第94話 ヒュェルリーンの解説


 エルメアーナは、自分の胸を下から持ち上げるようにしていた。


 そして、自分の着ている服と、フィルランカ達の服を身比べると、自分だけ、作業着だったことに気がついたようだ。


「私も、ちょっと着替えてくる」


 そう言うと、リビングを出ていった。


 ヒュェルリーンは、まだ、胸を隠すようにして立っていた。


(あら、お腹はいいのかしら?)


 そして、フィルランカは、エルメアーナを見送ると、ヒュェルリーンに向く。


「あのー、大丈夫ですか?」


 フィルランカは、心配そうに聞いた。


「すみません。 エルメアーナが、失礼なことをしてしまいました」


 そう言って、申し訳なさそうにする。


「ああ、かまわないわ」


「あのー、さっき、エルメアーナが、言っていたことは、本当なのですか?」


 ヒュェルリーンは、少し驚いた。


 まだ、自分が、フィルランカの胸の大きさを気にしていたことを、フィルランカにも聞かれて、少し困ったような表情をする。


「ああ、胸の大きさのことじゃないです。 ブラッシングしている時に、少し力が強くなったと、エルメアーナが言ってましたけど」


(ん? ああ、フィルランカちゃんは、人の心をよむ方法が知りたいのね。 私が、フィルランカちゃんの胸の大きさを気にした時に、エルメアーナが、気がついたことを知りたいのか)


 ヒュェルリーンは、少しホッとした様子になる。


「ああ、そうね。 やっぱり、見た目が、あなた位の頃は、私の胸は、それ程大きくはなかったから、あの時は、少し動揺したわ。 それが、手や腕に力が少し入ってしまったのね。 それをエルメアーナが、敏感に感じたみたい。 そういえば、鍛治をしていると言っていたし、カインクムさんの金槌の力加減で、大体分かるなら、髪の毛にかかる力加減も、直ぐに分かったのね。 今度は、気をつけることにするわ」


「あ、いえ、エルメアーナが、気に入っているようなので、また、ブラッシングしてあげてください。 何だか、とても、気持ちよさそうにしてましたから、私も、エルメアーナの表情を見ていて嬉しかったです」


「あら、そうなの。 ええ、次に来た時も、ブラッシングさせてもらうわ」


 ヒュェルリーンが答えると、フィルランカは、考え始めたが、直ぐに、気を取り直したように話しかけた。


「あのー、エルメアーナに、私の胸を気にしている時の様子を、教えてもらえないでしょうか?」


(あらま、ちょっと恥ずかしい事を平気で聞いてくるのね。 ……。 まあ、仕方がないか)


 ヒュェルリーンは、一瞬、嫌そうな表情をするが、直ぐにフィルランカを興味深そうにみる。


(まぁ、年齢的にも私は、2人より、かなり上なんだし、それに、フィルランカちゃんは、覚えることに関しては、才能があるのかもしれないわね。 今の、やり取りの様子を話したら、案外、面白い事になるかもしれないわね。 それに、この子なら、ジュエルイアンをパトロンにしなければ、食っていけない娘にはならないでしょうし、上手く仕込めば、帝国での商売の一角を任せられる逸材になるかもしれないわ)


 ヒュェルリーンは、何か納得するような様子をすると、先程のブラッシングの時の事を話し始める。


「ねえ、フィルランカちゃん。 さっき、ミルミヨルさんのお店で、お洋服を買っていると言った時に、あなたは、どこを触っていたか覚えているかしら?」


 フィルランカは、答えを聞けると思っていたのだが、ヒュェルリーンは、質問をしてきたので少し驚いた様子をする。


「えっ! あの時は、……。 そう、ミルミヨルさんの服は、胸を強調できるようにって、お腹や、背中の脂肪を胸に集めるようにしているからと思ったから、そう、確か、お腹か、脇を触っていたと思います」


 フィルランカは、思い出しつつ、その時に触っていた脇腹や腹部を、手で触りつつ答えた。


 その様子を、ヒュェルリーンは、満足そうに見ている。


「そう、それが、心の中の事が、行動に出たのよ。 胸を強調するために、そのコルセット型の服が、脂肪を上に上げるようにしているのよ。 それが、心の中で思っていたことが、行動に出てしまったから、フィルランカちゃんが、何を考えていたのか、おおよそ、想像がついてしまったのよ。 それが、私には、エルメアーナの髪をブラッシングしている力加減に出てしまったのよ」


「ああ、そうなのですね。 私の思っていた事が、思わず、お腹を触っていたから、それで、私の胸が大きくなるのは、この服のお陰なのだと、分かってしまった。 そのヒュェルリーンさんの分かったと思った事が、ブラシの力加減に出てしまって、エルメアーナに気が付かれたって事なのですね」


 フィルランカは、納得したように答えた。


「そう、人の思っている事って、態度に出てしまうものなのよ。 動揺しているとか、怒っているとか、悲しいとかは、簡単なのだけど、細かな心中は、大きく変わるからなのよ。 でも、小さな変化を見逃さなければ、もっと、細かな心の変化を見分けられるってことね」


 フィルランカは、感心した様子で、ヒュェルリーンを見る。


「そうなのですね。 とても、勉強になります」


 ヒュェルリーンは、説明した内容をフィルランカが、直ぐに、自分の言葉で話した内容を聞いて感心した様子をする。


(説明を聞いて、一字一句、同じ事を言うなんてことはできないけど、この子は、自分の頭の中で私の話を構築して自分のものにしたようね。 うん、やっぱり、この子は、使えるわ)


 説明を聞いて、理解できているかどうかは、言った事を説明させれば、理解度がわかるものなのだ。


 理解できてなければ、その部分が欠落する事になるので、相手に話させて欠落している部分を埋めてあげれば、理解度は増す事になる。


 ヒュェルリーンは、フィルランカの話の内容から、ほぼ、理解できているように思えたので、満足そうな表情を浮かべている。


「うん。 いいわね。 エルメアーナは、鍛治の応用から、私の感情を読み取ったのだから、あの子も大したものよね」


 ヒュェルリーンは、ポロリとエルメアーナの事を漏らすように話した。


 それを聞いて、フィルランカは、少し表情を曇らせた。


(私より、エルメアーナの方が、人の心をよむ事に長けているって事なのかしら)


 ヒュェルリーンは、フィルランカの様子に気が付かず、自分の考えをまとめていたようだ。


「ああ、フィルランカちゃんは、店番をしているわね」


「ええ、時々ですけど、時間が空いた時は、手伝ってます」


 ヒュェルリーンに聞かれて、フィルランカは、慌てて答えるのだが、ヒュェルリーンは、自分の世界に入ってしまった様子で、フィルランカの様子を気にする事なく、話を続けてきた。


「あのね、その時、お客さんが、欲しいと思った商品を買う時の事を思い出してみて、きっと、その時、この人は、値切ってくるとか、表示の金額で買うとか、それは、表情を見ていたら、きっと、分かるわ」


 フィルランカは、思い出すような表情をしているが、ヒュェルリーンは、それも気にする事なく、話を続ける。


「その値切りにしても、予算を超えてしまった場合と、手持ちが有るけど、値切るのが楽しみだと思って行う人とで、値切り方も違ってくるわ。 それだけじゃないわ。 買った後の表情も、満足して帰っていくのか、微妙な顔をして帰っていくかもあるわね」


「えっ、微妙な顔?」


「そう、お客が、自分の思っていたものが無かった時ね。 妥協して買った時の表情とかも、見ただけでわかるわ」


 フィルランカは、納得したような表情をして、ヒュェルリーンの話を聞いている。


「そういった、お客の表情を気にして見ているようにするのよ。 買う前と、買った後の様子を見ていれば、それが理解できると思うわ。 きっと、フィルランカちゃんは、お客と向き合った回数が、少ないだけかな」


「ええ、そんなこと考えてなかったです。 今度から、店番をしている時に、今、言われた事を気にして接してみる事にします」


「そうね。 きっと、役に立つと思うわ」


(カインクムさんのお店も、フィルランカちゃんが店番をしていたら安心よね。 でも、少し、勿体無いかもしれないわね)


 ヒュェルリーンは、フィルランカをジーッと見つめる。


 その視線を、フィルランカは、最初は、何気なく受けていたが、徐々に、恥ずかしくなったようだ。


(あと、フィルランカちゃんに、人を使う方法を教えていったら、良い商人になるかもしれないわ)


 ヒュェルリーンは、フィルランカを見て、微笑を浮かべた。


 その微笑が、フィルランカには、更に恥ずかしく思えた様子で、顔が、徐々に赤くなっていた。

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