第117話 エルメアーナの部屋


 カインクムの店に来た、リズディアとヒュェルリーンは、少し困ったようだ。


 カインクムが、リズディアに対して、あまりに謙っているので、対応に困ってしまっていた。


 カインクムは、痛がるエルメアーナの頭を押さえつつ、自分も頭を下げていた。


「こ、この、たびは、む、むす、娘達を、おま、お招き、いただき、まこ、誠に、あり、ありがとう、ござい、ます」


「あ、いえ、お構いなく、私は、友人を家に呼ぶような感覚でおりますので、気になさらないでください。 それに、今日は、エルメアーナさんの服を見させてもらいたいなとも思ったので、待ちきれなくて、押しかけてしまいました」


 隣に居るヒュェルリーンは、カインクムに申し訳無さそうにしていた。


「それで、エルメアーナさんの着替えるのを手伝おうかと思ったのです」


「い、いえ、滅相も、ありません。 娘の着替えなら、私が手伝いますので、リズディア様は、リビングでお茶でも飲んで、寛いでいてくだ、……、さ、い」


 カインクムは、自分で言った内容を気にしつつ、エルメアーナを見る。


 流石に、17歳の娘の着替えを、父親がする訳にいかないと思ったようだ。


 カインクムは、不味い事を言ったと思いつつ、ゆっくりと、視線をヒュェルリーンに向けると、その視線は、カインクムを刺すように見ていた。


 カインクムも表情を硬らせており、そして、視線をリズディアに向けた。


「すみません。 私は、娘の着替えを手伝えませんので、場合によっては、そちらのヒュェルリーンに、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「いえ、私ならかまいません。 エルメアーナさんのスタイルが、衣装によってどれだけ変わるのかも見たいと思っていました。 それに、私は、縫製士でもありますから、お気になさらず、私にお手伝いをさせてください」


 リズディアは、そう言いながら、笑顔をカインクムに向けていた。


 カインクムは、元第一皇女であるリズディアの笑顔を、目の前で、見ていたのだ。


 そして、リズディアは、自他共に認める美人である。


 そんなリズディアに、笑顔で迫られては、反論する余地が無い。


「はい。 お願いします」


 カインクムは、了承してしまった。


「では、お父様の了承も取れました。 じゃあ、ヒェル。 エルメアーナの部屋に行って、お着替えさせましょう」


 そう言うと、リズディアは、カインクムがエルメアーナの頭を押さえている手に両手を添えると、そのカインクムの手をエルメアーナの頭から外す。


 作業着姿のエルメアーナの肩を持つと、カインクムに笑顔を向ける。


「それでは、お嬢様をお借りします」


 カインクムは、リズディアに添えられた手と、リズディアの顔を見比べる。


「あ、はい、お願いします」


 すると、リズディアは、エルメアーナの肩を両手で持ったまま、店の奥へ入って行ってしまった。


「それでは、カインクムさん。 少し、お邪魔させてもらいますね」


 ヒュェルリーンもカインクムに言うと、リズディア達を追いかけて、店の奥に行ってしまった。


 カインクムは、無言のまま、ヒュェルリーンの去った方を見る。


 そして、リズディアに触られた手を凝視していた。


(リズディア様が、俺の手を握った。 皇族だった。 元第一皇女だぞ。 そんな人が、俺の手を……)


 カインクムは、あり得ない事に驚きを隠せないでいる。




 エルメアーナは、リズディアに押されて、奥に入ると、そのまま、自分の部屋に向かった。


 部屋の扉の取っ手に手をかけると、その動きが止まった。


(リズディア様を、私の部屋に入れても良いのか?)


 エルメアーナは、考えるような表情のまま、後ろのリズディアを見た。


 リズディアは、嬉しそうな表情で、エルメアーナを見る。


「さあ、お着替えをしましょう」


 だが、エルメアーナは、取っ手に手をかけた状態で固まっていた。


 すると、リズディアが、取っ手にかけた、エルメアーナの手を上から覆うようにして持つと、取っ手を回してドアを開けた。




 中は、ベットとタンス、机と、そして、壁際には、手作り感のある、竿に衣装が数着掛かっていた。


 フィルランカ程ではないが、この1年で、エルメアーナも数着の衣装を持つようになった事、そして、フィルランカからの、お下がりもあり、それなりに数はあった。


 体型的には、フィルランカよりエルメアーナの方が、幼さが残っているので、フィルランカがキツくなってしまったということで、サイズ的にエルメアーナに、お下がりとして回した衣装が数着あった。


「あら、結構、多いのね。 すごいわ。 これだけでも、とても参考になるわ」


 エルメアーナは、少し恥ずかしそうにしている。


 そんな事を気にする事なく、リズディアは、壁際に掛かっている衣装を眺めていた。


「リズ。 ちょっと、その辺にしませんか? エルメアーナが、少し、恥ずかしそうよ」


 後から来たヒュェルリーンに注意をされたので、リズディアは、衣装をジロジロ見るのをやめて、ヒュェルリーンに視線を向けた。


 そして、エルメアーナを見た。


「ねえ、フィルランカちゃんは、どんなのを着て、学校に行ったの?」


「あ、フィルランカは、いつもの、学校用の服、入学式前に作ってもらった服を着ていった」


 それを聞いて、リズディアは、考えるような表情をした。


「ああ、イルルが、頑張りすぎた、あの衣装ね」


「あれは、学校用だから、きっと、それで、着ていったと思う」


(あれは、本当に若い人向けのデザインのようだったわね。 ……。 あれは?)


 リズディアは、考えながら、エルメアーナの衣装を眺めていると、一つの衣装に目が止まった。


「あのエンジ色の衣装は?」


「あれは、フィルランカと、お揃いで、作ってもらった。 フィルランカは、紺色を着ている。 ミルミヨルさんが、フィルランカの入学式の前に、色違いで作ってくれたんだ」


 リズディアは、エルメアーナと、その衣装を見比べていた。


「ふーん。 そうなの」


 リズディアは、気のない返事をする。


 そして、衣装を順番に見ると、エルメアーナを見る。


「ねえ、せっかくだから、全部着て見せてもらえないかしら。 ああ、着替えは全て手伝うわ。 エルメアーナちゃんの体が、どう変化するのか見てみたいわ」


「えっ!」


 リズディアの提案にエルメアーナは、驚いた。


「だから、全部。 着てもらって、確認するのよ。 それで全部チェックするのよ」


「えっ!」


 エルメアーナは、言葉が出なかった。


 すると、リズディアが、一歩一歩、エルメアーナに近づいてきた。


 その一歩毎に、リズディアの表情が、悪戯っぽい表情に変わってしまっていたのを見た、エルメアーナは、嫌な予感を感じたようだが、ヒュェルリーンは、始まってしまったというように、ヤレヤレといった表情をしていた。

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