第11話 2度目の洞窟攻略 -1-

「さて、準備はいいか?」


 エヴァさんが僕とエイミーに向かって確認をしてきた。それに対し僕らは頷きで返答した。

 洞窟に到着して3日目の朝。現在時刻はおおよそ10時。僕ら3人は洞窟の前に立っていた。2日目に僕はエヴァさんとエイミーに出会い、今日はエイミーと協力して洞窟を攻略することになった。 


「今回は洞窟内での活動時間は3時間ほどに設定しよう。2時間くらい経ったらどんな状況でも引き返してこい。くれぐれも油断するなよ」


 エヴァさんの言葉に再び僕らは頷く。


「わかったな。じゃあ行け」


 そう言って僕らを洞窟内に送り出した。

 2日目の夜、僕とエイミーはお互い、自身が使える魔術について説明と実演を行った。エイミーは火と土、風の魔術を使用することができる。中でも火と土の魔術は大したもので、風はまだ勉強中ということで拙い部分がある。


「この洞窟。昨日は怖かったけど、セオくんがいると心強いね」


 エイミーが僕にしか聞こえないほどの音量の声でそう言った。


「それはこっちのセリフだよ」


 僕も声を極力抑えてそう返事をした。昨日の魔術練習中に実感したことは、エイミーの魔力量は膨大ということ。訓練した大人の魔術師さえ上回ってるだろう。この魔力量を正しく運用さえできれば、スライムやノーライアウルフなんてなんら障害になりえない。スライムを一瞬で蒸発させ、瞬きする間にノーライアウルフを八つ裂きにすることも容易にできる。

 とはいえ、エイミーはまだ技量的にそんなことができない。しかし、僕が状況に即した魔術文字や魔術紋章を提供できれば、適切な運用ができるようにある。つまり、コントロールが得意でも魔力のない僕と、魔力があってもコントロールが未熟なエイミーがそれぞれお互いの弱点をカバーしあえるということだ。エイミーが使える属性は3属性もあるので、僕にとってこれほど心強い助っ人はいないとさえ思う。


「じゃあ気を付けながら行こう」


 僕がエイミーにそう言うと、エイミーは頷いた。2人は洞窟を進む。今回の洞窟探索は前回と違い、松明ではなくランタンを使用している。

 洞窟で松明を使う利点としては、もし、洞窟内でもし無酸素の場所があった場合、その事をいち早く把握できるというものがある。しかし、光が強すぎるため魔物から見つかりやすくなったり、熱源として強すぎるため、僕の操魔術で操作している蛇の知覚を邪魔してしまうという欠点があった。

 だから、今回はランタンの火を使い、足元だけを照らせるだけ光量を確保した。魔物に見つかりやすいということは変わらないが、松明より光が弱いので確率が減らせると思った。そして、無酸素箇所の把握には、エイミーに風の魔術を使ってもらうことにした。僕がエイミーの左手の甲に魔術陣を描き、そこに風の魔力を通すことで発動する障壁を展開してもらっている。僕ではすぐに魔力が枯渇してしまうが、エイミーなら何時間でも維持することができるため、このアイデアを実現することができた。そして、僕は蛇の知覚を利用して、洞窟の奥まで見通し、魔物の気配を探っている。


「それにしても、セオくんってすごいね。私と違ってどんな魔術でも使える」

「僕からしたら、エイミーのほうがすごいよ」

「私?」

「僕もエイミーの半分の魔力でもあれば・・・」

「師匠にも言われたことがあるけど、私の魔力量ってそんなにすごいの?」

「すごいよ」

「そうなんだ。私は師匠ぐらいしか比べる人がいなかったから・・・」

「それは比べる人が悪い。あの人はおそらく国内でも指折りの魔術師じゃないかな」

「へぇー。師匠ってやっぱりすごいんだ」


 自分の師匠を褒められたことで、エイミーの声にはわずかに喜びの感情が乗っているようだ。


「でも、セオくんもすごいよ。そのヘビちゃんとかも含めて、他人に興味ない師匠がびっくりしてたもん」


 ヘビちゃんというのは操魔術のことだろう。


「僕は魔力が少ないから、こうやって工夫するしかなかったってだけだよ」

「それがすごい。私は環境に恵まれているだけで、自分ではなんの努力もしてないんだもん」

「僕が言うのも何だけど、魔術学校入学前に3属性使える人って少ないよ。なんの努力も無しにできることじゃない」

「それは師匠が教えてくれたから。私自身は言われたとおりしてただけ」

「言われたとおりできるだけでもすごいんだけど。ちなみに、エヴァさんってどういう教え方するの?」

「師匠は魔術を使って見本を見せてくれる」

「なるほど。他には?」

「他?見本を見せてこれをできるようになれって言ってくれるだけだけど?私はあんまり器用じゃないからなんでできないんだとよく怒られる。」


 こ、これは俗に言う天才の教えて方ってやつか。自分が魔術習得に苦労したことがないから、当然人もできるだろうと思って疑わない人だ。そして、なんで他の人はこんなこともできないんだろうとか思ってそう。なんかそんなイメージがある。ていうかそれでできるようになるって、エミリーも相当じゃないか?


「でも私はまだ3属性しかできない。師匠が私くらいの年には基本魔術と第2魔術の数個はマスターできてたんだって」

「そんな人と比べても仕方ない気もするけど」

「でもセオくんも基本魔術と第2魔術使えるでしょ?」


 それは前世の記憶というズルがあり、その上で寝る間も惜しんで魔術の勉強と訓練を行い続けた結果であって、ゼロからそれを行えるのは天才の類だろう。おそらく前世の記憶がなければ1属性も満足に使えなかった。今も魔力不足でほとんど使えていないが・・・。


「じゃあ僕も運が良かった。良い蔵書に巡り会えたんだから」


 前世の記憶というと、かえって混乱させてしまう可能性があるので、本ということにした。


「じゃあ私達はラッキーペアだね!」


 エミリーはそう言って笑った。僕も思わず口が綻んだ。だが、次の瞬間前方に何かがいることを蛇が察知した。


「エミリー。ランタンの火を消して」


 僕が小声で頷いてにそう言うと、エミリーは頷いてランタンの火を消した。形状は昨日見たスライムと告示している。昨日も確か、このへんでスライムと出会ったので、昨日と同じ個体かもしれない。


「エミリー。昨日渡したスリングショットを出して」


 昨日の訓練で僕はエイミーにスリングショットを渡した。僕が使うよりエイミーが使うほうが良いと判断したからだ。スリングショットには魔術文字を彫り込んでいるため、エミリーが風の魔力を込めれば、昨日、僕が行った魔術と同じものが発動する。今回の洞窟探索では魔術発動は基本的にエイミーの魔術を使用する。使う場面や発動の仕方については僕が調整する。僕からしたらエイミーにおんぶにだっこ状態となってしまうが、情けないことに実力上それが一番効率的だ。


「玉はこれを使って」


 封印魔術で雷を封じ込めた玉。スライムの動きを止めるにはこれが一番効果的なはず。エイミーは頷いて玉を受け取りつがえる。僕はエイミーが構えているスリングショットを掴んで、前方のスライムらしき影に着弾するよう調整する。


「エイミー。魔力を込めすぎてる。もっと減らして」

「ご、ごめん」

「謝ることじゃないよ。リラックスして。大丈夫。かならず当たる。もっと減らして。もっと。もっと・・・・」


 エイミーは魔力量強すぎるため、小さな術にも大量の魔力を消費してしまう。そんな魔力を注い得でしまえばスリングショットに刻まれた魔術文字が傷ついてしまう可能性がある。それに、下手をすればこの洞窟が壊れてしまう可能性すらある。


「こ、このくらいでどうかな・・・」


 エイミーにとって経験のないほど少ない魔力をスリングショットに注ぐ。それでも僕の2倍くらいあるが、これくらいなら大丈夫だろう。


「オッケーだよ。息を整えて。大丈夫。落ち着いて打ったら絶対当たるから。自分のタイミングで打っていいよ」


 エイミーは頷いたあと数回深く息をした後、スリングショットから玉を発射する。玉は高速で前方に飛来し、遠くでバチッっと一瞬光る。そして蛇の知覚で前方を探ると、影が一つ。動きを止めている。


「着弾確認。魔物を倒せたよ」

「ホント!初めて魔物を倒せた!」


 エイミーは嬉しそうにそう言った。

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