第91話 フィルランカの才能を感じるヒュェルリーン


 フィルランカは、ジュエルイアンの大きな笑い声を聞いて、ヒュェルリーンを見ると、ヒュェルリーンは、店の方向に顔を向けていた。


(落ち着くのよ。 冷静になるのよ。 今、ヒュェルリーンさんは、ジュエルイアンさんの事を気にしているみたいだから、今のうちよ)


 フィルランカは、大きく息を吸って吐いてを繰り返す。


「全くもう。 うちの人ったら、本当に下品なんだから」


 笑い声が聞こえなくなると、ヒュェルリーンは、視線を戻すと、そこには、大きく深呼吸をしているフィルランカが目に入った。


(なんで、深呼吸しているの?)


「ねえ、フィルランカさん。 どうかしたの?」


 ヒュェルリーンは、不思議そうな表情をフィルランカに向けつつ聞いた。


「あっ、いえ、なんでもありません。 ちょっと、考え事をしてたもので」


 すると、2人の会話にエルメアーナが入ってきた。


「ヒェルゥ。 ブラッシングは?」


 エルメアーナが、甘えた口調で、ヒュェルリーンに話しかけてきた。


 ジュエルイアンの、大きな笑い声と、フィルランカの深呼吸で、エルメアーナの髪の毛のブラッシングがおろそかになっていたのだ。


 それをエルメアーナに指摘された。


「ああ、ごめんなさい。 もう少しで終わるわ」


 そう言うと、また、エルメアーナの髪の毛をブラッシングに集中し始めた。


 ヒュェルリーンは、エルメアーナの髪の毛をとかすのだが、とても楽しそうに思ってるように見える。


 その様子を見ていたフィルランカは、ホッとしていた。


(なんとなくだけど、今の様子なら、私の気持ちをヒュェルリーンさんには、分からなかったかもしれない。 多分)


 フィルランカは、ヒュェルリーンをチラチラと見ていた。


(でも、人の心を読めるって、すごい事だわ。 それができたら、カインクムさんが、私の事をどう思っているかも判るって事よね)


 フィルランカは、何かを気にするような様子が窺える。


 フィルランカが、何かを言いたそうにしていた。


「あのー」


 フィルランカは、恐る恐る、ヒュエルリーンに話しかけた。


「ん? どうかした?」


 ヒュェルリーンは、エルメアーナの髪の毛をブラッシングしつつ返事をした。


「あのー、先ほど、人の心を読むのは、簡単そうな事を言ってましたが、それは、どうやったらいいのですか? それと、何か、コツがあるのでしょうか」


 ヒュェルリーンは、少しホッとしたような表情をする。


「なんだ、そんな事か」


 ヒュェルリーンは、エルメアーナの髪の毛をブラッシングしていたこともあり、フィルランカの様子を伺ってなかったので、どんな質問をされるのか、少し、心配していたようだ。


「あのね。 具体的な事は、説明しにくいのだけど、……。 まあ、嘘をつく時って、人は、その人の目を見ないようにする場合が多いのよ。 それにヒトによっては、斜め上を見る傾向にあるかしら。 ああ、あなたの年頃なら、相手が好きか嫌いかとかの方かな。 例えば、何気ない話をしているでしょ。 嫌いな人となら、話は早めに切り上げようとするけど、好きな人なら何気ない話でも、続けようとするわ。 だから、話が終わると、別の話題を出してくれたりするわ」


 フィルランカは、その話を食い入るように聞いていた。


「あのー。 好きな人のを、自分の方に向ける方法なんて有るのでしょうか」


 フィルランカは、恐る恐る聞く。


「ああ、そうね。 あなた位の年頃だと、一番気になるところね。 うん。 そうよね」


 フィルランカは、息を飲んだ。


「人を振り向かせるには、黙っていたら、絶対に無理なのよ。 だから、積極的に話す事が大事なの。 それから、相手の好みそうな話題を積極的に話すのよ。 無かったら、調べるのよ。 そして話すの。 相手に気が合うんじゃないかと思わせるのよ」


 フィルランカは、頷きながら、フュェルリーンの話を聞いていた。


「話題が、自分と共通だと思うと、相手は親しく思うようになるわ。 そうやって、少しずつ相手の心に近づくようにするの。 あーっ、そうそう、全く知らないとか、話もしたことが無かったら、共通の友人を通じて話をするのも有りだわ。 自分が話した事のある相手と、その気になる人が話をしている時に、その話した事のある相手に話しかけるのよ。 それで、キッカケを作ったりするのよ」


 ヒュェルリーンは、フィルランカが、好みそうな方向で話をしたのだが、フィルランカは、今の方法について興味が無さそうに聞いていた。


(あら、彼女は、話せない相手ときっかけを持とうとしているわけでは無さそね。 もう、好きな相手とは、話す事ができているのかしら)


 ヒュェルリーンは、フィルランカの事を視界の隅の方で捉えながら、時々、表情を伺いつつ、エルメアーナの髪の毛をブラッシングしていた。


「そうなのですか。 よく話すようにする。 相手の好みそうな話を話題にすれば良いのですね」


 フィルランカは、納得するような表情をした。


「でも、ヒュェルリーンさんは、何で、そんなに人の思いを知る方法を知っているのですか? 本当に年齢だけなのでしょうか?」


 ヒュェルリーンは、オヤっと思った様子をした。


「あら、鋭いところをついてきたわね。 ただ、何となく生きて、年齢を重ねただけなら、気がつけないでしょうね。 私は、ジュエルイアンと一緒に商人をしているでしょ。 だから、人と接することが多いのよ。 その中には、口先だけで、上手い話で、お金だけを持っていこうとする連中も居るのよ。 それを見分けなければ、この業界で生きていくことはできないわ。 まあ、騙されないために身につけたのかしら」


「そうだったのですね」


「フィルランカさんも、店番をしているのだから、それは、徐々に身につくと思うわ。 お店はね、騙されたと知られると、甘く見られてしまうのよ。 そうなると、騙しやすい相手だと思われれば、その噂を聞いた、また、別の人が騙しに来るのよ。 それに、こちらだけの利益を考えると、お客は逃げていくのよ。 だから、相手にも利益をもたらすようにするのよ」


 フィルランカは、感心したような表情をする。


「ああ、それとね。 相手の利益というのは、お金だけじゃないからね。 相手が、その商品に価値を認めたら、それも相手に利益を与えたことになるのよ。 だから、銀貨1枚の商品でも、売り方によっては、金貨1枚の価値が出るのよ。 だから、その為に相手の考えている事を読み取る必要があるのよ」


「はい、何となく分かるような気がします」


 ヒュェルリーンは、フィルランカの答えを聞いて、チラリとフィルランカの様子を伺った。


「買い物をしてもらっても、ただ必要だからと買っていった人と、色々と聞いて買った人だと、買って帰っていく時の表情が違います。 それに、目的の物が無かった時の、ガッカリした様子をしてました」


「そうよ。 それが、相手の心を読むということなのよ。 あなたもできているじゃない」


 ヒュェルリーンは、満足そうに答えた。


「最初は、そんなところからなのよ。 そういうことを気にしつつ、相手と話をすると、少しずつ、相手の考えが読めるようになるのよ。 フィルランカちゃんも、商人の才能がありそうね」


 そういうと、笑顔を見せた。


 ヒュェルリーンは、フィルランカの飲み込みの速さを気に入った様子で、フィルランカを見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る