第97話 ヒュェルリーンの販売戦略


 エルメアーナの着替えが終わると、ヒュェルリーンは、フィルランカとエルメアーナを見比べた。


(2人とも、ミルミヨルさんの店の服を着ているのね。 フィルランカちゃんの方が、胸は大きいのか)


 ヒュェルリーンは、何かを考えるようにして2人を見比べる。


(エルメアーナは、胸を大きく見せるように作られていているのね。 それで、フィルランカさんは、大きさを強調するのではなく、綺麗に見せるようにしているのね。 大きいと垂れるから、……。 フィルランカちゃんの年齢なら、まだ、大丈夫なのかな。 だけど、型崩れしないように工夫されているみたいね)


 ヒュェルリーンは、何かを思った様子で、2人の方に行くと、2人を抱えるように、間に入る。


 すると、2人の外側の腕を掴んで抱き寄せ、そして、その手を、腋の下から前に持っていくと、2人の胸を下から持ち上げるように触り出した。


(ああ、横から見た時と同じで、綺麗なラインになるのは、コルセットやこの服のおかげなのね。 これだと、歳を取っても下着や服が補正してくれるわ)


 ヒュェルリーンの突然の行動に、フィルランカとエルメアーナは、成す術も無く、ただ、顔を赤くして、そのヒュェルリーンの揉んでいる自分の胸を見ていた。


「ああ、これは、至宝だわ」


 ヒュェルリーンとしたら、この服と下着の有用性について、思いついた事を言ったのだろうが、2人は、自分の胸の事を言われたと思ったようだ。


 慌てて、ヒュェルリーンの手を持って外そうとするのだが、その手を振り外すことが出来ずにいる。


 長身のヒュェルリーンのせいなのか、2人は、手首を持って離そうとするが、脇から抱えられたヒュェルリーンの手は振り解けないでいる。


(小さい胸でも大きく見せられ、大きな胸は、型崩れを抑えるように作られているのね。 とても素敵だわ)


「あの、ちょっと、流石にくすぐったいので、手を離してもらえないでしょうか」


「そうだぞ、ヒェル。 お前の胸が、私のでは無くなった。 だけど、私の胸をお前の物だとは言ってないぞ」


 フィルランカとエルメアーナが、ヒュェルリーンに抗議をすると、ヒュェルリーンも自分の行為に気がついたようだ。


 慌てて、2人の胸から手を離すと、2人は、お互いに自分の胸を両手で隠すようにして、前に出ると、振り返って、ヒュェルリーンを恨めしそうに見る。


「ああ、ごめん。 2人の服も下着もとても良く出来ているのね。 感心したわ。 私もミルミヨルさんに、作ってもらおうかしら」


 恨めしそうに見ている2人を気にすることなく、ヒュェルリーンは、自分の事を考えていたようだ。


(でも、私のだけで終わらすのは、少し勿体無いわね)


 ヒュェルリーンは、何やら、ニヤニヤとしはじめたので、その様子を見ていたフィルランカとエルメアーナは、ゾーッとした様子で、お互いの顔を見て、少し少し、後ずさっていた。


(そうね。 この下着も服も売れるわね。 全ての胸に合わせてとはいかなくても、種類を用意したら、既製品として売ることもできるのかもしれないわ)


 そう言うと、自分の胸を持ち上げるようにして、自分の胸の大きさを確認すると、2人の胸の大きさを確認しようと2人の方を見る。


 そこには、壁まで後ずさって、不安そうにヒュェルリーンを見ている、フィルランカとエルメアーナがいた。


(3人ともサイズは、全然違うから、揃えるサイズは、かなり、沢山の種類が必要になりそうね。 そうなると、既製品として用意する種類って、かなり多くなるはず)


 ヒュェルリーンは、今度は、考え込むような表情を浮かべた。


(いや、最初は、貴族と上流階級を中心に売る。 それは、値段が高くなっても、自分の形に合わせて作らせるのよ。 でも、一般にも普及させるなら、サイズを調査して、一般サイズのデータを取るところから始め、いえ、ここから先は、ジュエルイアンと相談した方が良さそうね)


 ヒュェルリーンが、考え事をしていると、突然、お腹の鳴る音がした。


 その音は、エルメアーナのお腹の音だった。


 エルメアーナは、顔を赤くしているが、それをフィルランカとヒュェルリーンが見ていた。


 この沈黙を、エルメアーナのお腹の音が、遮ってくれたのだ。


 一瞬、間を置いたところで、フィルランカとヒュェルリーンが、笑い出した。


 沈黙が長かったせいか、2人は、ツボにハマった様子で、お腹を抱えて笑い続けた。


「2人とも、笑うなーっ!」


 流石に、エルメアーナは、恥ずかしさが、限界にきた様子で、大声で言った。


「ひどいぞ、2人とも。 お腹が空いていたのだから、お腹が鳴っても仕方がないだろう」


 エルメアーナは、言い訳をするが、2人の笑いは止まらない。


「ごっ、ごめ、ん」


「なっ、なん、て、……。 タイ、ミング、な、の」


 2人は、笑いながら答えた。


「お腹が空いていたんだから、仕方がないだろう。 それに、ヒェルが、私の胸を揉んだからだ。 驚いて、緊張してしまったんだ。 だから、ヒェルが、原因なんだ」


 何だか、変な言い訳になり始めた。


「わかったわ。 じゃあ、リビングに戻って、お菓子を作りましょう」


「そうでした。 お菓子の作り方を教えてもらうんでした」


 リビングに移動したのは、お菓子を作る予定だったのだが、色々と脱線してしまったと思い直したようだ。


「それじゃあ、リビングに戻りましょう。 そして、3人で美味しいものを作って食べましょう」


「そうだ。 最初から、何かを作って食べていたら、こんな事にはならなかったんだ」


「そうね。 じゃあ、ヒュェルリーンさん、必要な食材を教えてくださいね」


 そう言うと、エルメアーナの部屋を出て、3人は、リビングに戻って、お菓子作りに入るのだった。


 3人の女子は、ヒュェルリーンの指導のもと、お菓子を作ることになった。


 フィルランカは、時々、作り方や分量を確認するようにしつつ、ヒュェルリーンの手元も気にしていたのだが、エルメアーナは、完成が待ち遠しそうに、早く作ろうと必死になっていた。


 その結果、最初に作られたお菓子は、エルメアーナが、大半をつまみ食いをしてしまい、ほとんど残ることは無かった。


 それを、ヒュェルリーンは、仕方なさそうに見るのだが、フィルランカは、少し怒った様子で、エルメアーナを注意していた。


 完成後は、ジュエルイアンとカインクムも呼んで、5人で出来上がったお菓子と、フィルランカが淹れたお茶を飲んで、エルメアーナのつまみ食いの話が話題に上がった。


 それを不満そうに聞いていたエルメアーナと、周りの笑い声の中、5人のお茶会が行われた。

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