第96話 エルメアーナの着替え


 廊下を、下着姿のエルメアーナを追いかけて、フィルランカが歩いていくと、追い付いたヒュェルリーンが、フィルランカに話しかける。


「ねえ、フィルランカちゃん。 エルメアーナは、お腹空いてたんじゃないの?」


 フィルランカは、エルメアーナの後ろ姿を見つつ、少し困った様子になる。


「きっと、忘れています。 エルメアーナは、何かに集中すると、忘れてしまうみたいなのよ」


 ヒュェルリーンは、言われて、何となく分かった様子で、表情を変えた。


「そうね」


(それにしても、下着で家の中を歩き回るのは、ちょっと、はしたないけど、……。 まっ、エルメアーナだからね)


 ヒュェルリーンは、少し困ったような表情のまま、後を追うが、気になって店の方をみる。


(ああ、うちの人もカインクムさんも、お店で話し中ね)


 ヒュェルリーンは、少しホッとした様子をする。




 エルメアーナの部屋に3人は入る。


 ここ1年ほどで、エルメアーナもフィルランカと一緒に、ミルミヨルから、服が提供されているので、どこに出してもおかしくない女の子の服が数着有った。


 エルメアーナが選んだ服に合わせて、下着も綺麗なものを着るようにしていた。


(あら、エルメアーナったら、一番気に入っていた服を準備したのね)


 フィルランカは、用意した服を見て、直ぐにエルメアーナの手伝いに入った。


「じゃあ、少し絞るわよ」


 フィルランカは、コルセットの紐を引っ張ろうとする。


「ああ、ちょっと、待ってほしい」


 そう言うと、エルメアーナは、自分の胸の位置を調整するようにコルセットを合わせる。


「フィルランカ、お願いする」


 その合図でフィルランカは、コルセットを絞って、紐を止める。


 その様子を、後から来たヒュェルリーンが、覗き込んでいた。


(あら、エルメアーナの胸も大きくなったように見えるわ。 この下着は、すごいわね)


 その様子を、ヒュェルリーンが感心したように見ていた。


「ヒェルは、こんな事をしなくても、私より大きいから、羨ましいぞ」


 エルメアーナは、ヒュェルリーンが、正面から自分の胸元を見ていたので、さすがに、その視線の先に自分の胸があることに気が付いた。


「私は、ヒェルにもフィルランカにも負けているから、少し大きく見えるように、ミルミヨルさんが、少し工夫をしてくれてあるんだ」


(あらまぁ、ミルミヨルさんは、細かな配慮をしてくれるのね)


 ヒュェルリーンは、感心した様子で、エルメアーナの話を聞きつつ、視線は、エルメアーナの胸元を見ていた。


「ヒェル。 私の胸は小さいと言っただろ。 だから、あまり見るな」


 そう言って、着ようとしていた服で、前を隠す。


「ああ、ごめんなさい。 でも、本当に大きく見えるようになるのね。 驚いたわ」


 ヒュェルリーンの感想を聞くと、エルメアーナは、恨めしそうな目でヒュェルリーンを見る。


「大きい人には分からないんだ。 フィルランカにもヒェルにも、小さい人の気持ちは分からないんだ」


 ヒュェルリーンは、しまったと思ったようだ。


 ヒュェルリーンとしたら、自分の胸の形を維持する為に使えないかと思って、見ていたのだが、それが、エルメアーナには、不快に思えたのだ。


「ああ、ごめん。 私は、それを使って、もう少し上に向けられないかと思って、……。 あっ!」


 それを聞いて、エルメアーナは、半ベソ状態になる。


「ごめんなさい」


 ヒュェルリーンは、申し訳なさそうにすると、フィルランカが、気を利かせて、エルメアーナが、手に持っていた服を着させ始めた。


「エルメアーナは、小さいんじゃないのよ。 綺麗な線を描いているのよ。 それをこうやって、さらに綺麗にしているの。 エルメアーナは、可愛いのだから、そんな顔をしないの。 それより、ヒュェルリーンさんに綺麗になったところを見せてあげるのよ」


 エルメアーナを宥めながら、フィルランカは、服を着させる。


 着せ終わると、エルメアーナをヒュェルリーンの前にたたせる。


「どうですか、ヒュェルリーンさん。 エルメアーナは、とても素敵になったでしょ。 さっき、ブラッシングしてくれた髪の毛と、このスカートだと、とても可愛く見えるでしょ」


 そう言って、ヒュェルリーンに同意を求めた。


「ええ、とても素敵。 まるで、どこかのお姫様のようだわ」


 ヒュェルリーンも、ここぞとばかり、エルメアーナを褒めた。


「さあ、エルメアーナ。 ヒュェルリーンさんに、よく見えるようにしてあげて」


 少し、気持ちが落ち着いたのか、エルメアーナは、フィルランカに促されると、右側に向いて、側面からの様子を見せるようにする。


「どうた、ヒェル。 少しは、女の子らしく見えるだろう」


 ヒュェルリーンは、さっき、お姫様のようだと言ってしまったので、少し、言葉に詰まったが、両手を合わせて、胸元に置き、笑顔を向ける。


「ええ、とっても、素敵よ。 どこから見ても、とても可愛いわ」


「そ、そうか」


 エルメアーナは、少し恥ずかしそうにする。


「このドレスは、エルメアーナが、一番気に入っているんですよ。 私も、これが一番似合っていると思うけど、宣伝なので、別の服を着たこともありましたけど、私も、これがエルメアーナに似合っていると思います。 このドレスの後、ミルミヨルさんのところで、次のものを用意してくれたのに、こっちがいいって、次のドレスは要らないとまで言ったんです」


 それを聞いて、ヒュェルリーンは、少し可笑そうな表情をした。


「そうなのね。 他のドレスが、どんなのかは分からないけど、このドレスは、とても、似合っていると思うわ」


「そうか。 2人にそう言われると、何だか、照れるな」


 2人は、エルメアーナの機嫌が直って、ホッとしたようだ。

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