第3話
「生神?!」
職員さんは手を止め、目を見開いてこっちを見た。
「どうして、その言葉を」
「き……貴船って人が、そう言えって」
「貴船」
職員さんの目が飛び出そうなほどになってる。
「貴船さんが、あなたに、そう言えと言った」
「何か……悪かったでしょうか。それとも」
「い……いやいやいや!」
職員さんは慌てて手を振った。
「人のために生きてきた、あなたは間違いなく生神の価値がある。それだけの人生を送ってきた。ましてや貴船さんの推薦があるとなれば」
やはりあのおじいさん、只者じゃなかったらしい。
目力半端なかったもんな。真正面から見れなかったもんなあ。
「……分かりました!」
職員さんはバン! と机に書類を置いて頷いた。
「生神に、なってください!」
いや、なってくださいと言われても。
「あの……生神って、何ですか?」
聞いておいて、変なことを聞いたと俺は慌てて手を振る。
「いや、貴船って人にこう言えって言われただけで! それがどういう意味かは俺、さっぱり分かんなくて!」
「もちろんです。生神の意味を知る人はいません。少なくともあなたの人生に生神は関わってこなかった。知らなくて当然、何をすればいいかもわからない。でも、そうでなければならないのです!」
なんのこっちゃ。
「ちょうど生神派遣要請もあることですし! 遠矢慎吾さん、あなたを生神として、ワールドに派遣します!」
いや、そんな興奮されても俺よくわかんないんだけど。
「いやいやいや、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫。あなたならできますし、取説も当然付けますので!」
トリセツ?
余計訳分からん。家電にでも生まれ変われってのか?
職員さんは俺の疑問に一切答えず、書類に素早く書き綴った。
「遠矢慎吾さんを、ワールド「モーメント」への派遣生神とします! 詳しいことはあちらへ行ってから取説でご確認ください!」
俺の名前が書かれた書類に、バン! と朱印を押して、職員さんはそれを俺に押し付けた。
「では、行ってらっしゃい! 存分に楽しんで!」
職員さんが俺に押し付けた書類から手を離した瞬間、書類が眩しい光を放った。
途端、足元に感じていた柔かい感覚が消えた。
浮遊感。
落ちてる?!
「うわあああああマジかああああああ」
白い空間が切り替わって闇に変わり、そのまま全身が落下する感覚。
落ちたら死ぬ!
と思って、俺死んでたっけ、と冷静な部分が判断し、
それどころじゃねーぞどうなるか分かんねーじゃねーか! とパニクる部分が叫んで。
視界が広がった。
鮮やかなスカイブルー。……いや、本当に空か?
見上げれば、空と雲。
眼下には、荒れ果てた大地。
真下に、尖ったような建物。
そこに向かって、落ちてる。
落ちてる!
やべー! あの建物の尖端突き刺さったら確実終わる!
いやもう終わってる!
始まったんじゃないのか?!
始まった途端に終わるのか!?
混乱しながらパラシュートなしスカイダイビングをしばし。
俺はものすごい勢いで建物にぶつかっていった。
「神様……」
少女は祈っていた。
荒れ果てた神殿。大地も海も何もかもが荒れ果てて、空だけが青い。
「どうか、神様……」
祭壇に向かい、祈る。
「世界を……お救い下さい……」
もうこの世界は駄目だ。
動物も、植物も、全てが失われ、生き残った人間もまた、滅びゆこうとしている。
神官だった両親は、食事を自分に譲って、死んでいった。
もうこの神殿で祈るのは自分しかいない。
神殿に祈りに来る者も、いなくなった。
この地は神に見捨てられたのだ、と。
だけど、自分はこの神殿から離れない。
一族だけが知っている、ある伝説。
それを信じているから、自分はこの神殿から離れない。
世界が破滅する時、神が天下りて世界を創り直すのだと。
その手伝いをする一族の者がいなくなれば、本当にこの世界が終わってしまう。
だから。
「神様……」
その時。
祭壇に飾られた、透明で平らな石が光を放った。
神が天下り、力を揮う縁となる神器と伝えられている、この神殿の至宝。
石が光っている……いいや、違う。
上空から光が降りてきて、石に当たっているのだ。
「まさか――」
少女は目を見開いた。
「神様?」
降りてきた光が、ぶわりと膨らんだ。
神殿いっぱいに光が広がって。
「うわあ?!」
人の声……?
ううん。
神様の!
「神様!」
神殿にぶつかると思った瞬間に、視界が反転して。
気が付くと、俺は暗い場所にいた。
「何なんだ一体……」
死んだと思ったら訳の分からない場所で訳の分からないことを言われて、いきなり上空から落っことされた。
いや、死んでないけどさ。
あれだけの高さから落とされたら、普通死んでるけどさ!
「ったく、一体どこなんだ……」
起き上がりながら辺りを見回す。
何だかボロボロな建物の中。
よっこいしょ、と起き上がって。
ここが周りより一段高い場所。何かの台の上に、俺が倒れていたらしい。
そして、下のほうで、何か大きな黒いものがある。
「ん?」
黒いものが動く。
見ると、それは人間だった。
ぼさぼさの長い髪で顔は隠れて見えない。服もボロボロで、男か女かすら見分けがつかない。
「神様?」
小さい声が聞こえた。
女の声だ。
「神様!」
その声は震えていた。
てか、神様って。
辺りを見回すけど、それらしき存在はいない。
手を組んでこっちを見ている、とすると。
俺か?!
俺が神様か?!
そういや「生神になりたい」と言ったけど。
まさか、本気でこの女の人は俺を神様と呼んでいるのか?!
神様って言われても、俺、何にもできないぞ?!
ていうかここ何処。ここ何。あんた誰!
その時、俺の横で何が光っているのに気付いた。
これって、まさか……。
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