第236話 旅立ちの朝 3
リズディアは、モカリナとイルーミクに抱えられるように、連れて来られたエルメアーナに声をかけた。
ただ、聞いた話から、エルメアーナは、父親であるカインクムと、親友であるフィルランカが、男と女の関係になってしまったことが、かなりショックのようだった。
ジュエルイアンは、2人の関係を知ってしまったエルメアーナを、カインクムとフィルランカをリビングに移動させると、ヒュェルリーンにエルメアーナの対処を依頼した。
その際に、ヒュェルリーンは、エルメアーナが、学校に行けなくなったトラウマについて話を聞いていた。
それについて、ジュエルイアンは、報告を受けているが、イスカミューレンとの会話で、エルメアーナのトラウマについて、話してはいない。
流石に、性的なトラウマについて、具体的な内容を多くの人に話す趣味はないので、リズディア達は、子供の頃のエルメアーナのトラウマを知らなかった。
二十歳を過ぎて、男と女の関係を目撃したからといって、これ程ショックを受けてるエルメアーナが、何でなのかと気にはなったようだが、それ以上の追求はしていなかったようだ。
「エルメアーナ、あなたには、フィルランカの行為が許せないのでしょうけど、あれは、人として必要な行為なのよ。 生物にとって、子孫を残す行為を行っただけなの」
リズディアは、言葉を選んだつもりだったのだろうが、ソファーに座って聞いていたジュエルイアンは、微妙な表情をしていた。
(あー、リズディアは、エルメアーナが、学校に行けなくなった理由を知らないのか。 ちょっと、それは、エルメアーナには、キツイかもしれないぞ)
ジュエルイアンは、仲裁に入ろうかと思ったのか、ソファーから腰を上げようとしていたが思いとどまったようだ。
「リズディア様、それは、子孫を残そうという生物としての行為なら問題ない。 しかし、それを娯楽として、楽しむ事も含まれているの? 一度に、複数の男と交わることも、一緒なの?」
リズディアは、エルメアーナの言葉に、フィルランカ達の行為とは違うものがあるように思えた。
フィルランカとカインクムは、お互いに愛し合っただけで、フィルランカは、複数の男を相手にしてはいない。
(どういうことなのかしら。 フィルランカは、カインクムと、行っただけで、複数の男と行為を持ったわけではないわ。 フィルランカの話とエルメアーナの話には食い違いがあるわ。 ひょっとして、エルメアーナには、何か別の理由があるのかしら)
リズディアは、後ろで、自分達を見ているジュエルイアンを見た。
(ひょっとして、ジュエルイアンは、エルメアーナの事を、私の知らない何かを知っているのかしら)
リズディアは、エルメアーナを見ると、その後ろに、支払いを済ませて、リズディア達の方に歩いてくるヒュェルリーンを見た。
(ヒュェルリーン! そうよ、ヒュェルリーンが居たわ。 あの日、カインクムとフィルランカの、男と女の関係について、ショックを受けていたなら、ジュエルイアンは、エルメアーナに声をかける事は無い。 そんな時なら、ヒュェルリーンを使って話をするでしょうから、……。 それなら、エルメアーナが、ヒュェルリーンに、何か話たのね。 ……。 そうね、それで、ジュエルイアンは、エルメアーナが、これほど、ショックを受ける理由を知ったのなら、あの態度もうなづける)
リズディアは、エルメアーナに近寄って、肩に手を置いた。
(そうね。 理由は何だか分からないけど、エルメアーナは、フィルランカが、カインクムに夜這いをかけたことが嫌だっただけじゃないのね。 その理由もあって、ジュエルイアンは、エルメアーナを南の王国へ連れて行くというのかしら)
すると、リズディアは、エルメアーナを抱きしめた。
エルメアーナは、リズディアにされるがままに体を預けた。
それは、エルメアーナに贖う気力が、まるで無いような様子だった。
「エルメアーナ。 あなたの決断に、私は何も言うつもりはないわ。 でも、フィルランカは、カインクムを愛していたのよ。 決して、浮ついた気持ちでカインクムに迫ったわけではないわ。 心から愛していたから、そうなってしまったの」
リズディアは、フィルランカを擁護した。
それは、自分にもイルルミューランを愛した事からも、そんな娯楽としての行為のつもりではなかったと理解していた。
リズディアには、フィルランカが、心の底からカインクムを愛していたと思っているのだから、リズディアは、フィルランカ達を応援する気になったようだ。
しかし、エルメアーナを見て、エルメアーナの言葉を聞くと、自分の思っていた事とは、少し違いがあるように思えたのだ。
そんなエルメアーナを、リズディアは、大事に思えたのだ。
すると、エルメアーナを抱きしめるリズディアだったが、リズディアの肩に手が置かれた。
「リズ。 エルメアーナの事は、私が何とかします。 今は、帝都に居ても、気持ちが収まらないと思うわ。 だから、南の王国で、私の近くに置いて、面倒を見るつもりよ。 そして、気持ちが落ち着いたら、カインクムさんとフィルランカと、また、3人一緒に暮らすといいわ。 今は、少し離れて、気持ちが落ち着くのを待ちましょう」
ヒュェルリーンは、リズディアの気持ちが分かっているように話しかけた。
リズディアも、ヒュェルリーンの思っていることが分かったように、優しい表情をした。
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