リズディアのお誘いとエルメアーナとカインクム
第116話 カインクムの店を訪れた客人
週の初めに一悶着があった、リズディアのお泊まりのお誘いは、モカリナも無事に参加することになった。
イルーミクは、リズディアと同じ屋敷に住んではいるが、イルルミューランと一緒に、夜は付き合いで出歩いていたり、仕事が遅くなったりなので、軽い話程度しかした事は無かった。
イルーミクとしても、このイベントが、義姉と、本格的な話をするチャンスなのだ。
特にモカリナとイルーミクは、週末まで緊張気味だったのだが、フィルランカは、ミルミヨルの衣装を見せることが目的だと分かっているので、特に気にすることもなく、1週間を過ごしていた。
週末になり、フィルランカが、学校に行くと、カインクムとエルメアーナは、いつもなら、工房に入るか、店を開けるかなのだが、最近は、店の入り口に、呼び鈴の魔道具を使って、お客に呼び鈴を鳴らしてもらうようにしていた。
その呼び鈴が鳴ったら、店に行って扉を開けるようにしていた。
そのお陰で、店番はせず、店の扉には鍵をかけておき、呼び鈴の横に看板を付けて、呼び鈴を鳴らして貰うようにてある。
その呼び鈴が、工房で聞けるようにしてあった。
カインクムとエルメアーナの2人は、いつものように、工房に行き、今日の作業を始めようとすると、店の呼び鈴が鳴った。
「ちょっと、店に行ってくる」
「わかった」
カインクムは、エルメアーナに断ると、店の方に行った。
エルメアーナは、鍛治の用意をするため、竈門の炭に火を入れようと、準備を始めた。
しかし、店に行ったカインクムが、直ぐに、工房に戻ってきて、工房の扉が乱暴に開けると、血相を変えたカインクムが入ってきた。
カインクムは、そのまま、エルメアーナのところに来る。
「ちょっと、来い」
そう言って、竈門に火を入れようとしていたのを止めるのだが、カインクムは、それももどかしそうにしつつ、エルメアーナを待つ。
火の始末が終わると、カインクムは、エルメアーナの手を取ると引っ張り出す。
「父、どうした。 ちょっと、痛いのだが」
カインクムは、乱暴にエルメアーナの手を取って、店まで引っ張っていく。
そこには、リズディアとヒュェルリーンが居た。
時間は、少し遡る。
カインクムが、工房から店に移動して、接客のため、店の扉を開けると、そこには、ヒュェルリーンと、カインクムの知らない女性が立っていた。
カインクムは、女性2人で自分の店を訪れる客、しかも、身なりは、とても良いので、貴族か商人かというような女性が、自分の店を訪れるなんて事が無かったので、少し驚いたようだ。
本来なら、先にカインクムが挨拶をするのだが、ヒュェルリーンの連れている女性が気になって、挨拶が遅れてしまった。
「こんにちは、カインクムさん」
ヒュェルリーンが、挨拶をすると、もう1人の女性は、スカートの裾を摘んで、軽く会釈をした。
「こんにちは、ヒュェルリーン。 今日は、何の用事なんだ? それに、ジュエルイアンは、居ないのか? それと、こちらのご婦人は、どちら様でしょうか?」
「今日は、エルメアーナのお迎えに来ました」
(ああ、リズディア様のところに行く日だったな。 ヒュェルリーンが、案内をしてくれるのか。 これは、よかった)
カインクムは、少し安心した表情をするが、直ぐに、怪訝そうな顔をする。
(えらく早くないか? フィルランカ達の学校が終わった後なのに、何でこんな朝っぱらから来る?)
カインクムは、気にはなったが、ヒュェルリーンに返事をしなければと思ったようだ。
「ああ、エルメアーナとフィルランカの事は、聞いている。 今日は、よろしく頼むよ。 それに、エルメアーナが、何か、やらかすかもしれなのでな、フィルランカには、伝えてあるが、ヒュェルリーンも見ていてくれないか。 相手が、リズディア様なのだから、本当に粗相が無いように見張っていてくれると、助かるんだ」
「いえ、問題ありません。 先週も、エルメアーナさんと、お話しさせてもらいました。 とても可愛いお嬢さんでしたよ」
ヒュェルリーンの横から、連れの女性が、カインクムに声をかけてきた。
ただ、カインクムは、とても嫌な予感を感じたようだ。
そして、その声の主に視線を向けるのだが、カインクムは、引き攣った表情をしていた。
その女性は、カインクムと視線を合わせると、スカートの裾を摘み、笑顔を向ける。
「初めまして、私は、スツ・エイ・リズディアと、申します。 今日は、お嬢様を当家に、お招きさせていただきました。 フィルランカさんは、学校が終わり次第、お迎え致しますので、その前に、エルメアーナさんを、お迎えに参上いたしました」
カインクムは、リズディアと聞いて、固まってしまっていた。
「ああ、カインクムさん。 実は、リズディアが、エルメアーナの衣装が見たいと言って、きかなかったので、早い時間から連れてきてしまいました」
カインクムは、固まった状態で、ヒュェルリーンが、話している間にぎこちなく、視線を向けた。
「あのー、エルメアーナは?」
「い、今、今すぐ、連れて、まいり、ます」
カインクムは、それだけ言うと、店の奥へ行ってしまった。
ヒュェルリーンとリズディアは、店に入って、扉を閉めると、カインクムが戻ってくるのを待った。
カインクムは、直ぐに、エルメアーナの手を引っ張って、戻ってきた。
「痛いぞ、父! いったい、何だっていうんだ」
エルメアーナは、何も分からずに引っ張ってこられたようだ。
店に入ると、エルメアーナも、リズディアとヒュェルリーンが居る事に気がついた。
「あ、リズディア様。 それにヒェルだ」
エルメアーナは、2人に気が付いて、友達に話しかけるように声を掛けた。
「こら! お前は、また、そんな言い方をする」
カインクムは、そう言いつつ、エルメアーナの頭を押さえつけていた。
「痛いぞ、父。 乱暴にするな」
「お前は、本当に、自分の立場をもっと理解しろ」
頭を上げようとして、反論してきたエルメアーナを、また、カインクムは押さえつけた。
その様子をリズディアは、苦笑いをしつつ、ヒュェルリーンは、ヤレヤレといった表情で見ていた。
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