第110話 フィルランカの衣装の話
フィルランカは、リズディアがキスをしようとした事が、本当なのか冗談なのか、計りかねていた。
ここで、どんな反応をしたら良いのかと、少し困った表情をするので、リズディアは、違う話を振った。
「ねえ、フィルランカさんは、ここのお店にも、何度か入った事があるのよね」
リズディアは、質問口調で聞いてきた。
「ええ、第1区画のお店に初めて入ったお店です。 その時に副支配人さんから、テーブルマナーも教えていただいたので、本当に助かりました」
それを聞いて、リズディアは、一瞬間を置いた。
(今の衣装なら問題ないけど、鍛冶屋の娘が、そう簡単に入れる事は無いのに、……。 それに副支配人にテーブルマナーを教わったの)
「ねえ、何で、このお店が一番最初のお店だったの?」
「それは、最初、入ろうとしたら、全てのお店に断られたのです。 仕方なく、第5区画のお店で食べていたら、服装が悪かったのだと教えてもらったのです。 それで、その食べたお店で、ミルミヨルさんのお店を紹介してもらって、そこで、服は揃えたんです。 そして、お隣のカンクヲンさんのお店で靴を用意してもらって、髪の毛は、向かいのティナミムさんのお店で綺麗にしてもらったのです」
「髪の毛、服装、靴を用意して、お金も持っていたら、食べさせてくれるのかしら」
衣装を揃えたとしても、仕草などで、追い返されることもあることをリズディアは、知っているので、着ているものだけで簡単に入れるとは思わなかったのだ。
「でも、その時は、11歳でしたから、怖いもの知らずで、お店のドアを叩いてしまったんです。 もし、今なら、多分、1人では、入れなかったと、思います」
フィルランカは、最後の方は、少し小さな声で答えていた。
ただ、リズディアは、11歳のフィルランカの度胸に、少し驚いていたようだ。
「ホホホ、あの時の事は、私も、良く覚えてますよ。 花嫁修行のために少女が第3区画のお店を食べ歩いている話は、有名でしたからね。 まさか、この店に訪ねてくださるとは思わなかったので、私も驚きました。 それで、簡単なテーブルマナーを教えて差し上げました。 でも、私の店の窓際に座った、フィルランカ様は、とても絵になっておりました。 道行く人達が、フィルランカさんを何人も覗いていましたよ」
給仕をしていた副支配人が、当時の話をしてくれた。
「おっと、これは、話を中断してしまい、大変失礼いたしました」
(あら、その時の印象が、とても強かったようね。 それに、今、窓際に座ったと言ったわ。 店の宣伝も兼ねて、外から見えるところに案内したのね)
リズディアは、気にしてないというように笑顔を返した。
「あら、そうだったの。 だったら、フィルランカさんは、私の弟、いえ、妹弟子になるのかしら」
副支配人は、笑顔だけで答えた。
「フィルランカさん。 私も、副支配人に、テーブルマナーを教わったのよ。 だから、私達、同じお師匠様から習っているのよ」
フィルランカは、顔を赤くしていた。
「ねえ、ミルミヨルとは、その頃からの付き合いなのよね。 じゃあ、もう、5年の付き合いなのかしら」
「そうですね。 6年になります」
リズディアは、興味深い様子で、フィルランカを見る。
「食べ歩いている時は、全て、ミルミヨルが揃えてくれた衣装を着ていたの?」
「はい、こちらの第1区画のお店は、貴族の方もいらっしゃるお店が多いので、ミルミヨルさんのお店で全て用意しました。 それと、靴も、髪の毛もミルミヨルさんが、紹介してくれたので、スムーズに進みました」
フィルランカは、当時のことを思い出しているようだ。
「それで、着替えて、歩いていたら、最初は、かなり、色々な人から聞かれました。 どこの店で買ったのかとか、聞かれたので、初めて着せてもらった時は、家に帰るまでに、いつもの倍の時間がかかってしまって大変でした。 次から次と、知り合いの女の人に出会うたびに聞かれて、聞かれていると、周りの人も集まってきたので、何度も何度も説明したので、大変でした。 でも、何度か新しい服をいただいてから、聞かれる事は無くなりました」
フィルランカは、しばらくして、周りの人に、根掘り葉掘りと聞かれなくなってしまった事が、少し心配だったようだ。
しかし、リズディアは、納得したような表情をする。
「それは、きっと、新しい服を着ていても、ミルミヨルさんの新作だろうと思ったからよ。 きっと、新しい衣装を着たフィルランカさんを見て、直ぐにミルミヨルさんの店に押しかけたのよ」
「ああ、そうだったな。 うちの店もミルミヨルさんの店と取引を始めたのは、5年前の事だ。 急に頭角を表してきた第5区画の店だったからね。 貴族にも商人達からも喜ばれたよ。 ああ、特に若い世代が喜んでいたな。 10代の衣装が飛ぶように売れた」
イルルミューランが、突然、話に参加してきた。
そして、フィルランカを見る。
「ああ、フィルランカさんを参考にしていたのかもしれないな。 若い女性がとても魅力的になると喜ばれていたから、フィルランカさんを基準に考えていたのかもしれないね」
その話を聞いて、リズディアの表情は、考えているようだ。
「そうね。 10代の娘が、父親におねだりしたら、買ってしまうわね」
夫の話に納得した様子で話すので、イルルミューランは、続けて話始める。
「ああ、敏感な年頃だから、父親としたら、その世代の娘にねだられたら、嫌とは言えないだろうね」
10代の娘を持つ父親なら、そんな娘のおねだりなら、何とかしてあげようと思うものであろうと、リズディアは思ったようだ。
「本当、ミルミヨルは、美味しいところに目をつけたのね」
「ああ、でも、それを自分だけで終わらせずに、靴と髪もと、周りを巻き込んでいたから、5年前から、帝都のファッションは、大きく変わってきたんだよ」
「そうだったわね」
そう言うと、リズディアは、フィルランカを見る。
その視線は、帝都のファッションの変化は、フィルランカによるものだと訴えていたが、フィルランカは、何で私を見るのと言いたそうな表情をしていた。
すると、反対の方から声がかかる。
「本当にフィルランカちゃんは、帝国の商人達にも良い影響を与えたわ。 それに私達、南の王国の方にも、その影響が表れているのよ」
「そうなのか、ヒェル。 フィルランカは、そんなにすごいのか?」
「そうね。 フィルランカちゃんが、ミルミヨルさんの服を着て食事をするでしょ。 それを見て、いいなと思った人は、その服を欲しいと思うでしょ。 その欲しいと思わせる行為だけでも、ミルミヨルさんの行ったことは、正解なのよ。 フィルランカちゃんを使ったミルミヨルさんの方法が、かなり効果が高かったのよ」
「そうなのよ、娯楽が少ないところで、フィルランカさんの、食べ歩きは、周りでは、有名な話になっていたのよ。 そのフィルランカさんが、ミルミヨルの店の衣装を着て歩き回っているのよ。 フィルランカさんが、通りを歩いていたら、今日は、何処に行くのか周りは、興味津々だったはずよ」
ヒュェルリーンの話にリズディアも乗ってきた。
「そう、リズの言う通りなのよ。 そこに、ミルミヨルさんの店の服を着ていたら、その服も気になるのよ。 注目されている人が、着ている服を見て、女性なら欲しいと思う人も多かったはずよ。 だって、私も欲しいと思ったわ」
その欲しいという話に、女子の残り3人が、一斉にヒュェルリーンの胸を見た。
「えっ! 何よ」
ヒュェルリーンは、少し驚いたようだ。
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