第235話 旅立ちの朝 2
ジュエルイアンとヒュェルリーン、エルメアーナの3人は、階段を降りて、1階のロビーに行くと、そこには、双子の姉妹である、ルイセルとアイセルが、カウンターに入っていた。
ジュエルイアンは、そのまま、入口の方に歩いて行くが、ヒュェルリーンは、カウンターの方に行ったので、エルメアーナは、その後を追っていった。
ジュエルイアンは、ロビーの一番奥の受付カウンターから、ルイセルの視線を感じると、後ろのヒュェルリーンを指差し、支払いは、ヒュェルリーンが行うと、ジェスチャーで示した。
ジュエルイアンは、通り過ぎて、ロビーのソファーに座ろうと、そっちに向かった。
一番手前の、食堂の入口の脇、奥のカウンターに一番近いところには、金糸雀亭の玄関方向に向いた長椅子と、テーブル、その向かいに1人掛けのソファーが置いてある。
手前の3人掛けには、先約が座っていたので、その後ろ姿を見つつ、先の方のソファーに座ろうと、通り過ぎようとした。
「ジュエルイアン。 ごきげんよう」
抜けようとしたところ、そのに座っていた1人から、声をかけられたので、ジュエルイアンは、振り返った。
振り返って、声の方向に視線を向けると、そこには、品の良い女性が、両脇に若い女性を連れて座っていた。
「ひどいですわ。 義父様にだけ、挨拶をして、私には、挨拶無しで、南の王国に帰ってしまうのですか?」
声をかけたのは、リズディアだった。
そして、両脇にモカリナとイルーミクが居た。
「おや、殿下。 今日は、こちらにお泊まりだったのですか?」
リズディア達は、帝都に自宅を持っているので、金糸雀亭を使う必要はない。
そして、イルルミューランと結婚して、皇位継承権を放棄したので、殿下と呼ぶ必要はないのに、ジュエルイアンとしては、嫌味のつもりで言ったようだ。
「ああ、金糸雀亭で、新人研修でしたか」
そして、両脇に座る若い女性達を見て、納得したように、ジュエルイアンは言った。
そのジュエルイアンの言葉を、リズディアは、ムッとした様子もなく、聞いていた。
「いえ、そうではありませんわ」
リズディアは、返事をすると、自分と対面する位置のソファーを指し示す。
(くそー、面倒な)
ジュエルイアンは、仕方なさそうに座る。
「それで、今日は、何の御用なのですか?」
それを聞いて、心外そうな表情をリズディアはした。
「まぁ、そんな言い方は、ひどいですわ。 私は、友人のジュエルイアンもですが、ヒュェルリーンとエルメアーナの出発を見送りに来たのですよ。 この2人もエルメアーナを見送りたいとの事でしたから、一緒に連れてきたのです」
リズディアは、つれなそうに言った。
「この子達は、フィルランカを通じて、エルメアーナとも友達ですから、一言、お話をしたかったのですよ」
ジュエルイアンは、大して興味もなさそうだったが、そういう事ならと思いつつ、納得したような表情をした。
「そうか。 だったら、早く済ませてくれ。 エルメアーナは、カウンターで、ヒュェルリーンの後ろに居る」
ジュエルイアンの言葉に、モカリナとイルーミクは、振り返って、エルメアーナを確認すると、リズディアを見た。
「行ってらっしゃい」
リズディアが、一言言うと、2人は、軽くお辞儀をしてから、立ち上がって、エルメアーナの方に行った。
「あの2人は、そんなにエルメアーナと親しかったのか?」
「そうですね。 フィルランカとセットでしたけど、とても仲が良かったのですよ」
ジュエルイアンは、そのリズディアの言葉を聞きつつ、ジーッとリズディアを見ていた。
ジュエルイアンに見られていた事に、リズディアは、表情を保とうとしていたようだが、思っている事が、僅かに表情に出ていた。
「……。 まあ、俺達は、次の宿場に、日のあるうちに着けばいいだけだ。 それに合わせてもらえればいいさ」
ジュエルイアンは、含むような言い方をした。
「ありがとうございます。 これで、新しい門出を祝ってあげられると思います」
リズディアもジュエルイアンに感謝するように言うと、軽く会釈してその場を立ち上がった。
その様子をジュエルイアンは、黙って見ていた。
リズディアは、すぐに立ち止まり、一瞬、食堂の入口の方を見た。
その時、僅かに頭が、入口の方向に動いたのをジュエルイアンは、見逃さなかった。
そして、モカリナとイルーミクは、エルメアーナをリズディアの前まで、連れてきた。
エルメアーナは、寂しそうな表情のまま、リズディアの前に来る。
2人が、エルメアーナに、リズディアに挨拶をするようにと、背中に軽く手を当てて、エルメアーナを覗き込んだ。
エルメアーナは、いまだに気持ちを整理できずにいるのか、リズディアも直視できなようだ。
「今日、南の王国に向かうのですね。 行ってらっしゃい」
リズディアは、優しく、エルメアーナに言う。
「……。 あ、ありがとう、ござい、ます。 リズディア様」
エルメアーナは、申し訳なさそうに答えた。
2人もジュエルイアンのイスカミューレンへの報告を聞いて、状況は把握しているので、お互いに心配そうにしている。
ただ、2人は、貴族の家の生まれでもあり、男と女の営みについて、帝国臣民のエルメアーナより、よく知っているので、エルメアーナを気遣うように寄り添っているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます