第109話 フィルランカは宣伝塔だった
ジュエルイアンは、個室に案内された。
フィルランカは、初めて入る個室に、少し驚いた様子をする。
ただ、個室の中では、従業員が、急いで、2人分の席を用意していた。
テーブルは円形だったので、位置を少しずらして、6人が座れるように配置していた。
そのテーブルの一番奥に、イルルミューランとリズディアが座れるように、ジュエルイアンとイルルミューランが座ると、イルルミューランの横にリズディアが座ろうとすると、フィルランカの手をとって、自分の横に座らせるようにする。
ヒュェルリーンは、ジュエルイアンの横に行こうとすると、エルメアーナを自分の横に座らせた。
6人が丸テーブルに座ると、グラスワインが運ばれてきたが、エルメアーナとフィルランカには、フレッシュジュースのグラスが運ばれてきた。
「それじゃあ、揃ったところで、まずは、イルルミューラン、リズディア殿下、おめでとうございます」
「お待ちください。 私は、皇族から抜けて、イルルミューランに嫁ぎました。 だから、敬称は不要です」
「ああ、そうでした。 それでは改めて、イルルミューラン、リズディア、おめでとうございます」
「「「おめでとうございます」」」
飲み終わると、ジュエルイアンが話を進める。
「それじゃあ、儀式はここまでだ、後は、自由に歓談しようじゃないか。 俺達は、男同士の話もあるし、……」
これより先は、ジュエルイアンが言いにくそうにする。
「そうだね、リズディアは、彼女達の事がとても気になっているみたいだから、食事をしながら、色々、話をしようじゃないか」
「ありがとうございます。 旦那様」
2人の男性が、無礼講にしてくれた事を、リズディアは、嬉しそうに答えた。
すると、反対の方向に向く。
「よかったわ。 イルーミクから、聞いていたので、何とか時間を取って、お話ししようと思っていたのよ。 こんな所で出会えるなんて、運命を感じるわ」
「あのー、私に?」
(リズディア様に会いたいと思っていたのは、モカリナなのだから、ここで私がリズディア様とお話ししたら、モカリナは、リズディア様に会えなくなるんじゃないかしら)
フィルランカは、困ったような表情をする。
「それで、どうなの? 今、飛び級を狙っているって聞いたわ」
「ええ、お友達のモカリナが、お兄様やお姉様から詳しく聞いてきてくれたので、1年の時から、必要な授業は受けておりました。 今年は、イルーミク様と一緒の教室で授業を受けることもあります」
(モカリナは、ナキツ家の四女よね。 彼女と友達付き合いができているのね。 驚いたわ)
リズディアは、フィルランカの話に聞き入っている。
「そう、順調のようなのね」
「あのー、それも全てモカリナが、調べてくれたので、私は、それについて回っただけです。 だから、今年、飛び級で卒業できたとしても、それは、モカリナのお陰です」
「ああ、あなたといつも一緒にいる貴族の御令嬢だったわね」
フィルランカは、自分が、モカリナの素性を話していないことに気がついた。
「ええ、ナキツ・リルシェミ・モカリナです。 彼女が、リズディア様の大ファンなので、学校に有ったドレスを、ずーっと見てました。 大学を目指しているのも、リズディア様に近付きたいとの思いからだそうです」
「まあ、ナキツ家のお嬢様ね。 でも、学校に、まだ、私が作ったドレスが、残っていたのね。 あれは、それ程、出来上がりが良くないのよ。 当時は、まだ、趣味の段階だから、良く見られたら、真っ直ぐ縫えてなかったり、変な皺ができてしまってたりしているのよ。 ちょっと、恥ずかしいわ」
リズディアが、恥ずかしそうにしたので、フィルランカは、まずい事を言ったのかと思ったようだ。
「いえ、そんなことは、ありません。 皆さんは、あれを参考にして、そのドレスを超えるものを作りたいと頑張っているみたいです」
「そうなのね、まあ、いいわ。 それより、あなた達、今、来ているドレスは、ミルミヨルさんの店のものじゃないの?」
「え、あ、はい。 そうですけど」
フィルランカは、自分の着ている服がミルミヨルの店のものだと指摘されて驚いたようだ。
「所々に、ミルミヨルさんの癖が出ているから、直ぐに分かったわ。 でも、ミルミヨルさんの店の服が着れるなんて、すごいわね」
リズディアが、感心したように言う。
ミルミヨルの店は、イスカミューレン商会とも付き合う程に有名になっており、帝国の貴族でも、ミルミヨルに仕事を頼みたいと店を訪れる程になっていた。
そんな中、貴族でもない、フィルランカが、簡単に買えるようなものではないとリズディアは、思ったのだ。
すると、隣からイルルミューランが、声をかけてきた。
「リズ、彼女達は、ミルミヨルさんの宣伝塔なんだよ。 フィルランカさんの噂話に、ミルミヨルさん達が、乗っかったことで、隣のカンクヲンさんと向かいのティナミムさんが、頭角を表したんだよ。 去年の入学式の後は、ミルミヨルさんの店に、学校中の生徒が制服を発注したので、うちの工房もお手伝いしたんだよ」
「ひょっとすると、あの胸が大きく見えるデザインは、……」
リズディアは、フィルランカとエルメアーナを交互に見る。
そして、話の内容が理解できたのか、納得するような表情をした。
「ああ、そういうことだったのね。 話に聞いていた、花嫁修行中の食べ歩き少女の噂を使った宣伝塔とかって、話題になった、あの話なのね」
「さすが、リズディアだ。 その噂を知っていたんだね。 私も、支店の者から聞いて、その後、カインクムにも話を聞いて、彼女が、その本人だと知って驚いたよ。 しかも、私の方で懇意にしている店の人だと聞いて、世界は狭いと思ったよ」
イルルミューランが、リズディアに話をしたことで、ジュエルイアンも話の輪に入ってきた。
「あら、じゃあ、この話は、ジュエルイアンも絡んでいたの?」
「いや、いや、うちは、指を咥えて見てただけだよ。 絡んだのは、あなたの旦那だよ」
そう言って、間にいるイルルミューランに視線を送った。
「いや、僕は、商売相手が困っていたから、手助けをしただけだよ」
「そんな事はないだろう、あのデザインの既製服を大量に作って、大陸中の国に輸出して大儲けしたんじゃないか。 それに、流行り物の引き際の妙と言ったら、とても素早い対応だったじゃないか。 あんな絶妙のタイミングを狙うなんて、あれには驚いたよ。 普通、売上が下がり始めた程度では、撤退しないだろ」
「ああ、あのタイミングは、本当に偶然なんだよ」
「おいおい、そんなことはないだろう」
イルルミューランは、ジュエルイアンに突っ込まれると、恥ずかしそうな表情をする。
「いや、実は、あのドレスが当たった時に、うちの売上が上がったのを見て、親父に怒られたんだ。 急激に売上が伸びて、理由を聞かれて話したら、やりすぎだって、まあ、工房区の職人を片っ端から引っ張ったんだけど、かなり、無理をさせてしまっていたから、そのやり方が不味いと言われて、慌てて、止めたんだよ」
「そうしたら、丁度、翳りが出た時で、お陰で、変な在庫を抱えずに済んだんだ」
「まあ、売れないドレスを倉庫にしまっておくことほど、無駄な事はないからな」
(なるほど、あの撤退の手際は、親父殿の差金だったのか。 工房区の職人を思うような話で、仕事を止めさせたのか。 親父殿の目は、まだまだ、現役なんだな)
ジュエルイアンは、ジーッとイルルミューランを見ていた。
「しかし、私も先輩達に祝ってもらえるのもよかったけど、ここで、フィルランカさんと出会えたのは、とてもよかったよ」
「おいおい、帝国一の奥方を娶ったというのに、まだ、足りないのか?」
「いや、そうじゃないよ。 宣伝をして販売する。 その方法に彼女は、一石を投げたんだ。 その本人にこうやって出会えて、話を聞ける機会を持てたのは、これから、私とリズもだが、先輩達も、新たな販売方法を確立できるんじゃないのかなぁ」
「まあ、そうだな。 噂に便乗した宣伝は、とても面白かったな」
「そうでしょ。 先輩」
ジュエルイアンとイルルミューランが、フィルランカの宣伝の結果について、2人で話し始めてしまい、残りの女子4人が取り残されてしまった。
「ダメだわ。 こうなったら、私の入る余地が無いのよ」
「え、リズディア様を放って、2人だけで話だしてしまうのですか?」
「そうなのよ。 昔からなのよ。 きっと、私が、誰か別の人とキスしていても気がつかないわよ」
「え! そんな、ご冗談を、……」
「あら、じゃあ、ためしてみる」
そう言って、フィルランカの顎に手を当てて、リズディアの方に顔を引っ張ろうとするので、フィルランカは、慌てて、その手を抑える。
「それは、さすがにお断りします」
「あら、残念。 可愛い女の子の唇が奪えるかと思ったのに」
リズディアは、残念そうな表情をする。
「リズったら、あまり、若い子を揶揄ってはダメよ」
「まあ、そうよね。 それより、2人の話をもっと聞きたいわ」
そう言って、フィルランカとエルメアーナを笑顔で見つめている。
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