第4話 おまわりさんこいつです

放課後。


皆が明日の準備に奔走する中、俺は一人こっそりと学園を後にした。


どうせ休むから準備なんて何もしなくて良いし。決闘に指名されたのも“高町なのは”さんであって、不洞で新斗な俺には何の関係もありませんの。


フヒヒ、サーセン。


そんなワケで俺は今、帰り道から少し逸れた場所にある本屋に来ている。


数日前に発売されたラノベの新刊を購入する為だ。


“ライトノベル”と看板が掛けられたコーナーで、平積みに並べられた一冊を手に取る。


そしてレジへと向かう俺の視界の端に、何やら気になる広告が入ってきた。


「あ、あのアニメが追加ストーリーで書籍化……だと……!?」


俺が推しているアニメの続編書籍展開。一人のファンとしてこれは買わない訳にはいかない。


むしろ購入は義務と言えよう。


広告が示す通りの場所に足を運ぶと、さっきのラノベよりも明らかに多い量の本が積まれていた。


よかった、在庫にはまだまだ余裕があるらしい。


流石は俺行き着けの書店。消費者のニーズをばっちり理解していらっしゃる。


財布の中身もまだまだ大丈夫だし、これはますます買いだな。


そうして俺は積まれた山の一角に手を伸ばす。


と、丁度同じタイミングで隣から手が伸びてきた。


ぶつかりそうになる手と手。迷惑をかける前に俺は咄嗟に手を引っ込める。


「あ、すんませ……」


「やぁ。こんなところで会うとは奇遇だね」


出かかった謝罪の言葉が、無意識に止まった。


うん、まぁ……アレだ。俺にとって一番会いたくなかった奴がそこに居たワケで。


「出たなユートニウム博士」


「なるほど、言い得て妙だね」


俺の皮肉をものともせず、その男――マッドサイエンティスト黒若は小さく笑ってみせた。


ちなみにここで俺が言う博士とは、異様までに顔が角張っているリメイク前の方だ。


……名前だけで分かる奴いんのかな?難易度高ぇ。


「で、なんでお前がここに居るんだよ?」


まさか尾行してきた訳じゃないだろうな。いや、こいつのことだから充分有り得る。


「僕はただ本を買いに来ただけだよ。君とここで会ったのもまったくの偶然さ」


そう言う黒若の片手には、他にも何冊かの本が纏められていた。どうやらここで会ったのは本当に偶然らしい。


その全部がオタッキーな漫画だということには最早突っ込むまい。


「それに目的は君も同じだろう?これぞ類友ってやつじゃないか」


目当ての本を手に取り、黒若はそう言う。


「やかましいわ。お前と同類にされるなんて心外だっつーの」


「これはまた嫌われたものだね。まぁ、その姿で言われてもツンデレに脳内変換できるから問題無いけど」


「病院行け、変態」


「医者にそれを言うのかい?」


まったく……こいつと話してると疲労が溜まる一方だ。


こういう時はさっさと帰るに限る。俺は本を取り、黒若に背中を見せてレジへと向かった。


「へぇ……ポニーテール、似合ってるじゃないか。リボンを厳選した甲斐があったよ」


「待て、何故ついて来る」


「僕も会計だからね。この店のレジは一つしかないし」


言われてみれば、確かに。


だったら支払いも手早く済ませるだけのこと。店員のおばさんに商品を渡してお金を払い、俺は足早にその場から離れる。


途中おばさんが「え?あなたこんな本読むの?人は見かけによらないわねぇ」的な視線を向けてきたが華麗にスルー。


あとは帰るだけだ。


が、


「まぁ待ちなよ。ちょうど僕も暇を持て余していてね。どうだい、これから一緒にお茶でも?」


行く先に黒若が回り込んできやがった。うぜぇ。割と本気で。


……仕方ない。


「生憎だが俺にそんな暇は無い。愛すべき嫁たちが俺の帰りを待ってるんでな」


ここは全世界の共通言語で道を空けてもらうか。


則ち、肉体言語ッ!


「フタエノキワミ……」


「7億円」


こいつどんだけ外道なんだ。

 

悔しいがこの脅迫の前に俺は無力。黒若の前では俺の意志など有って無いようなもので、結局近くの喫茶店へと強制連行される羽目になった。


どうして俺の周りにはこう理不尽な奴らが多いのか。


「あ、禁煙席でお願いしますね」


黒若の要望により、俺たちは禁煙区分の窓側のテーブルに案内された。


ウェイトレスのお姉さんは黒若の容姿に目を輝かせていたが、俺の方を見るや否や「チッ」と舌打ちでもしそうな顔付きにる。


誠に遺憾だが、黒若がイケメンなのは百歩譲って認めるとしよう。外見だけはレベル高いからなこいつ。


だがウェイトレスさんよ、勘違いはしないでほしい。誰がこんな変態ヤブ医者なんぞと付き合うものか。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


ウェイトレスは黒若の方だけを見ながらメモを取り出す。


「何でも好きな物を頼んでいいよ。僕の奢りだから」


「あっ、じゃあこの“メガ盛り高級アイスパフェ (エクスタシー風味)”ください」


「……君は本当に遠慮というものを知らないね」


値段にして3600円。この店で一番高いやつを注文してやりますた。


ざまぁ。


「それじゃあ僕はこのモカブレンドをお願いしようかな」


「は、はい!かしこまりました!」


明らかに俺の時とは違う対応で、ウェイトレスはスキップ気味に店の奥へと消えていった。


客によって対応を変えるとは何て酷い店員だろうか。ゆかりんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。

 

「……で、茶に誘うとは俺に何の用だ?さっきから人のことジロジロ見やがって」


「そう焦らないでくれよ。僕が長年かけて作り上げたボディが目の前で動いているんだ。ちょっとくらい、こうして眺めていてもバチは当たらないんじゃないかな」


「キモヲタ発見」


「罵られるのもまた醍醐味の一つだと思うんだ」


「すまん同意しかねるわ」


「君にはまだ早いかもね」


俺が理解できる日は永久に来ないと思う。


あ、でもゆかりんになら……あの大人しそうな娘から罵倒を浴びせられるとしたら?


…………アリだな。


いやいやいやいや、待て待て。危うく変態の道に引き込まれるところだった。


「まぁそんなことはさておき、学園の方はどうかな?楽しくやれているかい?」


「おかげさまで死と隣り合わせの学園生活が始まったぜ」


「楽しそうで何より」


「聞けやコラ。冗談じゃないんだよマジなんだよ」


「あはは、大袈裟だなぁ。ちょっとやそっとで死ぬほど君の体は脆くできてないよ。日々の訓練にしたって君なら余裕でクリア出来る筈さ。うん、イケるイケる」


「……訓練だけならな」


「ん、どういう意味だい?」


暢気にコーヒーを飲んでいる黒若に、俺は事のあらましを説明してやった。


アーナト・ファミリーから決闘の申し込みが来たこと。


その期日が明日だということ。


そして、何故か俺が指名されていること。


「へぇ……良かったね。早くもモテモテじゃないか」


「どこをどう聞けばそんな解釈になるんだよ。もう敵さん殺りに来る気満々じゃねぇか」

 

少し前までただの浪人生だった俺が、どうしてこうも命を狙われなければならないのか。


そういうのは漫画とかゲームの中だけにしとけよ、いやホント。


「相手はアーナト・ファミリーなんだろう?前にも説明した通り、彼女らは戦う相手を殺すような真似はしない。まぁ、今まで殺害が“確認されてない”ってだけなんだけどね」


「最後の一言が余計なんだよ」


こいつ本当に俺の味方する気あんの?


「それに良い機会だ。君のボディのスペック、そして僕の技術の有用性が実証される。君には是非とも頑張ってほしいな」


「人をモルモット扱いするなし」


「でも事実、敵の一人には勝ったんだろう?その調子でいけばリーダーが相手でも何とかなるんじゃないかな」


「投げやりすぎワロタ……って笑えねぇよ!こっちは命が懸かってんだドアホ!」


バン!とついテーブルを叩いてしまう。


その音で周りの客から注目を浴びてしまい、俺は恥ずかしながらに顔を伏せた。


俺ってばドジっ娘。


「酷いノリツッコミを見た」


「やかましいわ!……とにかく、明日は絶対に休むからな。無理矢理にでも体調不良起こしてやる」


「もしそうなったとしても僕が治してあげるから大丈夫さ」


「くっ……ニート予備軍ナメんなよ。引きこもりの代表格だぞ。病気でなくとも休む理由なんぞ幾らでも思い付いてみせるわ」


「無駄な抵抗はやめよう。なんだか君が残念な人に見えてくる」


え?今更?

 

「君の考えは分からなくもないけど、戦ってもらわないと僕も困るからね。明日は何が何でも頑張ってもらうよ」


「ちっ……」


これ以上黒若と話していても仕方が無い。他に何を言ってもコイツの要求は変わらないだろう。


むしろまた7億円を盾に出される前に話を終わらせるのが吉だ。脅されさえしなければ屁理屈もこねようがあるだろう。


「お待たせしました、ご注文の“メガ盛り高級アイスパフェ (エクスタシー風味)”でございます」


と、丁度そこでウエイトレスのお姉さんがパフェをテーブルに運んできた。


効果音は“ドスン!”といった具合。


なんというデカさだろうか。向かい側にいる黒若の顔が全く見えん。


流石はエクスタシー風味、3600円の値段は伊達じゃない。


「へぇ……これはまた随分と凄いのが来たね」


「完食できる気がしないんだが」


「注文した以上はちゃんと食べなきゃダメだよ?」


……ホントにいい性格してやがるな、畜生。


でもまぁ確かに注文した俺にも責任はあるけどさ。


「昔、“食は戦いだ”ってばっちゃが言ってた……今がまさにその時か」


「君のお婆さんはとても愉快な人みたいだね」


俺が生まれる前に他界したらしいから知らんのだけどね。






その後は黒若の話に適当に合わせながら、俺は頑張ってパフェを平らげた。


目の前でニヤニヤ笑う黒若の顔面にパフェをぶちまけてやろうかと何度考えたことか。


我ながらよく奮闘したと思う。胃袋的にも我慢的にも。

 

そして茶をしばき終えた俺たちは席を立ち、黒若が会計を済ませてから店を出た。


「いやぁ楽しかった。実に有意義な時間だったよ」


「野郎とお茶して何が楽しいんだか」


「さて、次はどこへ行こうか?」


「ちょい待てや。まだ人を連れ回す気か」


これ以上は流石の俺も我慢がならんぞ。


不洞新斗徹底抗戦の構え。


「僕も仕事が忙しくてね。こうして休みがある間にしっかりと満喫しておかないと」


「じゃあ休んどけよ。俺を巻き込まずに家で静かにしてろよ。冬のナマズのように」


「休日に引きこもっているのは愚の骨頂さ。休日こそ羽を伸ばさないとね」


「大人しくしてろぉおおお!冬のナマズのようにぃいいいい!」


もう大統領命令ですよ。


「それにどうせなら可愛い女子高生と一緒の方がテンションも上がるじゃないか」


「お巡りさんコイツです」


あはははは、と黒若はムカつくくらいの笑顔で笑いとばしてくる。


だが甘いな黒若。俺は合いの手やテンプレなんかで今の言葉を吐いたワケじゃない。






「ちょっと君、ここで何をしているか少し聞かせてもらおうか」






「え?」


背後から肩を掴まれた黒若が、後ろを振り返る。


そこに居たのは一人の男性。紺色の制服に身を包み、同じく紺色の帽子を被っている。体はゴツくて顔もめっちゃ怖い。


そして胸や帽子の部分には、日本警察の証たる旭日章。


「あの、僕がどうかし……」


「いやなに、町の不審者に職務質問をするのも我々警察の仕事でね。失礼だがそちらのお嬢さんとはどういった関係かな?」


そう。俺は偶然擦れ違った怖面のお巡りさんに対して、エロゲばりに泣きそうな顔でさっきの台詞を言っていたのだ。


しかも自分のお尻を指差し、次に黒若の顔を指差して。


こいつに触られた、と。


黒若の外見は好青年だから普通はあまり怪しまれないだろうが、こっちから助けを求めれば話は別ってもんよ。


「兄妹かね?親戚かね?とにかく詳しい話を聞かせてもらいたいんだが」


「えっと……はい。親戚ですよ」


「なるほど親戚か。だが血縁者といえど女性に不埒なことをするのは見過ごせんな」


「え?いや、ちょっ……」


「署まで同行を願いたい」


さて、今のうちに逃げるか。


黒若が腕を引かれて連行されていく様を見届けながら、俺はこっそりとその場から抜け出して帰路に着いた。


ここまで気分が晴れたのは久しぶりだな。黒若よ、いとワロス。


まぁ誤報だったと後で警察に連絡入れとけば何とかなるだろ。


よく知らんけど。






「……ただいま」


俺は警戒しつつ自宅の扉を開く。


よし、今日はあの変態の姿は無い。


大学生だしな。基本、高校生で帰宅部な俺よりも遅くなるだろう。


……なんて思っていた時期が私にもありました。


「――ッ殺気!?」


刹那、俺の背中をものっそい悪寒が走り抜ける。


廊下へ咄嗟に転がると、俺が元居た場所に上から何がが落ちた。


「ぐへへへ……にぃいいいいちゃぁあああああぁん」


蜘蛛のような格好で床にはいつくばっているのは、バイオ○ザードに出てきてもおかしくない我が愚姉。


本当に血が繋がっているのか超不安になってきた。生物学的な意味で。


まさかB.O.Wが実在するとは。


「オーケー分かった、そこを動くな。そして膝をついて手を頭の後ろに。ハァリーアップ!」


「急げ?よっしゃ今すぐイクからそこを動かないでね!」


なんでそこだけしか聞き取らねぇんだよ。しかも解釈が都合良すぎんだろ。

 

とにかく戦って勝てるような相手じゃない。俺は振り返って一目散にリビングへと走り出した。


ドアを開き、クリーチャーが侵入してこないように素早く閉じて裏から押さえ付ける。


「ふぅ……これで一安心」


「そうだね、安心してイチャイチャできるね」


「ダニィ!?」


不意に背後から聞こえてきたのはクリーチャーの声。


見れば、玄関にいる筈の姉ちゃんが俺の後ろに立っているではないか。しかも俺の両ケツを触りながら。


何故だ。


「まさか……裏口か!?」


我が家には台所の方に裏口がある。つまり俺が走り出した時には既に姉ちゃんは家の外へと逆走し、回り込んでいたというワケか。


なんという無駄にハイスペックな判断力と行動力。そして変態性。


そういう情熱は他の方へ回してください。


「だがしかし……我が愚姉よ。俺の背後に立つというのがどれ程愚かな行為なのか理解しているのか?」


「愚か?」


「喰らえ!屁遁へとん、不洞式メタンガスの術――」


技名を叫び終わる寸前、触られていた両ケツがさらにがっしりとホールドされた。


予期せぬ事態にケツの方を確認すると、ケツを掴みながら姉ちゃんがその隙間に顔を近付けてきている。


「…………」 


「……あれ?どうしたのにーちゃん?早く」


いや、早くって言われても……。


このままの常態で放屁してしまえば、人類として何が大事な尊厳を失ってしまいそうな気がする。


「ふんッ!」


「きゃあ!?」


故に俺は、姉ちゃんの顔面にヒップアタックをかますことによって窮地を脱した。


尻餅をついた姉ちゃんが誰よりも幸せそうな顔をしているのが実に腹立たしい。


「あら新斗、おかえり。今日は遅かったのね」


と、そこで裏口からひょっこりと現れたのは我が母。


洗濯篭を抱えている辺り、ちょうど庭の洗濯物を取り込んだところなんだろう。


「ただいま。ちょっと友達と遊んできてさ」


黒若の話を持ち出すと面倒なので、俺は当たり障りの無い嘘をついた。


すると母さんは心底驚いたような顔つきになる。


「え?あんた友達いたの?」


「実の息子が相手なのに容赦無ぇなこのやろう!」


「だって今までが今までだったからさぁ。それにしても、ようやくあんたにも三次元の友達ができたのね。やったじゃない」


なんだろう……褒められてるのに微塵も嬉しい気がしない。


「で、どんなオタク友達?」


「違うっつーの!普通の女子だよ、普通の!」


「へぇ、女の子……って女の子ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


洗濯物を投げ捨て、俺の眼前に詰め寄ってくる母さん。凄い形相だ。


「あんたが!?女の子と!?ともだちぃ!?」


「うわ汚ねッ。唾飛ばすなし」


「ほんとに女の子!?可愛い男の子の間違いじゃくて!?ホモだちの間違いじゃなくて!?」


ぶっ飛ばすぞアンタ。

 

ちょっと考えれば分かることだ。


俺の体は美少女仕様なのだから、他の女子と仲良くなれたとしても何ら不思議じゃない。むしろ男子よりも女子の方が親しみやすいだろう。中身が男だということを隠してさえいれば。


そこんとこおk?マイマザー。


「はぁ……こりゃ明日は爆弾が降るわね。まさか新斗にガールフレンドができるなんて」


「なんか語弊があるな、その言い方」


ガールフレンドだとなんか彼女って響きがするじゃないか。


べ、別にゆかりんとはまだそういう関係じゃないんだからね!


まぁ友達宣言をしてくれたのはカレーパンだが。


「あと一応言っとくけど、女の子の体ってのを利用して他の女の子にやらしい事をするのだけは止めなさいよ?」


「大丈夫だ、問題無い」


「もし通報されたら迷惑かかるのは私の方なんだし」


「論点はそこか」


時々本気で疑いたくなることがある。この人は本当に俺の母親なのだろうか、と。


俺が事故に遭った時の涙が嘘のようだ。


「ま、何かとヘタレなあんたなら大丈夫とは思うけど」


「やかましいわ」


「そんなことより、さっき学校の先生から電話があってね」


「断っておくが問題を起こした覚えは無い」


「違う違う。保護者全員に連絡を回してるらしいんだけど」


なんだ?保護者会でも開催するんだろうか?


「明日は成績に響く大事なテストがあるから、何が何でも生徒を学校に行かせるようにしてください、って」


「……ホワッツ?」


なんだか不吉な言葉が聞こえた気がする。


っていうか普通そんな連絡来ねぇだろうがよ。


これはまさか……。


「なぁ母さん、その電話の相手って若い男の声じゃなかった?」


「えぇ、そうよ。あんたの担任?……でもそういえば、どっかで聞いたことのある声だったわねぇ」


間違いない、黒若の野郎だ。

 

くそっ、まさか身内から攻めてきやがるとは。


っていうかどうやってお巡りさんから逃れたんだろう。どうせ奴のことだから汚い手を使ったんだろうけど。


「一度高校を卒業したからって油断してんじゃないわよ。80点以下だったら小遣い減らすかんね」


「待て母さん、違うんだ。そもそもテスト自体が無ぇんだよ。それは全部黒若の罠で――――」


「見え透いた嘘なんて吐いても無駄よ。何年あんたの母親やってると思ってんの?」


18年以上やってるのに息子を全く理解出来てない貴女が滑稽に映るよ、母上。


「とにかく!明日はしっかり良い点取ってきなさい。分かったらさっさと勉強する!」


母さんはそう話を打ち切り、洗濯物の処理へと戻っていった。


あの様子からして母さんはもう敵側と認識した方が良いだろう。


「えへへ……にーちゃんのお尻の感触……これだけでご飯3杯はイケるッ!」


そこでヘヴン状態になってるキチガイも怖くて頼れないし、信じられるのは自分だけだ。


俺は深く溜め息をつき、自室に篭って作戦を考えることにした。


この場合の作戦とはもちろん学校を休むための計画だ。決して超人らと戦う為のものじゃない。


絶対に休んでやるからな、明日は。






 

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