第3話 今生初めての洞窟攻略 -準備編-

 近場の村から丘を超え、深い森を抜けた先にある洞窟が、今回の目的地。近場の村から約2時間ほど歩くと到着する。僕が人里離れたこの洞窟にやってきたのは理由がある。


 僕の父が国王より預かるこのノーライア地域で魔石を探すにあたって、この地域の調査書や資料を読み漁った。大きな採掘場だと必ず持ち主がいるし、そんな鉱脈には強い魔物が寄ってくる。もし僕が強い魔物と出会ったらその時点でゲームオーバーなので、可能な限り小さな鉱脈がいい。欲を言えば村からそこまで遠くなく、何日も滞在するので安全な寝床が確保できる場所がいい。きれいで流れの早い川があるとなお良い。洞窟自体も小さければ言うことなし。そういった条件で資料をあたると、一つだけ条件に合う場所が見つかった。これから向かう名もない洞窟だ。


 これから向かう洞窟になぜ名前が無いのかといえば、ここは一度も使用されず廃棄された坑道だからだ。

 この近くの村人が一攫千金を夢見て、魔術師の占いによりここを掘り進めた。結果的に魔石自体は見つかったものの、そこそこ深くまで潜らないといけなかった上に、取れる量もほとんどない。村人はそれがわかるとすぐさまこの洞窟を放棄して大きな坑道に働きに出たという。

 魔石採掘調査書の切れ端にしかない重要度最低の情報だが、僕にとっては朗報になった。僕が欲しいのはそもそも手に乗るほどの大きさの魔石なので量は関係ない。さらに坑道のため、ある程度は一本道で普通の洞窟よりは歩きやすいだろうという期待もある。さっそくこの洞窟に重点を置いて、調べながら準備を行い、計画を立てて、本日が実行日というわけだ。


 この体になっての冒険は初めてなので、弾む気持ちが抑えられない。前世ではさまざまなフィールドワークをしていたものだが、貴族に生まれたため家の周りしか外出できない。それは幸運だと思うし安全であるが、その反面、息苦しさも感じていた。だかその息苦しさは今は感じない。自由というのはなんと美しいことか!


 そう思いながら歩いていると目的地に到着する。洞窟は森の中で突然現れる崖に存在している。崖は見上げるほど高く、見上げると真上に登った太陽が眩しい。


「これは面白い地形。地形が隆起してできた崖なのかな。てことはここで大きな地震あったりしたのかな?地質を調べてみたい・・・。いや今はダメだ。フィールドワークにするにしては体力もないし、魔術をほとんど使えないい今の僕が行うのは非効率。それに今回の目的な魔石だ。書き置きを置いて黙って出てきたからあまり時間を掛けると大変なことになるかもしれないし」


 今回の旅において、僕は家の者に何も告げずに出てきた。書き置きだけは残してきたが、もし、予め報告して出てきたら必ず家の者が従者としてついただろう。もし従者を連れた状態で魔石を手に入れたら、父上から「どうせ、従者にやらせたんだろう?」という嫌疑をかけられる恐れがある。それだと自分の決意のアピールにならないし、それに見習いではあるが魔術師として自分の手の内を誰かに知られるのは良くない。という理由を並べてみたが、それは建前で、本音は一人で出歩きたかっただけなんだけど。


「さて、ほぼ予定通りの時間に洞窟にたどり着けた」


 昼頃には到着して、洞窟探索の準備をしたかった。計画では1日目は洞窟への移動とキャンプの準備。2日目から洞窟内の探索を行う予定である。洞窟探索がどれくらいかかるかはわからないが、だいたいスケジュールは1周間ほどで、それを過ぎれば撤退する予定である。


「とりあえず寝床の確保と薪の準備、水場の探索、可能なら食べられる植物や木の実を見つけたい」


 頭の中で今からやることを適当にリストアップした。1日目はとても忙しいので急いで準備を始める。一番最初の始めるのは拠点づくり。そこに寝床や荷物を置けるような場所を作る。


 約10分ほど探し回った結果、直径7~8メートルの少し開けた場所を見つけた。この場所ならちょうど良いと思ったので、早速準備を始めることとする。僕はバックの中から紙の束を取り出した。それを地面に並べて飛ばないように木の針で紙と地面を突き刺す。そして並べ終わったあと、ちゃんと思う通りに並んでいるかを確認する。紙には幾何学の模様や文字が記されており、全てをつなげると大きな魔法陣になった。


「正直、前世の頃も魔力が少なかったから、こういう工夫はいろいろしたなぁ。懐かしい」


 目視で確認したが、魔法陣に問題はないようなので魔術を発動させる。


「いでよ!土の壁!」


 そう言って魔力を魔法陣に使うと地面から土の壁が盛り上がる。壁の厚さ30cmほどの壁が、短径が約6メートルの楕円形の形にぐるっと出来上がる。出来上がった壁に触れると、土特有のジャリジャリとした触感を感じる。たった今、地面から盛り上がったためかひんやりとしている。少し力を入れて削ろうとしても、土壁は欠片も崩れることはない。


「久しぶりにつくるから心配だったけど、これなら大丈夫そう」


 土壁の状態を確認した後、大きなバックをその場に下ろし、故意に開けた土壁の穴から外に出た。そして、また魔術を使って、その場所も土壁で塞ぎ、野生の動物が侵入できないように蓋をする。


「よし、次は水場だね」


 そう言って土壁を後にする。そして地図を片手に魔物や動物に注意しながら川を探す。土地勘が無いので川探しは手間取るかもしれないと身構えていたが、以外にも川はあっさりと見つかった。

 水を汲んで土壁のところへ戻る。途中に薪になりそうな木の枝やテントを支えられそうな長めの枝をいくつか持ち帰った。


「焚き火は野営の醍醐味だよね」


 水と枝を持って土壁に帰ると、土壁内に焚き火するスペースと寝る場所を簡易的に設置する。ここで数日間、寝泊まりするので少しでも快適にしたい。だから、天井代わりに布を設置したり、床には家から持ってきたカーペットを敷いた。少しゴツゴツとしていたが、これなら大丈夫だろう。


 次は食料を探すために、土壁をあとにした。。一応食料は持ってきてはいるが、最低でも数日はここに滞在する予定なので、食べ物は多ければ多いほどよい。


「食べられる植物、木の実、あとはできれば小さい動物を捕まえられると嬉しいな」


 普通の木の実って酸っぱいし、雑草は基本的には苦い。しかも、正確な知識がなければ毒のある物を口に入れてしまうかもしれない。毒に関してはある程度は覚悟しなければならないかもしれないが・・・。小さい生き物は焼けばおいしいし、毒はある前世の記憶である程度わかるし、塩は持ってきているからそれで食生活は充実する・・・はず。

 それから数十分、歩き回った結果、食べられそうな植物といくつかの小さい木の実を採取した。


「とりあえず、これくらいでいいか。そういえば砂糖とか持ってくればよかったな・・・」


 すっぱい木の実なら、もしかしたら砂糖をかければとても美味しくなるのでは?と思ったが、この地方では砂糖は高級品。それを実家から盗むんでくるのは少し気が引けたので持ってこなかったのを思い出した。

 そう、考えていた矢先、目の端で動くものを見つけた。にゅるっと細長い生き物。蛇だ。


「風の魔術!音消し」


 僕は慌てて魔術を発動した。音消しや匂い消しができる風の結界を自分の周囲に張り巡らせる。この術はフィリップが考案し、小動物を捕まえるときに使っていた術。それを使って蛇を捕まえようと試みる。

 幸い蛇はこちらの様子に気がついていない。じっくり、ゆっくり、蛇に近づいていく。蛇はまだこちらに気がついていない。


「えいっ!」


 ある程度近づいたら、勢いよく蛇に向かって飛び込み、蛇の首元をぐっとつかみ持ち上げた。蛇は一瞬何が起こったか理解できていない様子だったが、すぐに僕の腕に体を巻き付けた。


「いだだだだ」


痛みはするが絶対に蛇は離さない。ここで蛇に会えたのは幸運だ。

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