第145話 初めて浸かる湯船


 モカリナは、湯船の淵の床に立ち尽くしている、フィルランカとエルメアーナを見ると、先に湯船に浸かっている3人を見た。


 湯船の淵は、床との境目に高さ3センチ、幅20センチ程の淵が作られていた。


 フィルランカとエルメアーナは、湯船の淵の手前に立ち尽くしていた。


(ああ、3人とも、完全に湯に浸かって、気持ちよさそうにしているわ。 入る前に、入った事の無い2人に、湯船に誘ってくれればいいのに)


 フィルランカとエルメアーナを見たモカリナは、少し、残念そうな表情をする。


「フィルランカ、エルメアーナ。 お湯の中にゆっくり入って、肩まで浸かればいいのよ。 ほら、最初の3人は、とても気持ちよさそうでしょ」


「そうよー。 ただ、湯に浸かるだけでいいのよ」


 モカリナの言葉を聞いていた、リズディアが、気持ちよさそうに言った。


 フィルランカとエルメアーナは、心配そうにお互いの顔を見る。


 そして、フィルランカとエルメアーナは、両手を合わせるように握った。


 すると、エルメアーナが、フィルランカとは反対側の足をゆっくりと前に出し、親指のつま先をお湯の中に入れる。


 つま先で、温度を確認するようにすると、足首近くまで、湯の中にエルメアーナは、足を入れた。


「フィルランカ、暖かいぞ」


 そう言うと、更に深く足を入れ、縁の中の段差、中に入りやすいように、階段になっている部分にエルメアーナは、足を置いた。


 エルメアーナは、湯の中に入った足から、お湯の暖かさを感じ、気持ちよさそうに身体を震わせた。


「あー、なんだか、体に染み込んでくるみたいだ。 フィルランカも入れてみろ」


 フィルランカは、言われるがまま、エルメアーナとは反対側の足を、ゆっくりと、湯船の中に入れ、エルメアーナと同じ位置まで足を沈めると、そのまま、さらに足を沈めて、湯船の淵にある段差まで足を下ろした。


 フィルランカも入れた足から伝わる、お湯の暖かさを感じて、身体を震わせた。


 すると、フィルランカとエルメアーナは、お互いを見ると、安心した表情を向けると、内側の足を、2人一緒に入れた。


 縁の段差の部分に立つと、今度は、もう一段下にある湯船の底に、2人一緒に、お互いの外側の足を下ろすと、足は、膝の上まで湯の中に入った。


 2人は、湯船の底に下ろした足に体重をかけると、残りの足を下ろした。


 また、お互いの表情を確認すると、ゆっくりと膝を曲げながら、徐々に湯の中に沈んでいく。


 その際も、お互いを確認しつつ、何かあったら、直ぐに外に出られるようにし、お互いに不安な気持ちを、お互いに見つめ合う事で、お互いに勇気をもらいつつ、相手の様子を確認しながら、徐々に、湯の中に、太もも、腰、腹、鳩尾、胸まで、湯に浸かった。


 そして、落ち着いたのか、2人から緊張感が無くなり、リラックスした様子になる。


 その様子を見ていたリズディアが、笑みを浮かべると、2人に声をかける。


「どうです? 初めて入る湯船は、気持ちいいでしょ」


 フィルランカとエルメアーナは、初めて、湯船の中に、2人以外の人がいることに気がついたように、リズディアを見た。


「とても、いい」


「ええ、なんだか、とろけそうです」


 エルメアーナとフィルランカが、リズディアに答える。


「それなら、首まで浸かってみたら。 ここの深さだと、腰を下ろしただけだと胸までしか入れないから、縁に首をかけるようにして、肩まで浸かるのよ」


 2人は、手を離すと、リズディアのように縁に背中を向けて、首を淵にかけようとする。


 フィルランカは、リズディアを見つつ、同じようにする。




 一方、エルメアーナは、反対側のヒュェルリーンを見ていた。


 エルメアーナは、自分の両手を胸に当てて、湯に浸かって気持ちよさそうに目を瞑っているヒュェルリーンを見ている。


 ヒュェルリーンは、エルフの中でも、女性としても、高身長の180センチもあり、そして、誰よりも胸が大きい。


 膝の上ほどしかない湯の中で、そして、首を淵にかけて、真っ直ぐに身体を伸ばすようにしていた。


 首というか、後頭部のあたりを淵に掛かけて、踵が湯船の底になるようにして、身体を伸ばして、お湯の浮力を感じていたようだ。


 そのお陰で、ヒュェルリーンのふくよかな胸が二つ、湯面から出ていた。


 ヒュェルリーンは、水の浮力を使って、自分の胸の重みから解放するように調整して、身体を曲げて、胸をお湯に浮かせるように調整していたので、二つの丘陵だけが、湯から出ていた。


「あーっ、肩の疲れが取れるみたい。 引っ張られる感覚が抜けるわ」


 ヒュェルリーンは、ポロリと言葉を漏らした。


 その言葉を聞いて、エルメアーナは、恥ずかしそうにしつつ、自分の胸を見つめた。


(私も、ヒェル位とは言わないが、もう少し欲しかった)


 若い4人には、ヒュェルリーンの言葉は、スルーされていたが、ただ、1人だけ、眉をピクリと動かしていた。


 周りの様子にエルメアーナは、気が付かず、エルメアーナは、ヒュェルリーンと同じように、首を湯船の淵に掛けて、足を伸ばして、踵を底に置いて、身体を伸ばす。


 そして、目の前に広がる光景を見るのだが、目の前には、風呂の湯面がただ見えるだけだった。


(やっぱり、ヒェルのようにはならないのか)


 ガッカリしたような表情をしていたエルメアーナに、隣に居たフィルランカが、見ていた。


 フィルランカは、湯船の縁の段差の手前に腰を下ろして、身体を反らすようにして、首を湯船の淵に付けてから、エルメアーナの様子を気にしていたのだ。


「その身体を伸ばすのって、面白そうね」


 フィルランカは、そう言うと、ヒュェルリーンとエルメアーナが行っているように身体を伸ばし出した。


「うーん。 なんだか、気持ちがいいわね」


 フィルランカは、真似をして身体を伸ばして言うのだが、エルメアーナは、面白くなさそうな表情をした。


 フィルランカは、エルメアーナと同じ160センチとヒュェルリーンより20センチも低いのだ。


(なんで、フィルランカは、湯面に少し出るのに、私は出ないのだ)


 エルメアーナは、自分も同じようにするが、どうやっても、胸全体が出てしまっていた。


 一方、フィルランカは、気持ちよさそうにしている。


 湯面が揺れるたびに、フィルランカは、時々、肌が見えていたのだ。


 エルメアーナには、それが、少し気に食わなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る