第7話 見習い少女の師匠
とりあえず立ち話もなんなので、エミリーとエヴァさんを自分のキャンプに案内する。幸い、キャンプの場所はすぐ近くに設営してあるのですぐに行ける。そこに荷物や水や食料を保管してあるし、内部にはたき火をする場所も作ったので、そこでお湯でも沸かし、すこし落ち着いてから話をしようと思った。
僕らが森の中を少し歩くと、すぐに僕のキャンプ地へとたどり着く。そしてそこに立っている土壁を見て、エヴァさんがつぶやいたのは、
「狭いな」
至極正直な感想だった。エヴァさんはその後も言葉を続けた。
「見たところ、土の魔術で土壁と、壁内部側に魔術文字の記載もセットで行う魔術陣を使ったといったところか。ふーん・・・」
そうつぶやくと、杖を掲げ緩やかな動作で地面に軽く突き刺す。
「土よ」
そう言うと周囲10メートル以上の外円に分厚い土壁が、木々をなぎ倒しながら盛り上がる。ついでに土壁の内側の地面はほぼ平らに整地された。
「風よ」
次は風の魔術を使って倒れた木々を寸断していく。そして薪に使用できるほどの大きさになったら、竜巻をおこし一箇所に集める。
「水よ」
そう言うと裁断した木々から水蒸気が立ち上る。水蒸気はしばらくする次第に水気が少なくなっていくのが目に見えてわかる。その時点で、エヴァさんは魔術を解除しすぐにでも使用できる薪が完成。
「これで少しは落ち着けるだろ?」
エヴァさんはそう言って不敵に笑ってきた。僕はと言うと唖然の一言。この魔力量と正確さ、前世の僕でも今世の僕でも足元にも及ばない。いや、それどころか高いレベルで3っの属性を次々と使用していた。本人は平然としていたが、このレベルの魔術を行使できる人間は、おそらく国中探してもわずかしかいないだろう。今の魔術だけではなんとも言えないが少なくとも、国家や魔術院が放っておかないレベルはありそうだ。
「さすが師匠!」
エミリーは嬉しそうに喜んでいる。僕はゴクリと生唾を飲み込みながら何も言葉を発せられずにいた。魔術ってスゲー。
「礼ならいらんぞ。お前はエミリーを助けてくれたそうだからな」
礼も何も僕のキャンプ地をディスって、僕よりすごいことを見せつけて、弟子にいいとこ見せたかっただけじゃないかと口にしそうになったが何とかその言葉を飲み込んだ。だがその僕に向かってエヴァさんは笑いながら声をかける。
「いいところを見せるも何も、私の方がすごいのは当然だろ」
"読心術"。僕の心を読んだとしか思えない発言。特殊な才能を持った魔術師しか使用できないという極めて稀な魔術までこの人は使えるのか。
僕の動揺を尻目に、エヴァさんは今作った薪の数本を魔術で引き寄せると、サクッと火を付けてたき火を始めた。またその周りを土で盛り上げ、腰掛を作りった。
「さて、座り給え。エミリーもこっちにきなさい」
僕はそう促されたのでおとなしくたき火の前に座った。三人で火を囲い、話が始まる。
「改めて聞くが、君は何者だ?」
「セオ・ノーライア。10才、ノーライア家、5番目の子供、魔術師志望です」
「ふむ。嘘は言ってないようだな。話が早くて助かる」
読心術を使っておいて、わざわざ聞き出す必要なんてない。というか読心術を使えたとしても、それを使えると公言する魔術師はいない。周りの反感を買うし、そもそも、何種類かの方法で対策ができるからだ。秘めているからこそ恐ろしい魔術となりえる。
「こちらからも質問良いですか?」
「答えなくても良ければ」
「し、師匠・・・。一応初対面の相手にその対応は・・・。第一印象は大事だっていつも言ってるじゃないですか」
「大事だと言っても、私がやっているとは言ってないだろ」
「ええ!?」
エミリーがエヴァさんの言葉を聞いて目を丸くしている。おそらく僕も同じ顔をしているだろう。
「あなたは何者ですか?」
「答えられる範囲でいいか?私の名前はエヴァ・トーマス」
「エヴァ様ですね」
「様はいらない。体が痒くなる」
「なるほど」
「・・・・・・」
「・・・・・あの?」
「答えられる範囲といったろ?」
え?この人名前以外は何も言わない気なの?
「はぁ。そんな顔をするな。魔術師相手に名前を教えただけでも大サービスだってわかるだろ?それにその魔術師に弟子の存在も知られているとあってはな」
「何もしませんよ」
「違う。これは礼儀の話だ。お前が魔術師でなかったらもっと教えてやっても良かった。それぐらいにはお前を警戒している」
なるほど。僕の事を歯牙にもかけていないと思っていたが、一応魔術師としての警戒をしてくれているのか。プロの魔術師らしい礼節の尽くし方ということか。
「魔術師として歯牙にもかけてないのは本当だ」
「人の心を読まないでください」
「なら、簡単に読まれるなよ」
「たしかにその通りですが・・・」
魔術師の常識として、魔術をかけられた方が悪いというものがある。「魔術にかけられたくなかったら自身の魔術を磨け、それでも足りないなら知識を増やせ。魔術にかけられるのは努力が足りないからだ」というものだ。とはいえ僕は魔力が少なく、対抗手段も少ない。さらに、この世代の魔術の知識はほとんどないに等しい。さて、どうしたものか・・・。
僕が苦悩している光景を見て、エヴァさんはため息をついた。
「お前の事はだいたい分かった。ただ一つ、なんでお前はこんなところにいる?」
僕がここにいる理由は魔石を手に入れるため。自身の意向を父親に認めてもらうためだ。そのことをエヴァさん伝えるため口を開こうとする。直後、僕の言葉より先にエヴァさんが言葉を発する。
「いい。言わなくていい。わかった」
「心を読んだんですか?」
「その方が効率的だろ?」
確かに、説明の手間は省けた。それにエヴァさんにバレるのは仕方ないにしても、エイミーにばれるのはちょっとカッコ悪い気がしたので聞かれたくなかった。そう思って僕がエミリーの方をちらっと見ると、エイミーはうなだれている。
「あの・・・どうしたのエイミー」
「お・・す・た・・・」
「え?なんだって?」
「お腹すいた!師匠とセオくんはなんかよくわからない話してるし!」
「やれやれ。じゃあご飯の用意をするか。私が材料担当。料理は2人でしてくれ」
エヴァさんは僕とエミリーに支持を出した。
「はーい!」
「わかりました」
僕らは了解し返事をした。その様子を見るとエヴァさんはよしとうなずいて、自分の荷物の中から肉や野菜等の食材を取り出した。明らかにバックに入りきれる量ではなかったので、おそらく魔術で圧縮格納していたのだろう。しかも野菜は取り立ての鮮度だ。
「よし。材料は揃ったな」
エヴァさんは満足げな顔をしている。
「今から採ってくるんじゃないの⁉」
僕は思わず立ち上がる。
「担当と言っただけで、今から採ってくるとは・・・」
「出しただけじゃん!なんでそれで満足げな顔ができるんの⁉」
「うるさい奴だなぁ。わかったよ。ワインもつけるよ。特別だぞ」
「そういうこと言ってるんじゃないですよ!?」
「まぁまぁセオくん。もともと調理全般は私の役目だから」
驚きの余り声を荒げている僕を、エイミーが僕をなだめる。
「すみません。取り乱しました」
「そうだぞ。余裕のない奴だな」
「くっ」
言い返したいが、正直自分でもその通りだと思ったので言い返せない。そうしていると、エヴァはグラスにワインを注ぎはじめる。
「今から飲むの⁉まだ昼間だよ⁉」
「それがいんじゃないか」
「せめて料理ができるまで待たないの?」
「いや、腹減ったし」
「私もお腹すきました!師匠!」
「そうかそうか。エイミーも呑むか?」
「待て待て待て!昼間っから子供に酒飲まそうとするな!」
「なんだよ固いこと言うなよ。貴族のお前らだって子供のころか酒飲むだろ?同じことだ」
「ぐっ、それは・・・」
この国の貴族は子供のころからアルコールに慣れるため、ディナーにいっぱいのワインを呑ませる風習がある。公的な場所でアルコールによる失敗を防止するためだ。
「まぁ固いこと言うなよ。お前も呑むか?」
「結構です。野営中に呑むほどアルコールに強くないので」
「そうか。じゃあエイミーもお預けだ」
「はーい」
エイミーはちょっとしょんぼりした表情をしている。
「そんな落ち込んだ顔をするな。料理ができたら一緒に呑もう。な?」
「ほんと!やったー!」
この様子だとエイミーもたびたび呑まされてるんじゃないだろうな。まぁ、人様の師弟関係に口を出すのも良くないし、子供のころからアルコールを呑ませるなんて、貴族だけじゃなく一般家庭でもやるところはやってるし。
「そうそう。結構どこでもやってるからな?お前は頭が固いぞ」
「人の心読まないでくれますか?」
「まぁまぁ、そうツンケンするな」
そう言ってエヴァさんはグラスをあおった。グラスのワインは一気にエヴァさんの口の中に流れ込む。
「えらく豪快な飲み方ですね」
「元は卑賤な身分なんでね。それはともかく早く飯ー」
「はいはい。わかりましたよ。エイミーとりあえず僕は肉を焼いてくるよ」
「わかった。私はそのほかの料理を準備しておく」
そう言って僕らは料理を開始し、僕はかつて僕のキャンプ地で会った場所を使って肉を焼くためそちらに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます