第92話 フィルランカの宣伝の話


 フィルランカは、ヒュェルリーンの話を興味深く聞いていた。


 自分が、この先、カインクムの店番を仕事とするなら、ヒュェルリーンの話は、とても有益だと思ったようだ。


 その表情には、真剣さが出ていたので、ヒュェルリーンも、その様子が嬉しそうに、チラ見しつつ、エルメアーナの髪の毛を扱っていた。


「ヒュェルリーンさん、そう言えば、私、第5区画のミルミヨルさんのお店の服を着ているのです。 けど、それが、最初の頃は、よく分からなかったのですけど、人に聞かれたら、服は、ミルミヨルさんの店で買いましたとか、靴は、カンクヲンさんの店で買いました。 それと、髪の毛は、ティナミムさんの店でやってもらったと言うように言われたんです」


 フィルランカの話をヒュェルリーンは、興味深そうに聞いていた。


「ああ、宣伝をしたのね。 すごいわね」


「でも、服とか靴とか、それに髪の毛には、私、お金を払って無かったんです」


 フィルランカは、少し、不安そうな顔をして話している。


「どれも、素敵な服だし、後で確認したら、靴も、何もかも、私が出せる金額より高かったんです。 そんな高価なものを、無料でもらってしまっているんです。 それに、時々、呼ばれて、新しいものが出来たからとかで、呼ばれて、言われた通りにするのですけど、それも全て無料なんです。 それで、悪いと思って、足りないかもしれないけどと言って、少しお金を払おうとすると、要らないっていうんです。 私は、支払い以上の事をしてくれているから、問題ないって、その3店からは言われているんです」


 それを聞いて、ヒュェルリーンは、一瞬、鋭い商人の目をするが、直ぐに、元の優しい目に戻る。


「ねえ、フィルランカちゃん。 そのお店、洋品店のミルミヨルさんと、そのお隣の靴屋のカンクヲンさん、それと、ティナミムさんの店は、通りを挟んで向かいのお店よね」


(あらま、数年前から、頭角を表してきたと有名なお店じゃない。 イスカミューレン商会でも、話に上がっていたお店よね。 フィルランカちゃんが宣伝をしてたの? でも、何でなのかしら)


 ヒュェルリーンは、少し考えていると、目の前に髪の毛をブラッシングされて、気持ち良さそうにしているエルメアーナが口を開いた。


「5・6年前から、フィルランカは、綺麗な服を着ているんだ。 髪の毛も靴も、とても素敵なんだ。 私も、時々、使わせてもらっているんだ。 とても、着替えると、何だかお姫様になったみたいだったよ。 それで、フィルランカの合格祝いの時に、私にも父が、一通り揃えてくれたんだ。 そうしたら、今年から、私も一緒にフィルランカと、お揃いの服も靴ももらえるようになったんだ」


(あら、2人とも宣伝に一役買っているのね)


 エルメアーナは、ニヤついた表情で答えた。


 その答えを聞いて、ヒュェルリーンは、面白そうにしていた。


(でも、この2人に、そんなに宣伝効果があるのかしら?)


 フィルランカは、自分の疑問をヒュェルリーンが答えてくれないかと思ったのだろう、ヒュェルリーンを、ジーッと見つめていた。


 その視線に、ヒュェルリーンが気がついた。


「ああ、宣伝というのは、人の目に付かないといけないのよ。 だから、注目されている人が着ている服だったら、周りは、その人の服を着たいと思うだろうし、その髪型を真似したいと思うものなのよ」


 その答えを聞いて、フィルランカは、不思議そうな顔をする。


「はい、そうですか。 言わんとしていることは、分かるのですけど、何で、私だったのでしょうか?」


 それには、ヒュェルリーンも困った様子をする。


「私には、よく分からないけど、ただ、そのお店の人達には、フィルランカちゃんに、与えた服や靴以上の価値があると判断されたのよ。 それに、さっき、言っていたお店だけど、とても有名になったお店よ」


(そうね。 5・6年前って、フィルランカちゃんが、11・2歳の頃よね。 まだ、あどけなさが残っているわというより、本当に子供よね。 そんな子供に、あれだけ店を有名にする力が有ったのかしら?)


「ねえ、フィルランカちゃん。 最初の頃の服って、直ぐに小さくなってしまったんじゃないの?」


「ええ、そうでした。 あの頃は、直ぐに小さくなってしまったので、1ヶ月位すると、あちこちがキツくなってしまって、相談に行くんですけど、その都度、ミルミヨルさんは、とても忙しそうにしていたらしく、目の下が黒っぽくなっていましいた。 でも、私が店を訪ねると、寸法直しとか、大変そうだったけど、直してもらえました」


 フィルランカは、そう答えつつ、胸の辺りを気にしていた。


「ああ、靴は、カンクヲンさんが、直ぐに新しい靴に交換してくれたんです。 直ぐに、当たるようになってしまったから、かなり頻繁に交換してもらった時もありました。 でも、靴は、もうくたびれる迄使えています。 流石に、足は、もう、大きくならないみたいです」


 ヒュェルリーンは、フィルランカが、さっき、寸法直しの時に手を胸に当てたのを黙って見ていた。


(そうよね。 その時代なら、第二次成長期だから、足もだけど、女子なら胸も大きくなるわね)


 ヒュェルリーンは、時々、フィルランカと自分の胸を比較しつつ、エルメアーナのブラッシングをしている。


(何だか、ちょっと、私の方が、小さく見えるのは、気のせい? 私は、エルフ。 それで、99歳。 人なら、27・8歳の見た目よね。 人なら、10歳位年上になるのよ。 人の年齢、……。 何で、私の方が、小さく見えるの?)


 ヒュェルリーンは、微妙な表情をする。


「ねえ、フィルランカちゃん。 その服もミルミヨルさんのお店の服なの?」


 フィルランカは、ヒュェルリーンの質問に、少々、驚いた様子をする。


「えっ! ええ、そうです。 ミルミヨルさんに、申し訳ないので、普段着も、ミルミヨルさんのお店で買うようにしていたんです。 でも、イメージが崩れるとか言われて、一般的な服じゃなくて、似たような形の服を進められるんです」


 そう言って、フィルランカは、自分の胸を持ち上げるようなデザインになっている服を強調するように、脇やお腹を押さえている服の部分を触っていた。


(ああ、なるほど、そのお腹周りを抑えているコルセットが、胸を強調しいているのね)


 ヒュェルリーンは、羨ましそうにする。


「ヒェル、もう大丈夫だと思う。 ありがとう」


「あ、ええ、あら、そう」


 そう言って、エルメアーナの髪の毛からブラシを外すと、座っていたエルメアーナが、椅子から立ち上がった。


 そして、立ち上がると、ヒュェルリーンに向く。


 すると、エルメアーナは、一瞬、イヤラシそうな笑みを浮かべると、ヒュェルリーンの胸を鷲掴みにした。

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