第146話 湯船に浸かる
湯船に6人の女子が並んで浸かっている。
その中の真ん中に居るヒュェルリーンとエルメアーナ、フィルランカの2人は、身体を伸ばしていた。
残りのリズディアとモカリナ、そして、イルーミクは、底に腰を下ろしてから、身体を後ろに倒し、気持ちよさそうに浸かっていた。
(ちょっと、あの3人は、はしたないわよ。 でも、リズディア様も、向こうの端に居るイルーミクも、何もいうつもりは無いみたいね。 家の人が何も言わないなら、そのままで構わないのよね)
モカリナは、真ん中で身体を伸ばしている3人を見て、困ったものを見たような表情をした。
しかし、モカリナも湯に浸かることで、その心地良さから、隣に居るリズディアのように、頭を湯船の淵に当てるようにして、肩まで湯に浸かった。
(ああ、幸せ。 湯に浸かるだけじゃなく、隣にリズディア様が、いらっしゃる。 リズディア様と一緒に、湯に浸かれるなんて、思っても見なかったことだわ)
モカリナは、至福の時を得たような表情をしている。
「うーん。 とても、気持ちがいいわ。 こうやって、たくさんの人と一緒に入るお風呂は最高ね」
(ああーっ、リズディア様。 リズディア様の幸せそうな言葉を聞けるなんて、なんて幸せなのかしら)
リズディアの一言で、モカリナは、とても嬉しそうな表情をしていた。
フィルランカは、隣から聞こえたリズディアの声を聞いた。
(そうだったわ。 これは、モカリナをリズディア様に会わせるためだったのだから、きっと、これで成功だったのよね)
フィルランカは、身体を戻すと、リズディアの向こう側のモカリナの表情を覗こうと少し顔を上に上げた。
リズディアの向こう側に、至福に満ちた表情のモカリナを確認した。
(よかった。 モカリナ、とても、いい表情をしている。 初めて入るお風呂に気持ちがいってしまって、考えられなかったけど、モカリナもとても嬉しそうだものね)
フィルランカは、視線を前に戻すと、また、肩まで、湯の中に入れると、今度は、身体を伸ばす事はせずに、隣のリズディア達のように腰を湯船の底に下ろして、湯船の淵に首を置くようにした。
(よかった。 きっと、責任は果たせたわね)
フィルランカも、周りと同じように、お湯の温かさを味わうことにしたようだ。
ただ、その横に1人だけ、エルメアーナは、あまり、面白くなさそうにしていた。
エルメアーナは、後ろに寄りかかるのではなく、湯船の中で、体育座りをして、口元まで、湯に浸かってムッとして、口から息を吐き、ブクブクと音を立てていた。
その音に、両隣にいる、フィルランカとヒュェルリーンが気がついたようだ。
「エルメアーナも、初めてのお風呂は、気持ちいいでしょ。 だから、ここは、楽しむものよ」
宥められるように言われても、エルメアーナの様子は変わらない。
(珍しいわね。 エルメアーナったら、拗ねている子供みたい。 何か、あったのかしら?)
フィルランカは、斜め前にあるエルメアーナの頭を見る。
いまだに、口は、湯につけて、面白くなさそうである。
フィルランカは、ソーッと右手を、ゆっくりと、エルメアーナに近づけると、左の脇腹を鷲掴みにした。
「ぼ、みゃぁ!」
エルメアーナは、変な奇声と共に、前屈みになっていた身体を反らすように、跳ね上がった。
そのおかげで、フィルランカと反対側に居たヒュェルリーンの顔にお湯が掛かった。
「うわ。 ちょっと、何?」
お湯が、顔に掛かったヒュェルリーンが、驚いた様子で、エルメアーナに声をかける。
「もーっ、顔も髪の毛も、濡れちゃったじゃないの」
「すまない、ヒェル。 でも、フィルランカが、私の脇をくすぐるんだ。 驚いてしまったら、そうなった」
周りは、フィルランカが、エルメアーナにイタズラしたのだと思って、フィルランカを見た。
フィルランカは、視線が、全部自分に集まるとは、思って無かったようで、少し焦った表情になった。
「だって、エルメアーナったら、面白くなさそうにしているから、それに、ヒュェルリーンさんにも答えないし」
フィルランカは、少し面白くなさそうにエルメアーナに言った。
「だからって、私の脇腹を握る事はないだろう。 とてもくすぐったかったのだぞ!」
「だって、あんな不貞腐れた格好してたら、誰だって、ちょっかい出すでしょ。 それに、お風呂でブクブクと泡を吹くようなことするなんて、ダメでしょ」
「何を言う。 それは、たまたま、そうなっただけだ」
言い終わると、エルメアーナは、その事を指摘されて、自分も恥ずかしい行為だと思った様子になったのか、少し恥ずかしそうな表情をした。
「もう、2人とも、やめなさい。 ここは、自宅じゃないのよ」
ヒュェルリーンに言われて、2人は、周りを見ると、自分達を驚いた様子で、周りが見比べていたことに気がついたようだ。
「「ごめんなさい」」
2人は、周りに謝ると、エルメアーナは、また、湯に浸かって、今度は、腰を湯船の底に下ろして、首を淵に当てるようにした。
フィルランカとエルメアーナが落ち着くと、リズディアが、フィルランカにだけ聞こえるように声をかける。
「面白かったわよ。 2人が姉妹のように育ったことが、よく分かったわ」
リズディアが、言うので、隣に居るフィルランカは、リズディアに申し訳無さそうに、苦笑いを向けた。
(孤児だったと言うのに、その引け目を感じさせないように育ててもらったのね。 とても良い環境に恵まれたようだわ。 だけど、これは、きっと、稀な例なのよ。 ……。 私の仕事は、まだ、たくさん有るわ。 不幸な境遇の女性達は、まだまだ、たくさんいるの。 この成功例も、しっかり、確認させてもらうわ)
リズディアは、2人の口喧嘩を聞いて、安心したようだった。
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