第13話 2度目の洞窟攻略 -3-
「エミリー。前方に敵がいる。おそらくノーライアウルフ」
僕とエミリーは、スライムを倒した後さらに洞窟を奥へと進んだ。それからスライムに出くわすこともなく鍾乳洞へと到着する。そこから鍾乳洞に入り少し進んだどころに、また気配を感じた。
気配の正体は狼型の魔物。おそらくは昨日エミリーを襲った敵だと思われる。幸運にも今回は先に敵の気配に気がつけた。鍾乳洞を流れる水の音と高い湿度が、僕らの存在を隠してくれたのだろう。
「2体いる。一体ずつ落ち着いて打てば当たる」
僕がスリングショットを構えるエミリーにそう呟くと、エミリーは頷いた。
「打つタイミングと軌道は僕が調整するから、打つことだけに集中して。打ち終わったらまたすぐに玉をつがえて」
僕がノーライアウルフを倒すために、エミリーに指示を出しながらスリングショットの方向を調整する。
「まだ・・・まだ・・・まだ・・・今」
僕がそう言うとエミリーはスリングショットで玉を打ち出す。スリングショットは勢いよく発射され、真っ直ぐノーライアウルフに向かって飛ぶ。そして、2匹いるうちの一匹に命中を確認。
ノーライアウルフの方は片方は風の魔術を乗せた玉に直撃し、バラバラに切り裂かれた。確認していないから断言は出来ないが、おそらくは絶命しているだろう。もう一匹の方は事態が把握できないのか、身をすくませあたりを警戒している。
「また構えて」
だが、そのことをエミリーに知らせない。できる限り射撃だけに集中してほしかったからだ。
僕がそう言うとエミリーは言われたとおりに玉をつがえた。
「打って」
混乱しているノーライアウルフに対して、エミリーが発射した玉が高速で飛翔する。そして一秒もかからないうちにノーライアウルフに着弾。着弾した直後、玉の中から風の刃が炸裂し、ノーライアウルフの体を切り裂いた。
「2発とも的中。敵に動きなし」
僕が内心ではヒヤヒヤしていたが、意識的に冷静さを装ってそう呟いた。数秒後、ノーライアウルフが動かないことを確認した後、僕はエミリーに言った。
「よし。大丈夫そうだね。スリングショットを下ろしていいよ」
「このスリングショットってすごいね。あんな恐ろしい魔物をこんなにあっさり」
「エミリーの腕が上がったんだよ」
「そうかな?それなら嬉しいけど」
「さて、大丈夫だと思うけど気をつけて進もう」
僕がそう言うとエミリーは頷いて僕の後ろを付いてくる。少し歩くとノーライアウルフがいた場所へとたどり着く。再び動き出さないか注意しながら、ノーライアウルフを確認する。
「ひっ!」
エミリーが思わず声を上げた。バラバラになって絶命しているノーライアウルフを見たからだ。
「変な声あげてごめん・・・。てっきり行動不能にするだけだと思ってたから」
「スライムはともかく、ノーライアウルフの動きを止めるだけにする方法が思いつかなかった」
「うん・・・。これ、私が殺しちゃったんだよね?」
「違うよ。僕が殺した。エミリーは殺すつもり無かったから」
「・・・・それは・・・」
「先を急ごう。時間はまだあるけど、この先何が起こるかわからないから」
「う、うん」
僕らは鍾乳洞の中を歩いて上流へと登る。資料によれば村人が掘った横穴から鍾乳洞にぶつかった後、しばらく上流に進めば、また横穴が見えてくらしい。そしてその横穴に入れば、目と鼻の先に魔石の鉱脈があるらしい。僕らは警戒しながら、先へと進む。
「あ、アレ。あそこに横穴が開いてる」
エミリーが鍾乳洞の壁に空いている横穴を見つけた。
鍾乳洞では、2匹のノーライアウルフ以外はなんにも出くわさなかった。どうやらこの辺にはあの2匹しかいなかったようだ。
「とりあえずあの横穴に入って、奥を確認しよう」
「うん」
僕とエミリーは鍾乳洞から横穴に入る。横穴の入り口付近で周囲を警戒したが、特に気配はない。そのため、僕たちはそのまま歩を進めていた。この道に入りさえすれば、魔石は目と鼻の先。坑道と違って歩きにくく、曲がりくねった道が続くが、もう少しで付くという期待感が歩くのを早くする。
だが、僕は異変を感じ足を止めた。
「ど、どうしたの?」
「ここのカーブを曲がった先が魔石がある広場とのことなんだけど・・・。おそらくそこに何かいる]
道が曲がりくねっていたので、蛇の視覚は使えない。代わりに僕は風の魔術で周辺の風の流れを読み、曲がりくねった先に何か問題がないかを確認していた。
「エミリー。今までとは違う障壁を貼りたい」
僕はポーチから紙切れを取り出してエミリーに渡す。エミリーは頷いて、僕から紙を受け取り魔力を込める。すると、エミリーが魔力を込めると、エミリーを中心に球体の風が吹き荒れる。
「これはなに?」
エミリーが首を傾げた。
「これは、障壁内の音を外に漏らさないための壁だよ。ここで作戦会議をしようと思って」
「なるほど」
「資料によるともう少し行けば広場があるはず。おそらくそこに何かがいると思う」
「ノーライアウルフ?」
「いや、違う。二足歩行で足は遅い。ノーライアウルフでもスライムでもない」
「まだ、見たことのないやつってことだね。どうする?」
「身を隠しながら様子をうかがおう。相手が何かわからないと作戦の立てようがない」
「わかった」
そう言って僕とエイミーは壁沿いを歩きながらゆっくりと広場に近づく。エイミーが使っている風の障壁で音はほとんど漏れないが、姿は丸見えだ。とはいえ暗い洞窟なので目視される可能性は低いだろう。
しばらく、歩くと広場の手前まで来た。
「明るい・・・」
広場は明るかった。広場の上方より太陽の光が差し込み広場全体を照らしている。広場は想像よりはるかに大きい。目算だが幅が20メートルほどありそうだ。そして広場の奥にまた採掘されていない魔石も確認できる。
「もしかしてあれ!」
エミリーは嬉しそうに僕の顔を見る。
「間違いない。魔石だ」
「やったー!」
「やっとここまでこれたね」
「うん!」
エミリーの嬉しそうな顔を見ると僕も嬉しくなる。力量の足りない僕がここまで来れたのは間違いなくエミリーのお陰。無事にここを出れたらお礼をしたいな。
「どうする?」
エミリーがそう言った瞬間、僕らの視線を大きな影が遮った。
「これは・・・」
全長2メートルほどの身長。筋肉隆々のたくましい肉体を持つ二足歩行の魔物。
「ノーライアゴブリンがいる」
「ノーライアゴブリン?」
「この地方に生息するゴブリンのこと。狡猾で獰猛な魔物だよ。なるほど、さっきのノーライアウルフはこいつのペットか」
「魔物のペット?そんな事あるの?」
「ゴブリンは、他の魔物をペットとして飼うことがある。そのペットに巣周辺の警備や狩りをさせるんだ」
「へぇー。人間みたいだね」
「ゴブリンは人間ほどではないけど知能があるから、人間の習慣を真似ることもある。さらに人間より遥かに力もあるから集落の近くで見かけたら、すぐに討伐隊が組まれるような魔物だよ」
「強敵ってことだね」
「うん。それに・・・」
「それに?」
「ノーライアゴブリンって家族単位で行動する魔物で、特徴は家族想いなところがある。子供が殺されれば親が復讐に来るし、親が殺されたら何年かかうが報復が行われる。正直あんまり戦いたくない魔物」
親を倒したら、子供まで倒さないといけない。じゃないと子供は人間を憎み、率先して人間を襲うようになるだろう。そうなれば人間にも被害が出るし、そのゴブリン自体も長生きはできないだろう。
「今回、縄張りを侵してるのは僕らの方だし、できる限り戦闘は避けたいところなんだけど・・・・」
僕がどうすべきか考えようとした直後、僕とエミリー以外の声が聞こえる。
「さて、どうする?少年」
僕とエミリーは慌てて声の方向を振り向いた。
「エヴァさん!」
「師匠!」
そこに立っていたのはエヴァさんだった。
「こっそり付いて来てたんですね?」
「念の為な」
エミリーに渡した風の障壁は、防音、視覚阻害などをたっぷりと詰め込んだ特別製。さらに障壁内の動体感知もできるように組んだけど、この人にかかれば簡単にすり抜けられるらしい。
というか、やっぱり付いてきていた。昨日の突然見てきたかのようにノーライアウルフの話をされたから、おそらくエイミーが洞窟に入ったときは常に後ろから付いてきていたんだろう。
「少年。お前、スライムを封印してたな。後でサンプルにでもするつもりか?」
「しませんよ。あまりこのあたりを荒らしたくないだけです」
「そりゃ魔術師らしくないな。魔物は駆除するものだろ?」
「そうとは限りませんよ」
「偽善者だな」
「・・・・・」
何も言い返せない。確かにそのとおりだと自分でも思う。少なくとも現在では何匹か魔物を殺している。ここに来る前は一匹も倒さないでいたいと思っていたが、想像以上に魔物が強く、想像以上に自分が非力だった。いや、それは言い訳か・・・。
「さて、お前はどうする?可能な限り魔物を殺さない。博愛主義のお前はこの問題を解決できるか?」
「なんとか考えます」
「ふーん。気に食わないな」
「気に食わないですか?」
「魔物をできる限り殺さないという考え自体は否定しない。が、見る限り魔物を殺したのはエミリーの方だよな。お前はずっとエミリーに殺させてお前自身は後ろに隠れてた。それが気に食わない」
僕が気にしていることを、この人は言い当てる。
「師匠!セオくんは私を守るために!」
「エミリー。黙ってろ」
エヴァさんはエイミーをギロリと睨んで沈黙させた。
「でも・・・」
それでもエイミーは僕のことを庇おうととしてくれた。その様子を見て、エヴァさんはため息を付いた。
「少年。昨日の檻を覚えているか?」
「僕を閉じ込めたあれですか?」
「うむ。あれから考えてたんだが私はどうも人に物を教えるというのは苦手らしい」
「そうなんですか?」
「ああ、あれじゃあヒントも何もなかった」
突然、何の話をしてるんだろうか。なんだか嫌な予感がする。
「だから今回はヒントを出してみようと思う」
エヴァさんは僕の胸に手を当て魔術を発動。
「うわぁぁぁ!」
魔術の種類は風で、僕は広場の方に吹き飛ばされてしまった。
「師匠!何を!?」
エイミーが遠くで驚愕の表情を浮かべているのが見えた。僕は広場の中に転がり込み、その無様な姿をノーライアゴブリンが目撃した。
「お前はどうも理屈っぽいフリをする質らしい。たまには何も考えずに行動することも学べ。楽しいぞ」
エヴァさんはそう言って広場の入口を土壁で塞いだ。結果、広場には出口がなく、ゴブリン一家と僕だけが取り残された。
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