第8話
神殿の宝物庫の中に唯一残されていた宝箱に収められていたのは、一つの水晶球と古びた巨大綿埃だった。
「これが神具?」
「は、はい、この神殿に納め、真悟様が降臨させるその時まで、大事に守り通せと」
守り通すのはいいけれど、掃除しておけよ……埃かぶってるよ。
丸めてあった綿埃にしか見えないそれを持ち上げる。大きさにしてはめっちゃ軽い。
その時、片手に抱えていたM端末がブブブ、と震えた。
「ん?」
【神具入手を確認しました】
この綿埃と、やっぱり埃をかぶっている俺の頭ほどもある水晶球。
どう使えばいいのかなあ。
画面をなぞると、文章の続きがあった。
【神具は生神の力を吹き込むこと、つまり【浄化】を使うことで、生神の力を増やすアイテムです。まずは【浄化】を使ってみましょう】
「浄化ね、浄化……」
埃被って色褪せている塊に端末を向け、【浄化】を使う。
途端、綿埃は白……正確には金色を帯びた白に変わった。
「え」
慌ててM端末を見る。
【神具:雲を観察しますか?】
YだY。てかこれ雲? 出来損ないの綿菓子にしか見えないんだが。
【観察結果:神具「自在雲」レア度S】
自在雲? なんだそりゃ。
説明の場所をタップする。
【生神とその神子を乗せて空を行く雲。生神レベルが高ければ高い程高空を長期間飛べる。具体的には一度の飛行で、高度10mを、時速50kmで生神レベル×10kmを飛べる。高度を低くしたり速度を落としたりすると、持久時間が反比例して長くなる。また、自在雲の周りには結界が張られているので、例え飛んでいなくても乗ったまま安全に休息できる】
おお。これから世界中駆けずり回らなきゃいけない俺には一番のアイテムだ。しかもこう触ってみるとふか、じゃない。もふっとしてる。座り心地良さそう。休憩もできるって言うし。
もう一つ、水晶球もやってみるか。
ええと、【浄化】【観察】と。
水晶球は途端に水より透き通った球形になった。
【観察結果:神具「導きの球」レア度B
苦しんでいる存在がいる場所を指し示す水晶球。基本的に一番近い場所を示すが、具体的に苦しんでいる内容などを設定した場合は離れた場所からでも位置を把握できる】
こりゃありがたい。森エルフを指定すれば、森エルフのいる場所まで案内してくれるってことか?
そこで【生神レベル/信仰心レベルがアップしました】の文字。【浄化】と【観察】のアップかな?
【遠矢真悟:生神レベル14/信仰心レベル7000
神威:再生5/神子認定1/観察3/浄化4/転移1
属性:水3/大地2/聖4
固有スキル:家事全般/忍耐
固有神具:自在雲/導きの球】
おお。ほとんど神殿の中だけでレベルアップしてる。
でも、これがあれば神子探しも上手く行きそうな気がする。
「シンゴ様、何かお役に立ちますか?」
「とっても役に立ちそうだ」
自在雲と導きの球を手に取って持ち上げようとした瞬間、それらは俺の手に溶けて消えた。
……え? 俺の手、何か溶かす手なの?
慌ててM端末を取り出す。
神具の説明、神具の説明……。
【入手した神具はM端末と同様(M端末自体がSSSランク神具なので当然ですが)、体内に収め、必要な時に出すことができます。生神以外に神具を扱えるのは、生神の許可を得た神子だけです】
……あー焦った。てっきり俺の手が真っ赤に燃えて何かを溶かす酸性になったんじゃないかって心配しただろ。
とりあえず、乗ってみる。
もっふもふ。
うわあこの上でごろんごろんしたい~。移動専用道具って嘘だよ~。この場で眠れるよ~。仕様説明にも安全に休憩できるってあったし~!
いやさすがに女性の前でそんなことはできませんけど!
「神様のお乗り物、でしょうか」
「うん。シャーナも乗れるよ」
「そんな、私ごときが真悟様と同じ物に乗るなんて……」
「それなしって言ったね。とりあえず道を知らない俺とそこまで痩せたサーニャで、歩いて行けそうにないんだから」
「そ、うです、ね」
サーニャ、しばらく悩んだが頷いた。
「私は神と共にあるのが役割ですから、真悟様の御望みのように……」
「よし。じゃあ、とりあえず食糧と水を持って行こう」
再生したパンや干し肉を持って、袋の中に詰める。川の水も水袋に入れる。
「どれくらいかかるでしょうか」
「分からない。大樹海跡がどれくらいか分からないし……」
地図は結構広い範囲を示していた。その真ん中あたりに目指す神殿がある。
「自在雲があるから、そんな厳しい旅にはならないと思うけど……」
と言いかけて思い出す。
「神殿、空けといて大丈夫かな」
「ああ、それは大丈夫です。いるべきシンゴ様がご降臨くださったのですから、神を信じる者には入り、地下の食料が与えられますが、信じていない者には姿すら見えません」
「へえ」
だったら俺、日本の寺社のほとんどは見えないなあ。神様信じてる暇あったら家事してたもんなあ。
「よし」
自在雲の先頭に導きの球を固定して、座ってみる。
完璧。
「サーニャ、乗って」
「は、はい」
サーニャは頷いて、恐る恐る座り、もふっときて。
「うわあ……」
「な? な? 最高だろ」
「ああ……神具がこんなに素晴らしいものだなんて……!」
導きの球に手を当てて、『森エルフ』と念じる。
球から、東の方向に真っ直ぐ光が伸びた。
「よし、じゃあ、早速行こう!」
「はい!」
こうして、俺は、サーニャと一緒に初めてのモーメント探索に出かけるのであった。
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