第93話 エルメアーナの思っていたこと


 ブラッシングが終わって、椅子から立ち上がったエルメアーナが、ヒュェルリーンの胸を鷲掴みにした。


「ヒェ、エ、ええーっ!」


 ヒュェルリーンは、流石に驚いたようだ。


「うーん。 ヒェルの方が、フィルランカより有るな」


 ヒュェルリーンは、恥ずかしそうにしていた。


 後ろに下がるなり、腕を払うなりすれば良いのだろうが、突然で、何も考えられなかったのかもしれない。


「フィルランカ。 やっぱり、お前よりヒェルの方が大きい」


 そう言って、フィルランカの方を見る。


 フィルランカは、そのエルメアーナが、ヒュェルリーンの胸を鷲掴みにして、モミモミしているのを見て、ひき気味になっている。


「流石は、ミルミヨルさんだ。 小さくても大きく見せてくれる。 あの人は、天才だ。 じゃあ、これだけ大きな胸に、ミルミヨルさんの服を着させたらどうなるんだ」


 そう言いつつ、エルメアーナは、ヒュェルリーンの胸を両手で持ち上げ出す。


「この大きな胸が、ミルミヨルさんの服を着たらと思うと、これは、反則級じゃないのか」


 エルメアーナは、目の前に広がる、ヒュェルリーンの胸を持ち上げながら、羨ましそうに見ていた。


「あのー。 エルメアーナさん。 そんなに私の胸で遊ばないで欲しいのだけど」


 流石に、自分の胸を弄ばれていたせいなのか、呼び捨てにしてなかった。


「ん? これは、私のだ。 ヒェルの胸は、昔から私のためにあったんだ。 久しぶりなのだから、ヒェルは、ジュエルイアンといつも一緒だから、ジェルイアンが来る時だけしか会えないから、来た時は、触らせてくれるって言ったじゃないか」


「それは、エルメアーナが、小さかったからです。 私の胸は、ジュエルイアンのものですから、勝手に触らないで欲しいのだけど」


 ヒュェルリーンは、モジモジしつつ、顔を横に向けると、その方向の手を口元に当てて、顔を赤くしていた。


「ん? もう、私のでは無くなってしまったのか? うーん、いつの間に。 もう、私が遊ぶわけにはいかないのか」


 エルメアーナは、少しガッカリしつつ、ため息を吐いた。


 そして、エルメアーナは、ヒュェルリーンの胸から手を離した。


「そうか、もう、私は、ヒェルの胸に触ってはいけないのか」


 エルメアーナは、ガッカリした様子で言うと、ヒュェルリーンも申し訳なさそうにしていた。




 そんな2人の様子を、フィルランカは、会話についていけない様子で、2人を交互に見比べていた。


 ヒュェルリーンは、恥ずかしそうな様子で、両手で胸を隠すようにしていた。


「でも、何でなのですか? 髪の毛の手入れが終わったと思ったら、突然、私の胸を触るんですか?」


「だって、ヒェル、フィルランカの胸の話が出た時、ブラシにかかる力が変わったから、フィルランカの胸が気になったと思ったんだ。 でも、さっき、胸の中に抱いてもらった時にも思ったけど、やっぱり、こうやって手で触ってみたら、服の上からでもよくわかったぞ」


 そう言って、エルメアーナは、両手でヒュェルリーンの胸のあった辺りを揉むようにしていた。


「人は、気になることがあると、微妙に体の力の入り方が違うんだ。 ヒェルもそうだったから、てっきり、フィルランカの胸が気になったと思った」


「ん、もう。 エルメアーナったらぁ」


(まぁ、この子は、そんな私の力加減で、フィルランカちゃんの胸を気にしていたことに気がついてたの)


「そうだろう。 私は、金槌の力加減で父の様子もわかるぞ。 刀は、力加減によって、その出来が決まるんだ。 微妙な力加減が、出来栄えに影響が出るんだ。 だから、力加減は、全身で感じるんだ。 さっき、ヒェルが、フィルランカが、自分の体を触っている時とか、直ぐにわかったぞ」


 ヒュェルリーンは、自分の思っていた事が、エルメアーナに見透かされていたことに、少し戸惑いを覚えたようだ。


「まあ、そうなんだけど、……。 そうなのよ。 私がフィルランカちゃん位の時は、そんなに大きくないと思ったのよ。 かなり昔のことだけど、あなた達位の頃、私、そんなに大きくなかったわよ」


「おおーぉ、そうなのか、私が、フィルランカより小さいのは、年齢のせいなのか。 だったら、後10年もしたら、ヒェル位大きくなるのか。 そうか」


 エルメアーナは、1人喜んでいた。


 エルメアーナは、どちらかというと、筋肉が付いている方なので、フィルランカより小さいことを気にしていた。


 しかし、ヒュェルリーンが同じ位の歳の頃は、小さかったと言われてホッとした様子をする。


「そうよ。 でも、私にしたら、50年も前の話よ。 エルフは、人よりゆっくり成長するから、参考にならないかもしれないわ」


「いや、かまわない。 希望が持てた。 大きくなった人がいたのだ。 このままで終わると決まったわけじゃないとわかっただけでもいい」


「エルメアーナって、めげないのね」


 ヒュェルリーンも少し落ち着いたようだ。


「エルメアーナは、大きくしたいの?」


「ああ、フィルランかと同じ位にはなりたい。 いつも、フィルランカの服を借りると、胸が余るんだ。 それが、何だか、ちょと、負けたような気になるんだ」


 エルメアーナは、少し寂しそうな顔をする。


「でも、最近は、私にも服を作ってもらえるから、少しだけ、私の胸も大きく見えるんだ」


 その話を聞いて、フィルランカとヒュェルリーンは、微妙な顔をしていた。


(やっぱり、昔から、エルメアーナは、胸の大きさの違いが気になっていたんだ)


(そうよねぇ。 フィルランカちゃんと比べたら、見劣りするかもしれないわねぇ)


 2人は、何か言いたそうにしていたが、絶対に口に出せないといった様子で、ひきつった表情で、エルメアーナの話を聞いていた。

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