第13話 無限の可能性

鼻には獣の臭いがこびり付いている。闇を照らす月光がウルフの目に反射する。

ダリ達の少し先でミシアは獣を刻み続け、彼らの毛並みを真っ赤に染めている。

マリアは両腕にはめられた金のブレスレットを揺らし仕留めていく。その白銀の舞は煌々と照る月の下で踊っているかの様に軽やかにウルフ達を灰燼かいじんへと変えていく。

ダリは両手を駆使し、時空を歪めるかの如く開かれた手の平をウルフ目掛け握り潰していく。


(よし、着実に減っていってる。でも、これじゃ埒が明かない。)


しかし、ダリとマリアの討伐したウルフは全体のほんの一片に過ぎない。彼らの攻撃では時間が掛かり過ぎる。

彼を中心に銀狼が囲む。同時に牙を剥かれ、ダリは空中へ投げ出される。マリアの心配する声を聞きながら、下に目線を向ける。


(クソ!このままじゃ僕がやられる。ん?・・・これ使えるんじゃ・・・)


彼の目に映ったのは漆黒の一本筋だった。彼は帯からそれを抜き取ると、鞘を地面に投げつける。乾いた木の幹の割れる様な音に注目が集まるがその時点で勝負は決まっていた。


「そっちを見ちゃったら、こっちはもう防げないでしょ!」


彼は白光りする片刃の刀を宙に浮かせていた。そして、それはウルフのいる地を踊る。金属音を響かせそれは高速で舞っている。白い筋が空気の切れ目を残す。

広範囲のウルフは灰となり天に散った。


「やるね。ダリ。ボクも頑張っちゃうよ。」


「よし、進むぞ!!」


「はい!」


「うん。」


黒の檻で囲われた城が数百メートル先に見える。ウルフの数は残り僅かといったところまで減っている。古城付近ではその獣臭さがより一層増している。

彼らはぬかるんだ大地に足を踏み入れていた。マリアはその場にコケてしまった。


「うわっ。この辺りはベチャベチャしてますぅ〜。」


「気をつけて!あと少し頑張るよ!」


殲滅にかかる。


(よし、これなら・・・倒せる・・・・・・)


ミシアが拍車をかけて両手に短刀を飾るが、マリアの声に再び塞がれる。


「わぁっ。」


「気を付けろって言って・・・」


ミシアが紫の髪を翻すが、その視線には俄然とさせる光景が現れていた。

マリアの足元が盛り上がっている。硬い地面が割れ欠片がコロコロと地を転がっている。やがて、その隙間から、汚れた灰色が見えてくる。そして、彼女の目線と黄色い目線が交差する。

図体を片足ずつメキメキと地上に乗せながら咆哮をあげる。静寂に包まれたゴースフルト一帯にその高い呻き声は響き渡る。


「ミーシャさん。これはどういう・・・」


「なんで、まだ出てくるんだよ。ボクはこんなの聞いてないぞ!」


その後、暫くしてもう一声聞こえてくる。


「え?どうして・・・お前らが・・・」


ミシアは足を棒のようにして瞳孔を開ききっていた。一匹の巨体が地を揺らす足音を鳴らし迫ってくる。

ダリは浮かせた剣を向かわせようとする。しかし、他からも地面が盛り上がってきており、ダリの目の前を遮った。やがて、肉の潰れる鈍い音の後、地面にぶつかる硬い音が彼の耳に入った。


「マリー!居るか。今回は撤退だ。僕の所に来てくれ、僕の魔法で飛んで変える。」


「分かりました!ミシアさんは大丈夫でしょうか?」


「僕が連れて行く。」


ダリは目の前の薄暗い壁を切り裂き、マリアと共に菫色の少女を連れ去った。

空にその身を浮かせていた最中彼の目には街全体を目掛け、足を進めるウルフの姿が映った。彼らはもといた家へと辿り着く。

靴の裏に付いた泥を落とし家の中へと入る。靴裏の砂利と古びた木の擦れる音が気味悪く鳴っている。

マリアはウルフの打撃を生身に受けたミシアの治療を行った。直ぐに彼女は目を覚ました。ダリは彼女が意識を戻すと開口一番、心配事を投げかけた。


「ミーシャ、ウルフ達はあとどれ位でこの街までやってくる?」


ダリのその強引な態度をマリアは制した。


「まずは、心配してあげるんですよ。」


「いや、心配には及ばないよ。マリー、ボクはまた助けて貰ったね。ありがとう。ダリ、その事なんだけど、あと二日かな。アイツらは基本的にはゆっくりと歩いているからね。」


ミシアは虚ろな目で外を向く。彼女には明るかった月は雲に隠れ再び暗くなり、また上の方へ昇っている様に見えた。


「ボクは、ここに居るウルフが全てだと思ってたんだけど、あの魔人は地中から呼び出せるみたいなんだ。だから、あそこはぬかるんでいたんだと思う。あれじゃあ、いくら腕の戻ったボクや君達でも倒せない。」


彼らには広範囲に攻撃を加えられる味方はいなかった。湧き水の如く出てくるウルフを対処する方法はもはや存在しなかった。

マリアは顔を真っ青にする。


「じゃあ、どうすれば良いんですか?私達一生ここですか?」


「せめて、ボクらに多くの戦ってくれる味方が居ればいいんだけど・・・」


彼女は諦めた様な目を向けて膝元にいるクリミネンスを撫でていた。


「くーん」


しかし、ダリにはある方法が思いついていた。彼女らの腰を掴んで立たせると、人差し指を上に向けて、顔の横に持っていき、高らかに叫んだ。


「そんなしょげないでよ。僕は一つだけ良い方法を思い付いた。」


「え・・・なんですか?」


「なんだい?それは・・・」


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仲間に裏切られ、魔法帝から最弱職の農民にジョブチェンジさせられたけど人類最高の魔力はそのままなので気楽に復讐しようと思う。それと、ついでに世界救ってみた。 佐原さばく @sahharan

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