第12話 2度目の洞窟攻略 -2-
やはり、魔物の正体はスライムだった。
エイミーが玉を着弾させたあと、警戒しながら魔物に接近した。すると雷に感電したスライムが飛散し飛び散った液体の一部はピクピクしていた。だが、コアは破壊されていないようなので死んではいないだろう。念のために土魔術を使ってスライムを覆い、封印魔術を施しておく。数時間はここから出られないだろう。
「よし。進もう」
「うん」
スライムを封印して立ち上がり、ランタンに火を付ける。そして、また洞窟の奥へと足を向ける。
「?」
歩き出そうとした瞬間、ぴちょん、ぴちょん、水の滴る音に気がついた。
「どうしたの?」
エイミーが歩き出さない僕に疑問を思って質問をしてきた。
「水の音が聞こえない?」
僕がエイミーにそう言うと、エイミーは耳に手を当て注意深く音を拾う。
「うん。確かに聞こえる。もうすぐ鍾乳洞に到着するのかな?」
「そうかな?まだ着かないはずだけど・・・」
その時、ふと気がついた。水の音は前方ではなく、後方から聞こえてくることに。
僕は慌てて後ろを見る。
「エイミー!ランタンの火を消して!」
「えっ?えっ?」
僕の慌てた声にエイミーは驚いて身を竦ませた。僕はエイミーが動けなくなっていることを把握すると、急いで魔術を使い、ランタンの火を消した。
「あっ」
エイミーは自体が把握できないでいる。そのエイミーを一旦無視し、蛇と感覚共有を行った。すると、後方に熱源が4っつ。不規則に動いている。目視できなくてもこの動きをする魔物の正体はすぐに分かる。
「後方にスライム!4体も!」
言い終わった直後にスライムがエイミーに襲いかかる。横幅有に70cmを超える大きなゲル状の生物がジャンプして飛びかかってくる。
僕は慌ててエイミーの腕を握り、自分の方向へと引き寄せた。
「きゃ!」
エイミーは慌てて声を出して僕の後方へ倒れ込む。次の瞬間、スライムが僕の腕に飛びつく。
「うっ!」
スライムに触れられた部分に激痛が走る。スライムは体を酸性に変えることが出来、それによって捕食や攻撃をする特性がある。そのためスライムに触れられたら、その場所は焼けただれる。
僕は魔力を雷に変えてスライムに触れられた部分から流す。スライムはバチッという音とともに僕の腕に取り付いている部分が弾けて、スライムは僕の足元に落下する。
僕は少しスライムから距離をとった。突発的に練った魔力じゃ、一部分を吹き飛ばすがやっと。4匹同時に来られたらなすすべがない。わかっていたが魔物は手強い。
「立って!20歩下がって!頼む!」
僕がエイミーに対してそう叫ぶ。エイミーは怯えた表情をしていたが、僕の声を聞いて恐怖を噛み殺し、立ち上がる。僕はナイフを抜いた。ノーライアウルフの皮膚を切り裂いた魔術文字を刻印したナイフと同じものだ。
「僕が相手になる!」
僕がそう叫ぶと同時にスライムが飛んできた。なんの戦略もないただのジャンプだが、ゲル状生物、かつ強い酸性のスライムがそれを行うと大変厄介だ。剣で迎撃しても刃はすり抜け、盾にで防いでも盾を溶かす。とはいえ、魔術師なら対抗する手段はある。
「はっ!」
飛んでくるスライムを、魔力を通した魔術ナイフで斬りつける。刃がスライムに触れた瞬間、スライムの体は炎に包まれた。炎はスライムにとっても恐ろしいもの。体の殆どが水分で構成されているスライムにとって、炎は自身の体の水分を奪ってしまう。蒸発すればスライムはやがて行動不能になってしまう。
「一回だけじゃ無理か・・・」
炎に巻かれたスライムは地面でのたうち回っていたが、しばらくすると自身の水分を使って消化してしまう。そのため、何度か斬りつける必要がある。
次は2体のスライムが同時に飛びかかってきた。
「身体強化魔術!」
自分の体中に魔力を巡らせ、自身の身体能力を飛躍的に向上させる魔術を使用した。それによりスライムの飛びつきを躱し、翻ってナイフでスライムを切りつけた。再びスライムが燃える。
よし、これを何回か続ければ、撃退することができる!
しかし、再度、スライムが飛びかかってくることなかった。飛びかかりの代わりにスライムは体で触手のようなものを作り、殴りつけてくる。
「あぶなっ!」
僕は身体強化魔術を継続的に体に掛け続け、スライムの触手を避け続ける。スライムの触手は鈍器のように固くはないが、酸性を帯びているため当たれば皮膚が焼けただれる。絶対痛いので当たりたくない。
スライムの触手を避けながらナイフで切りつけると触手は炎に包まれる。そうなればスライムはすぐさま燃えている箇所を自切し、すぐに触手を伸ばしてきた。
「きりがないな!」
僕が悪態をつきながら触手を避け、もしくは切りつけいると、2本だった触手は4本に増える。最初に火を付けたスライムが自身の炎を鎮火して戦線に復帰した。
こうなると避けるだけしかできなくなり、僕はジリジリと追い詰められる。そして4匹に包囲されるように追い詰められると、次の瞬間、1匹のスライムがジャンプして僕に襲いかかる。
僕は迎撃するためにナイフを構えた。そしてスライムがこちらの間合いに入った直前にナイフを振る。だがそのタイミングでスライムの体が四散した。一体何故そうなっているかわからなかったが、すぐにピンときた。スライムは自身の体をわざと四散させることで、ナイフで切りつけられても炎が全身に回らないようにし、かつ獲物を逃さないように広範囲攻撃を行った。そうやって炎の刃を躱して僕の体に飛びつこうとする。
「くっ!」
僕、とっさにジャンプしてスライムの雨の落下地点から飛び退いてた。ギリギリで避けれる。そう思った瞬間、2匹のスライムが避けた先にいた。スライムは僕が避ける方向を予め予想し、僕に飛びつこうとジャンプしていた。そして、次の瞬間スライムが四散してスライムの雨を降らす。
これは避けられない。自身のダメージを覚悟した瞬間、洞窟内に声が響く。
「準備できた!」
エミリーの声だ。僕はエミリーの声を聞いた瞬間、ナイフを手放し降ってくるスライムに手のひらを向けて風の魔術を放つ。僕の風の魔術は弱いため全部を吹き飛ばすことはできなかったが、スライムの雨の落下を一時的に遅らせることが出来た。その隙きに僕はスライムの雨の下を走り抜け、洞窟の奥、エミリーが叫んだ方向へ走り出す。
「痛ッ!」
避けることが出来なかったスライムの雨が僕の左手を焼く。だが、それに構わず全力でエミリーの方向へダッシュ。エミリーはこちらの両手のひらをこちらに伸ばしていた。
僕はそのエミリーの脇をスライディングで駆け抜けて「お願い!」と叫んだ。
エミリーは頷いた。
「ファイアーストーム!」
エミリーがそう叫ぶと、エミリーの手のひらから大量の炎が激流のようにスライムたちに流れ込む。これほどの火力があればスライムたちを蒸発させることができる。
エミリーは大量の炎を数秒間出し続けた。魔術を使用した後は、洞窟の壁や天井が少し溶けていた。僕はスライムたちの様子を探った。熱感知は使えないが、今なら目視ができる。
「どうやら・・・倒せたようだね・・・」
僕がそうつぶやくと、エミリーは両膝を地面に付いた。
「大丈夫!?」
僕がエミリーに駆け寄る。
「私は・・・大丈夫・・・。セオくんは?」
「大丈夫なら良かった。僕は大丈夫。かすり傷さ」
「かすり傷!?怪我したの!?」
怪我を心配させないための言葉が、逆に僕が怪我をしていることを知らせてしまった。
「見せて!」
「いやいや大丈夫。もう完治したから」
「え?どういう事?」
「魔術で治した」
「セオくんはそんなこともできるんだね・・・」
身体強化魔術の応用で、自己再生力を高める事もできる。それによって少しのやけど程度なら治すことができる。本当は僕の魔力では完治まではできなかったが、エミリーに心配をかけないように完治したと告げた。
それにしても、なんだかエミリーの元気がないように見える。もしかして、無理やり引き寄せてこけさせたことを気にしてるのかな。確かに突然強い力で掴まれたらびっくりするよね。
「あのさ・・・エミリー・・・」
「なに?」
「腕を掴んじゃってゴメンね。痛かったでしょ?それにコケたし。怪我しなかった?」
「ううん。大丈夫・・・」
「どうかした?」
「・・・・」
どうやら無理やり引き寄せたことを怒っているわけではないらしい。じゃあ、どうしたんだろ?
「私・・・スライムが現れた時、驚いて固まってた・・・。怖くて足が竦んでた・・・。昨日も狼に襲われるときも逃げることしか出来なかった・・・」
「それは仕方ないよ。魔物は怖いものだから」
「でも、セオくんは助けてくれた。昨日も今日も。自分が傷ついても私を守ってくれた」
「いや、今回助けてもらったのは僕の方だよ。エミリーの火の魔術が無かったら正直、死んでたかも」
「それだって、セオくんが考えた作戦を実行しただけだし、セオくんの言葉がなければ私は動けないままだった」
「僕としては、僕の作戦が上手くハマってくれてよかったと思ってるし、成功理由はエミリーが僕の作戦を理解して実行してくれたことだと思ってる」
「・・・・でも・・・」
エミリーは自分の行いを悔いているようだ。恐怖で立ち止まってしまった事を後悔し、また、似たようなことが起きれば同じことをしてしまうという恐怖。確かに今まで2回連続でそうなったんだから、次も同じことになるという恐怖は至って真っ当だろう。
「エミリー。僕を見て」
僕はエミリーに近づき、中腰になり視線と高さを揃えた。
「僕は今、怪我をしていない。エミリーは怪我してる?」
「?してないけど・・・?」
エミリーはどうしてそんなことを聞くのかわからないという表情をした。
「2人とも大きな怪我がなく、スライムを撃退した。これは僕ら2人が協力して上げた戦果だ。僕と、他でもない君が成し遂げたことだよ。それに反省点があれば次に活かせばいい。僕らは生き残れたんだから」
「次のチャンスも失敗してしまったら?」
「その次のチャンスに成功すればいい。恐怖に立ち向かうこということはいつだって、何度だってやっていんだ。次が駄目だったとしてもその次がある」
「・・・・・」
「まぁでも僕に言わせれば、今回のエミリー。すごかったよ。僕を助けてくれた」
「本当に・・・本当にいつか、私は怖がらずに動けるようになる?」
「絶対なる。僕はそう確信してる」
僕の言葉を聞いたエミリーは少し考え事をして、よし。と呟いて立ち上がった。
「セオくんがそういうなら、私も自分を信じてみる」
僕は立ち上がって頷いた。
「その意気だよ」
2人が笑顔になって洞窟の先へと進む準備をしていると、エミリーが突然思い出したように声を上げる。
「あ、スライム達を殺しちゃった・・・。ごめん・・・。セオくんって魔物も殺さない主義だよね」
「・・・・・・そうだね。そうだったね」
「私、必死で、手加減できなくて・・・」
「いや、それを含めて僕の力量不足だよ。エミリーは気にしなくてもいいよ」
「そっか・・・。ごめん」
そういえば、僕は魔物を殺さないようにしてたんだっけ。必死だったから忘れてしまっていた。
2人の洞窟探索は続く。
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