新学年のフィルランカ

第98話 新学年の初日


 フィルランカは、何事もなく、進学できた。


 モカリナと2人で、3年生達の補修授業を受けたことで、2学年で取得する単位を、1学年の時に、多く取得した事で、2人は、取得した単位の時間は、3学年の授業を受ける事ができるのだ。


 2人は、手続きを済ませて、授業を受ける教室の確認を行った。


 2人で学校内を確認するように移動していると、一つの教室の前で、立ち止まった。


 そこには、1着のドレスが飾ってあった。


 教室の入り口は、鍵が掛かっていたので、中に入ることはできないのだが、窓から覗くことができた。


「ねえ、フィルランカ。 あのドレス、とても素敵よね。 ローブがあったら、花嫁衣装になりそうよ」


「そうね。 白のドレスなんて、とても素敵ね」


 フィルランカは、ミルミヨルの店の宣伝のために、何着も持っているのだが、白は持っていなかった事を思い出した。


「何、言っているのよ。 白は、やっぱり、花嫁衣装よ。 でも、なんで、学校に置いてあるのかしら」


「さー? なんでなのでしょうね。 先生に聞いてみたら」


「もう、フィルランカったら、ちょっと、ドライすぎるわよ」


 モカリナは、フィルランカのそっけない態度に、少し拗ねたような表情で答えた。


 フィルランカは、自分には関係ないことと思ったので、ただ、モカリナの話を聞いて答えただけだった。


 そのため、そっけない対応になってしまっていたのだ。


 そんな対応をして、モカリナが、面白くなさそうにしているので、フィルランカは、話を変えようと思ったようだ。


「ねえ、ツ・レイオイ・リズディア殿下だけど、去年、結婚なさったわね。 皇位継承権を、末代まで放棄したって話よね。 でも、相手は貴族の方だったのではないの?」


「確かにそうなのよ。 皇位継承権を放棄したということで、華美な結婚披露は、行わなかったのよ。 皇族の方と相手の家の方々だけで、小さな宴だけで終わらせたみたいなのよ」


「ふーん」


 フィルランカは、表情だけは、真剣そうにして相槌を入れた。


「リズディア殿下は、第1皇女なのだから、本来なら、もっと、盛大に祝うべきだったわ。 大学もだけど、学校関係の部分には、リズディア殿下の貢献度は、とても高かったわ。 お兄様のツ・リンケン・クンエイ殿下と、協力して、奨学金制度を作ってくれた事で、貧しい家庭の帝国臣民でも、教育を受けられるようになったのよ。 だから、もっと、リズディア殿下には、臣民に、もっと披露するような事をしてもよかったと思うのよ」


「そうね」


「私は、リズディア殿下の話を聞けたから、こうやって、フィルランカと一緒に頑張れたのよ。 そして、大学を卒業したら、リズディア殿下の下で働きたかったのに、ちょっと、残念だわ」


「そうね」


「イスカミューレン商会の跡取りのイルルミューラン様のところに、嫁いでしまったのなら、あとは、ご自宅で過ごすことになるのかしら」


 モカリナは、がっかりした様子をする。


「ねえ、モカリナ。 リズディア殿下って、帝国大学を出た後、留学されていたのではないの?」


「ええ、そうよ。 南の王国の大学に、留学しているわ」


「ねえ、リズディア殿下って、今、何歳なの?」


 フィルランカの質問を聞いて、モカリナは、少し考える。


「うーん。 今年、34歳、かな」


 フィルランカは、なんとも言えない表情をする。


(皇族の方にしたら、結婚の年齢が、随分と高いのね)


 フィルランカの様子を気にすることなく、モカリナは、わずかに悔しそうな顔をする。


「あーっ、リズディア殿下の花嫁衣装を、見たかったわ。 きっと、とても素敵だったのでしょうね」


「ねえ、モカリナ。 あのドレスだけど、なんで、この学校に有るのかしら?」


 フィルランカは、単純に、この学校には不釣り合いだと思って聞いたのだが、モカリナは、真剣な表情になる。


「あれ、ひょっとしたら、リズディア殿下が、結婚式に着たドレスじゃないのかしら」


「まさか。 そんな訳ないでしょ」


 フィルランカが、否定すると、モカリナは、その教室のドアを開けようとするのだが、2箇所あるドアは、どちらも、鍵がかかっていて開けることはできなかった。


 ドアが開かないと思うと、モカリナは、廊下側の教室の窓を全て確認し始めた。


「あーっ、どれも締まっているわ」


 残念そうに言う。


「仕方がないわよ。 とても素敵なドレスですから、きっと、戸締りもしっかりさせているのよ」


「そうよね。 盗まれたら、大変よね」


 モカリナは、がっかりした様子で答えた。




 すると、廊下の向こう側から、女子生徒が、5・6人、集団でフィルランカ達の方に歩いてきた。


 何やら、お互いに話をしつつ、歩いてくると、フィルランカ達が居る教室のドアの鍵を開け始めた。


 モカリナは、その様子をみて、その女子生徒の集団の方に歩いていく。


「すみません。 こちらの教室に飾ってあるドレスの事を、ご存知でしょうか?」


 そのモカリナの様子に、その女子生徒達は、少し、驚きつつモカリナをみていた。


「あのドレスは、どなたのドレスなのでしょうか?」


 すると、その集団の1人が、モカリナの前に出る。


「あれは、この学校を卒業した先輩が、作ったドレスです。 随分前のものなのですけど、代々、引き継いで、参考にさせてもらっているのよ」


「先輩が、作った」


 モカリナは、ガッカリした。


 ひょっとしたら、リズディアの花嫁衣装なのではないかと思い、期待を寄せていたのだが、それを否定されて、がっかりしたのだ。


「そう、随分前の先輩なのですけど、とても綺麗に出来上がっているので、残してあるのよ。 時々、こうやって、外に出して、陰干しをしているのよ」


「ああー、そうなのですか」


「私達は、課外活動の一環として、ドレスを作っているの。 あれは、本当に綺麗にできているので、あのドレス以上のものを作る事が、私達の目標なの」


 それを聞いて、モカリナは、気を落とした様子になる。


(なんだ、私ったら、変な気を回していたのね。 そうよね。 リズディア殿下の着た花嫁衣装が、こんなところにある訳は無いわね)


「ありがとうございました」


 そう言って、女子生徒の集団から離れて、フィルランカのもとに帰っていった。


 モカリナが、帰っていくので、女子生徒達は、教室に入っていくのだが、モカリナに答えた女子生徒は、教室に入る事なく、モカリナとフィルランカを見つめていた。


(あれは、リズディア義姉様おねえさまが、学生時代に作ったものなのよ。 だから、私たちも、こうやって、陰干する時とか、衣装を参考にする時とかしか、見ることができないのよ。 それに、リズディア義姉様の作ったドレスだと知られないように、代々、部長にしか教えられてないのよ)


 フィルランカとモカリナが、移動し始めると、その女子生徒も教室の中に入っていった。

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