第2話 変態の変態による変態の為の作戦会議
「助けて黒えもぉおももももおおおおおおおおおん!!」
「別に僕は猫型ロボットでもないし近未来野球もしないけど、薮から棒に一体どうしたんだい?」
場所は移って駅前の道路。
黒のワゴン車で迎えに来た黒若に俺は泣き付いていた。
あ、当然だが本当に抱き着いたりはしていない。
気色悪いわ。
「実はかくかくしかじかで……」
「なるほど、合宿用の水着を見繕ってほしいんだね。喜んで協力しようじゃないか」
「貴様は一度滅べ」
テンプレでいいからちゃんとツッコんでこいよ。
「あはは、冗談DAよ」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ変態ドクターめ」
「それはそうとして、だ。なんだか尋常でない様子だけど、何があったのか道中詳しく説明してほしいな」
そう言って黒若は乗車を促してきた。
確かにこんな場所で話すのもアレなので、俺は言われた通り助手席に座り込む。
「シートベルトはしっかり閉めてね」
「分かってるっての……ほら、これでいいだろ」
「うん、実に良いパイスラッシュだ」
「やっぱり変態じゃねぇか!!」
ちなみにパイスラッシュとは、鞄やシートベルト等の紐的な物で谷間が押さえ付けられ、双極が強調されている状態のことを指す。
オパーイをスラッシュするからパイスラッシュ。なんとも変態が考えそうな安直な名前だ。
「でも、もし君が僕の立場なら同じことをさせただろう?」
「無論だ」
馬鹿な話はさておき、病院に着くまでの間、俺はさっきの出来事を黒若に伝えた。
チョココロネに行き先を知られたとなれば、いくら釘を刺しておこうが追ってくるのは明白。俺に敵対心を抱いているであろうエイミー達も漏れ無く付いて来る筈。
冗談じゃない。ただでさえ行きたくない合宿なのに、あのキチガイどもがセットでストーキングしてくるとか無理ゲーにも程がある。
よって、ここは黒若に対策を練ってもらう必要があるワケでして。
あわよくばデスノ並のチート武器を提供してもらいたいワケでして。
「残念だけどデスノ系は無理だねぇ。僕が助力できるのは科学の分野だけだから」
「じゃあモビルスーツでいいから頼む。勇者シリーズでも可」
「1/60スケールならすぐにでも作れるよ?」
「それただのガンプラですやん」
武器どころか何の役にも立たねぇよ。
「まぁとりあえず状況は分かったよ。確かに少し厄介そうだ」
「少しってレベルじゃないんだこれが。クラスの奴らが束になっても勝てない超人集団の内2人に目をつけられてるっていう」
「そういう意味では僕の呼び出しもグッドタイミングだったかもしれないね」
「どういう意味さね?」
「着けば分かるよ」
黒若は涼しげに笑って言葉を濁した。
嫌な予感しかしないのはもはやデフォなんですかね?
「はい、到着したよ」
地下駐車場の角にワゴンが停まる。
そのままエレベーターに乗り、黒若に案内された先は、俺が入院中に簡易検査を受けていた診察室だった。
至って普通の機器が並んだ部屋。その真ん中に回る椅子があり、俺と黒若は向かい合う形でそこに座る。
病院に行けば誰でも体験するようなシチュエーション。
こうして見ると本物の医者にしか見えないから不思議だ、
あ、一応医者でもあるんだっけ?
もう9割くらい科学者だろこいつ。それも相当マッドな。
「さて、お茶でも用意しようか」
「一番いいのを頼む」
「確か冷蔵庫に麦茶を冷やしてあったと思うんだけど……お、あったあった」
なんか随分と庶民的だな。こいつのことだから得体の知れないドリンクとか作ってそうだが。
グラスに注がれた麦茶を受け取り、俺は黒若が飲むのを確認してから口を付けた。
「用心深すぎやしないかい?」
「変な薬でも盛られてたら堪らんからな」
「君の中の僕のイメージが非常に気になるところだけど、それは追い追い改めてもらうとして……まずは今日君を呼び出した理由についてだね」
麦茶を一気に呷り、黒若は数枚の紙を手渡してきた。
「なんぞ?」
「君たちが行く世界の詳細な情報だよ。とりあえず必要なところだけ調べて纏めておいたんだ」
要するに、呼び出しってのは合宿に向けての打ち合わせといったところか。
そして呼び出しのあった時期を考えれば、俺よりも先に合宿の件を知っていたという事実が浮かび上がってくる。
だったら早く教えろよ畜生。
それはさておき、資料に目を通してみると情報量の多いこと多いこと。
厨二魂全開な国の名前や、文化の概要。宗教。人種。地形。気候。
人類が生存できるかどうかという極論的な視点だと環境は大して地球のそれと変わらんらしいが、それよりも俺の目を引く事項が一つある。
“魔法等、超常的な力の一般人への浸透”。
これはつまり、魔法的なパワーが世間一般に認知されているということを意味しているのだろう。
ハルケギニアですね、分かります。
「補足しておくと、その世界に住む誰もが超人的な力を使えるということではないみたいだね」
「ますます以ってゼロ魔乙」
「ゼロ魔みたいに魔法を使えるのは貴族だけ……ということは無いみたいだよ。立場や身分も関係はするかもしれないけど、その気になれば大抵の人は人間を超えられるらしい」
「まるでスーパーサイヤ人のバーゲンセールだな」
「だけどあくまで“その気になれば”の話だからね。実際そこに至るまでの努力は並大抵のものじゃあないだろう」
だが可能性があるだけマシじゃね?地球人なんて、普通に努力してたら何十年かかってもただの人間のままだしな。
百メートル走だって、最速の男達が9秒台をコンマの世界で争っている。それが人間の限界だ。
「地球よりも力を得やすいんだ。となれば当然その力を使った悪事も多くなるのが道理。いやぁ、正義の味方も大変だねぇ」
他人事のように笑うその顔面に目潰しをキメてやりてぇよ。てめぇが俺に正義の味方を強制してんだろうが。
「まぁでも、学生レベルの合宿先に選ばれる世界だからね。流石にアーナト・ファミリーみたいに歯の立たない強敵はそうそう現れないと思うよ」
「いやそのご本人達が追い掛けてくるのが問題なんだけど」
「エンカウントしなければ大丈夫」
「投げやりすぎワロタ……って笑えるか!!」
こっちはキチガイな超人の集団に狙われてるんだ。真面目にやってもらわないと困る。
その旨を改めて吐き出すと、やれやれといった風に黒若は溜め息をついた。
「不洞君、そもそもなんで僕が君を学園に通わせているのか分かるかい?」
「女子高生の卑猥なデータを集めさせるため」
「そこまで確信した目で即答されるとは思わなかったよ」
え?違うの?
「君を正義の味方として働かせるだけなら、別に学園に通わせる必要は無い。高校も卒業してるしね。そのまま悪人と戦わせれば済むことだろう?」
「鬼畜か」
「実際、それを実現させるだけの力が君の体には秘められている。ある程度は、ね」
何やら意味深な言い回しだな。言いたいことがあるならさっさと言えよもう。
「でもやっぱり、それには限界というものがあるんだ。僕の技術力が超人の世界でどれだけ通用するかも分からない。君より強い者だって必ずいる筈だ」
「そりゃ当たり前だろ。現に俺はエイミーと引き分けになったんだ。ラッキースケベが無かったら負けてたかもしれん」
「ちょっと待ってくれ。ラッキースケベというのは初耳だよ。何があったのか具体的に教え――」
「ええから説明続けろや」
食いつく雰囲気じゃなかったろうがよ。
黒若はもどかしそうに口を尖らせていたが、やがて諦めた風に目を閉じた。
「……まぁそんな訳で、君にはもっと強くなってもらう必要があるんだ。学園に通わせているのはその為さ」
「つまり魔法やら気やらを学んでこいってことか?」
「まさしくその通り。君の強さは他と違って、その体がもともと持っている強さだ。不思議な力で強化されている訳でもない。そこに別の力が加われば更なるパワーアップが可能だと僕は考えているよ」
そういえばエイミーとの戦いで苦戦を強いられたのも、奴が心力などという反則的な力を使ってきたからだ。
最後の必殺技とかも無茶苦茶だったし、あれさえ無ければもっと楽に戦えたんじゃないだろうか。
いや逆だ。俺にもあんな力があれば、という考え方でないといけない。
以前、黒若は言っていた。こいつの家系は代々超人であったが、その技術や知識は受け継がれることなく全て処分されてしまったと。
だからこそ、そういった技術を学ぶことのできるあの学園に俺を送り込んだのか。
「僕に出来るのはあくまでサポートだけだよ。実際に強くなるのは君自身、というワケさ」
「結局俺が頑張らないといけないってことだよなそれ」
「大丈夫さ、時間はまだまだあるんだ。まだ転校したばかりだし、少しずつ前に進んでいけばいいよ。今回の合宿なんかは良い機会じゃないか」
なんか上手く話を纏められた気がするが、要するに、
・合宿どうしよう?
→強くなればいい
→どうやって強くなろう?
→合宿逝け
という堂々巡りが成り立っているワケですね。
ファック。
「そんなに嫌そうな顔をしなくても、今のレベルならきっと乗りきれるよ。それに、君が強くなる為のサポートなら惜しまないさ」
黒若はそう言って、隣の部屋から妙な機械を引っ張ってきた。
「ちょっと腕時計を貸してごらん」
俺は言われた通りに腕時計を差し出す。
装置の真ん中にある窪みに腕時計を嵌め、黒若は操作板らしき部分に何かを入力し始める。
「何やってるんだ?」
「世界を跨ぐと電波が届かないのは知っているだろう?だから僕なりの方法でそれを克服して通信回線を確保してやるのさ。今は時計の受信機の部分を改造中ってところかな」
「何でもアリだな」
「まぁ本当に繋がるかどうかはやってみないと分からないけどね」
2、3分ほどして、装置からピーッ!と音が鳴った。どうやら完了したらしい。
「これでオーケーだ。理論上は向こうの世界でも僕と通信できる筈だよ」
「向こうに行ってもお前と話さないといけないのか。鬱」
「多少の電波障害で回線が乱れる可能性があるけど、もしそうなったら繋がりやすい場所まで移動してくれればいいよ」
装置から腕時計を外す黒若だが、やけに重そうな手つきで渡してくる。
「パントマイムの練習か?」
「本当に重いんだよ、これ。今回は改造ついでに金属粒子も7キロ追加してあるからね。今の重量は15キロ以上あるよ」
「それ何てダンベル?」
「なにせ戦闘服と武器を収納しているんだ。特別な粒子状に分解圧縮してるから体積は無いに等しいけど、重量だけはどうしても変わらないよ」
手渡された腕時計は、確かにさっきよりも少し重くなっていた。
でもなんていうか、ほんの少ししか重くなったように感じない。いや元から重かったらしいが全然そんな風には感じられない。
俺からしてみれば至って普通の腕時計だ。流石は人造ボディ、パワパフ少女らもビックリの怪力ですな。
「マサル・パンツァーは強度が高い分、使用する粒子の量も普通の刀の何倍もあってね。その分、重量も増えるわけさ」
「確か刀の重量って1キロ弱だよな?それの数倍程度であんなに硬くなるもんなの?」
「密度や重量と強度は、一定値を超えると比例関係にはならないよ。まぁこれは僕が発見した理論で、説明すると論文五冊くらいになるんだけど……どうする?」
「なるほど、不思議な刀があるってことだな」
面倒臭い説明はスルーの方向で。
専門的な説明は黒若も億劫なようで、すぐに本題へと話を戻す。
「まぁそんな感じで重量が増えてしまったけど、実は金属粒子を追加したのはマサル・パンツァーの強度を上げる為だけじゃないんだ」
「嫌がらせの為か?」
「今後、刀だけじゃ対処できなくなる場面も出てくるかもしれない。そういう時に備えてだよ。とりあえず左上のボタンを押してごらん」
この時計にはやたら沢山のボタンが付いている。左下が変身ボタンで、左上のボタンはマサル・パンツァーを取り出すボタンだったはず。
「ポチっとな」
指示通りに押してみるとマサル・パンツァーは現れず、代わりにデジタルの画面に三つの文字が表示された。
①Sword
②Javelin
③Gauntlet
厨二か。
「右上のボタンを押す毎にカーソルが動くだろう?試しにカーソルを真ん中に合わせて、もう一度左上のボタンを押してみてよ」
タッチパネルにしようよ、今の時代なんだしさ。
などと文句を言っても始まらないので仕方なく従ってやる。
するといつものように眩しい光が溢れ、そして次の瞬間には、俺の手には長い槍のような物が握られていた。
ような物、というか完全に槍だ。
長さにして2メートルくらい。細長く丸い棒の先端には、ちょっとカッコイイ形状の刃物が備わっている。
まさしくランスでやんす。いやジャベリンらしいが。
「フフ……武器が刀だけだと心許ないと思ってね。レパートリーを2つほど追加しておいたのさ」
「なんて立派な槍♂だ」
「ならば名前はアベ・スティンガーに決まりだね」
「却下じゃヴォケ!!」
ケツは掘るのも掘られるのも御免だ、バーロー。
しかしなるほど、金属粒子とやらを追加したのはこの為だったのか。
続けて黒若が言うところによると、腕時計に内蔵された粒子には限りがあるため、一度に複数の武器を出すことは出来ないらしい。
例えば全部で100の粒子があったとすると、
刀を形成するのに60消費、
槍を形成するのに100消費、
篭手を形成するのに80消費、
といった風になっているので、複数取り出すと粒子が足りなくなってしまうのだとか。
一度収納してしまえば、粒子の数も元に戻るので武器の切り替えが可能。つまりは粒子の使い回しですな。
「他の二つに比べて槍だけは“軽くしなりのある強さ”をコンセプトに作ってるから、負荷の掛かり方によっては強度が少し落ちるんだけどね。まぁ粒子状態から形成されるから、仮に壊れたとしても収納してまた出せば元通りだ」
ほほぅ、それはなかなか素晴らしい機能だな。本当にノーベル賞もんだぞ。
「ちなみに不洞君、今更なんだけど槍の使い方とかは大丈夫かい?」
「任せろ。掃除の時間にこっそり箒をゲイボルグ代わりにしていた俺に死角は無い」
厨二の時は誰でもやっちゃうよね。クルクル振り回してるところをDQN共に目撃されて馬鹿にされたのは忌むべき思い出よ。
……午後の授業中は泣きそうだったな。俺ってば豆腐メンタル。
「頗る不安だからちゃんと練習はしておいてくれよ。間違っても自分や仲間を斬り付けないように」
「その辺はまぁ何とかするって。それよりもだ、黒若」
「何だい?」
「他に何か機能無いの?刃の部分が回転して竜巻になるとか、カートリッジシステムで威力強化とかさ」
「そんなものはない」
どこぞの関羽みたいな顔で断言しやがったぞこいつ。
「形だけならカートリッジシステムも作れるよ。がっしょんがっしょん、って玩具みたいに動くだけだけど」
「頑張ったら俺でも作れそうなレベルじゃないっすか。やだー」
「何度も言うけど、僕に超常的な技術を期待しても無駄さ。その腕時計も君の体も、僕が作ったものは全て科学によるものなんだから」
カートリッジは魔力の塊だからなぁ。流石の黒若でもそこまでは無理か。
「むしろ、そういった技術については学園側の方が詳しいだろうね。もし機会があれば勉強しておいて、僕に教授してもらえるとかなり助かる」
「学園の図書館からそーゆー系の本持ってきた方が早くね?育成機関なんだし、それくらい沢山あるだろ」
「確か、書物の持ち出しは校則で禁止されている筈だ。知識や情報が物として存在すると超人の力が世に流出する危険性がとても高くなるからね。もし違反したら、それはもう惨たらしい罰則があるとか何とか」
怖ぇな、おい。思わず俺の息子が縮み上がっ……あ、もう居ないんでした。乙。
とにかく、俺が頑張らなきゃいけないという結論は何をどう足掻いても変わることはないらしい。
いいよもう。魔法使えるようになりゃいいんだろ。こうなりゃヤケクソだ。
やってやんよ。
「おっ、なんだか今までより少しマシな目付きになったね。不安は無くなったのかい?」
「オタクの底力を舐めるなよ。合宿の一つや二つ、厨二の力にかかれば余裕でクリアだ」
「本音は?」
「JK達と一つ屋根の下ってシチュエーションだけ考えるようにしますた。むしろ股間が熱くなるではないか」
「やはり君にはハンディカムを持たせた方が良さそうだ」
「向こうの文明に悪影響が出るような機械類はエンターゲートポートで没収されるらしいぞ。今朝うちの担任が言ってた」
「なん……だと……!?」
同じ理由で携帯やスマホも駄目だとか。電波云々以前の問題でしたな。
この腕時計でもギリギリのラインだろう。
「ならばスケッチで……」
「お前はどこまで必死なんだ」
その後も黒若はJK合宿の記録方法について悩み続けていたが、結局どの案も不可能なものばかり。
色んな世界を管理する程の機関なんだから、そういった規則は何よりもしっかりしてるだろうに。
黒若……成す術無し……ッ!
「こうなったら日記をつけてもらって、後で小説の形で纏めるか……その方が想像が広が……いや、それだと臨場感に欠ける……」
「素直にJKコスのAVでも借りて見てろや。そんなことより、話はもう終わりってことでいいな?もう帰るべ?」
今だぶつぶつと呟いている黒若を放置し、机の上に置いてあった奴の財布から帰りの電車賃として二百円をこっそり拝借。
そのまま部屋を後にして、俺は帰路に着くのだった。
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