4.白馬の王子様にあこがれる乙女心。
「はぁ~…………」
またしてもため息。今日一日でどれくらいのため息をついたのか分からない。ため息をつくと幸せが逃げるなんて話もあるけど、もしそうだとしたら、私の幸せは今日一日でかなりの量が漏れ出てしまったことになる。そして、
「どうだい。良い家だろう?ここが私と
それらは全て、このお嬢様に吸収されているに違いない。良い顔をしやがってからに。
ただ、
「愛の巣ではないけど」
と前置いたうえで、
「なんていうか、思ってたより、普通?」
「ふ、ふつう?五月。もしかして、気に入らなかったか?もっと美術品がバカバカ飾られていた方が良かったか?それなら今すぐにでも買い付けて」
「違う違う違う違う」
とんでもないことを口走る薊を全力で止める。危ない。今回ばかりは私の言い方が悪かった。そうだよね。普通っていうのは誉め言葉には聞こえなかったよね。
私は改めて、
「そうじゃなくて。なんかこう、変にぶっ飛んでなくて安心したって意味。金のシャンデリアドーン!とか、世紀の美術品ドーン!とかそういう感じじゃなかったから。私的にはむしろ、このくらいの方がいいんだよ」
そう。
外見の印象や、
建物は全三階で、今いる入り口のエントランス部分の天井が高く、奥にある三階部分の廊下もちらりと見えるようになっているが、その作り自体は正直そこまでぶっとんではいなかった。まさに今風の家という感じで、全体的に落ち着いた色味とデザインだ。
階段も赤い絨毯が敷き詰められた螺旋階段ということもなく、普通のものだったし、一階の廊下は遠くに灯っている非常口のランプからして相当奥まであることは伺えたが、広さ以外は特に変わったところはなかった。
分かりやすく表現をするならば「一般的なご家庭をそのまま広くした感じ」で、私としては凄く接しやすかった。ところどころに飾られている絵が(恐らくは)巨匠の描いた名作なんだろうという部分以外は「広いだけの普通の家」だったのだ。
ただ、薊はいまいち納得していないようで、
「ううーん……ホントか?本当に満足しているか?足りないものがあったら言うんだぞ?そうだ。三階から一回に降りるためのゴンドラでも」
「やめんか」
「あいた」
思わずはたいてしまう。ゴンドラってどういうことだよ。結婚式場かここは。
「ここは別邸なんですよ」
唐突だった。メイドさんが補足説明を入れてくる。会話をしている時はしっかりと存在感があるのに、それ以外の時は気配すら感じないから、結構びっくりするんだよね……
メイドさんは続ける。
「本来はずっと使っていなかったのですけど……今回雌……お嬢様が使うにあたって、住めるようにしたのです。なので、内装もですが、装飾品なども最低限なのです」
また雌豚っていいかけたよね?いいの?契約打ち切られたりしない?
薊は、そんな彼女の失言未遂は全く気にもかけずに、
「取り合えず、屋敷内を案内するよ。ついてきてくれ」
それに対してメイドさんは、
「お嬢様。案内なら私が、」
薊は言葉を遮るように、
「いいんだ。私がしたいんだから」
そう言われたメイドさんは、
「……分かりました。それでは、私は通常の業務に戻ります。何かありましたらお呼びください」
「ああ、ご苦労さん」
薊がそう告げた瞬間、メイドさんの気配がすっと消えた。気がした。実際は音もなく、私の視界から消えて、屋敷の奥へと歩いていっただけなんだけどね。いや、大したことないっていうけど、足音一つ立てないのは大したことじゃないな。うん。
と、そんなことを考えていると薊が、
「さ、案内しよう。ついてきてくれるかな?」
と言いつつ私の手を引っ張る。ちなみに繋ぎ方はさっきからずっと恋人繋ぎだ。段々慣れてきてしまっている私が怖い。油断、駄目、ゼッタイ。
「う、うん。分かった」
まあ、それでも無理やり振りほどいたりはしないんだけど。いや、うん。仕方ないんだよ。
だって、ほら、あんな良いお顔(※五月の感想です)で「ついてきてくれるかな?」なんて囁かれたら、ついていきたくなっちゃうじゃない。違うんだ。別に邪な感情とかは無いんだよ?白馬の王子様みたいにカッコいい運命の人に迎えに来て欲しいなんてこれっぽっちも思ってないからね。うん。そうなんだよ。思って、
「ふふ、素直だね。素直なさーちゃんも可愛いよ」
「ぁぅ」
訂正。ちょっとは思ってるかもしれない。くそう、これが血筋か。玉の輿とか、そういうのに憧れちゃう成分がDNAにねじ込まれているのか。なんとか除去できないもんなのか。これ。
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