りん子とこれまで

 これは私が女学校に入学するまでの煌太郎様とのお話です。これまで私がどれだけ頑張ったのか、その努力を知っていただきたいのです。







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 私が転生に気が付いて直ぐの頃です。

 この頃はそれまでのりん子と私のギャップが大きすぎて煌太郎様は勿論、八重や両親、果ては煌太郎様のご両親にまで眉をひそめられる始末でした。一体りん子はどんな行動を取っていたのでしょうか……。

 まだ煌太郎様の中での私への信用は皆無でしたので、今よりは頻繁に会うようにしていました。とは言え、煌太郎様の予定を邪魔してまで約束を取り付けてしまうのはかえって良くないですから必ず予定を聞くようにしていました。これは至極当然の事ですが、りん子は我儘だった為自分の思い通りにいかないと癇癪かんしゃくを起こしていた様です。

 煌太郎様とは花火を見に行った事があります。近くの神社でお祭りをやっていたので家族ぐるみで行ったのです。家の玄関までご両親と一緒に来てくださった煌太郎様はそれはそれは無表情を極めておられました。

 ですが神社に着いて花火が上がり、久し振りにそれを見て大興奮の私に花火の仕組みを教えてくださいました。矢張やはり煌太郎様は理系科目がお好きであるのでしょう。

 そうだとしても煌太郎様がご自分から私に話し掛けるという事は余りに珍しいので、私は酷く驚いたものです。






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 同じ年の冬、雪が降ったので煌太郎様のお家にお邪魔して奏次郎そうじろうくんと雪うさぎをつくりました。

 奏次郎くんとは煌太郎様の弟君おとうとぎみで、煌太郎様と私とは一歳差です。元々りん子には冷たく当たられていたようで、当初は怯えられていたのですがなんとか一緒に遊ぶことが出来るようになりました。煌太郎様より心を開いてくれ易かったので、どちらかと言えば奏次郎くんとの方が仲良しであると言えますね。

 前世では雪の余り降らない地域に住んでいた為、雪で遊ぶのはお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家に行った時だけでした。そこで培った雪うさぎ量産テクニックを奏次郎くんに見せると彼は物凄く喜んでくれました。可愛いです。

 煌太郎様は縁側から私たちを見ていましたが奏次郎くんが呼ぶと仕方無く、という風に来てくれました。何だかんだ煌太郎様は弟を可愛がっていますので、奏次郎くんには甘いのです。それは私もですが。

 それから煌太郎様と奏次郎くんに私を加えた三人で何処かへ出掛ける事が増えた様な気がします。近くの河川敷や屋台、私のお気に入りの本屋さん等、短い時間でしたが三人で街を練り歩いたのです。勿論それを誘いに来るのは仏頂面の煌太郎様を引き連れた笑顔の奏次郎くんであるのが常なのですけど。

 というか今思ったのですが煌太郎様って笑ったりするのでしょうか……?ツンデレキャラなのかしら。まあゲーム内ではヒロインにだけ笑い掛けるのでしょうね。それを見た悪役令嬢が怒り狂ってヒロインを虐めるとか……。うわぁ、凄くありそうな展開ですね。


 これより後にも、例えば果物狩りやお花見、それから活動写真を観に行ったりしました。活動写真とは映画のことです。

 それでもまだヒロインは現れません。勿論現れないならそれで良いのです。断罪されないに越したことはありません。私は別に煌太郎様のことを特別好いている訳ではありませんが嫌っている訳でもありませんので、結婚することを忌避しているのではないのですから。ただ、ヒロインと結ばれる事は煌太郎様の幸せですからそれを叶えたいのです。

 それに、ヒロインが居れば煌太郎様も笑えるようになるのかも知れませんし。

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