんなさい!なんか舌が上手く回らなくって!」


仕方ない、呼びやすい名前を俺が付けてしんぜよう。


「井ノ原さん、今日から君の呼び名はカナッペだ」


「か、カナッペ……!?」


どうやら“は”の発音が難しいらしいのでシンプルなのに変えてやった。


顔を赤らめている辺り、恥ずかしがっているのが伺える。今まであだ名を付けられたことがないのかもしれない。


「カナッペ……カナッペ……はい、これなら言えます!」


思いのほか好評を博した。

 

井ノ原さん改めカナッペの名前も覚えてもらったところで、次は女の子の番だ。


ところが、女の子はどうするべきかと悩んでいるご様子。


「私の名前は……えっと、ほら、あれです。マリアンヌです」


「偽名乙」


「な、なんで分かったんですか!?」


普通自分の名前でそこまで吃る奴はいないだろ。


72通りくらい名前があれば話は別かもしれんが。


「じ、じゃあマリベリーで」


「じゃあって何だよ」


「あ、だったらマリエッタにします」


「……なるほど、教えたくないのはよく分かった」


「ごめんなさい……」


どうせまた秘密なんだろう。俺も半ば諦めてきたところですよ。


何にせよ悪そうな人柄には見えない。そういうことで今は我慢してやろう。


「とりあえず、私のことはマリーって呼んでください」


「分かった。よろしくマリー」


本名にはマリが入ってんのかな?まぁどうでもいいけど。


さて、呼び方は決まったが、聞きたいことはまだまだ沢山ある。


「で、マリーさんよ。到着まで時間はたっぷりあるし、構わない範囲でいいから詳しい事情を教えてくれるかな?」


「そうですね……分かりました」


そうしてマリーの周辺事情の説明と共に、俺達を乗せた馬車はラムボン森林に向かってのどかに進んで行くのだった。


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レズビアンが世界を救う!? ~目が覚めたらパワフル巨乳美少女に~ 神山とうほ @hiro_terrier

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