第86話 宴の終わりに
フィルランカとモカリナは、学校の話で盛り上がっていた。
エルメアーナもベンガークに案内してもらって、根掘り葉掘りと話を聞いているようだった。
ただ、1時間を過ぎてくると、ベンガークの表情には、疲れが見えてきていたのだが、エルメアーナは、気にすることもない様子で、ベンガークを連れ回していた。
(そろそろ、エルメアーナを、連れ戻した方が良さそうよね。 ベンガークが、疲れ気味だけど、フィルランカは、その辺りに疎いから、絶対に止めてくれないわね)
モカリナは、ホッコリしつつ、お茶を飲んでいるエルメアーナを見ていた。
(いい加減、何か口実を探さないとね。 ベンガークったら、何だか、小さな子供の相手をしている、おじいちゃんのようになっているから、何とかしてあげないといけないわね)
モカリナが、そんな事を考えていると、フィルランカは、太陽の位置を確認し始めた。
そして、何かを考えるような表情をし始めた。
「ねえ、モカリナ。 私達、そろそろ、帰るわ。 今日の料理を食べていたら、足しておきたい食材もあるから、明るいうちに済ませたいの」
モカリナは、丁度良い頃合いかと思った。
モカリナ自身は、もう少し、フィルランカと話していたい気もするのだが、連れ回されて、疲れ気味のベンガークのことを考えると、頃合いなのかと思ったようだ。
「そうね。 楽しい時間は、時間が経つのが早いわね」
「でも、楽しいからといって、続けてしまうと、必ず後悔するから、楽しみは、また、次まで取っておきましょう」
「そうね。 次の楽しみを取っておきましょうね」
話が決まると、モカリナは、モナリムに視線を向けると、モナリムは、モカリナの脇に控えるように立つ。
「フィルランカとエルメアーナが、帰りますから、馬車の用意をしてあげてください」
「かしこまりました。 モカリナ様」
モナリムは、モカリナの指示に従って、中庭から、建物の方に向かった。
(まあ、方向性は違ったけど、これで、ベンガークも解放されるわね)
「あ、あと、エル」
モカリナは、ホッとして、モナリムを使って、エルメアーナを呼んでもらおうとしていると、フィルランカが立ち上がった。
「エルメアーナ! そろそろ、帰るわよ」
エルメアーナに聞こえるような大声で、エルメアーナを呼ぶ。
その大声に、モカリナは、驚いた。
(ちょ、ちょっと、そんな大声だと、家の中まで聞こえてしまうわよ)
モカリナは、屋敷の様子を伺うが、フィルランカは、エルメアーナが、自分の方を向いて、手を挙げたので、それに応えるように手を振っていた。
それを、モカリナは、引き攣った笑顔で見ている。
(ああ〜、ちょっと、これは、無いわ)
モカリナは、この事を、家族に説明する必要に迫られないかと気になったのだ。
モカリナの家族は、家の中で大きな声を出すようなことは無いので、後で家族に、何か聞かれることが気になったのだ。
フィルランカに呼ばれて、エルメアーナとベンガークが、2人の休憩場に戻ってきた。
「フィルランカ、凄かったぞ。 やはり、本当の技術を持っている人の話は、とてもためになる。 考え、試してみて、考え通りかどうかを確認する。 違っていたら、その違いを、また考える。 イメージと現実の違いを考えるから、どんどん、イメージするだけで、問題点が見えてくるんだ。 頭の中だけで完結できれば、実際に作る必要がないんだ。 とても、面白い話を聞けた」
エルメアーナは、満足そうに話した。
「いえいえ、大した話じゃないのに、エルメアーナは、とても楽しそうに聞いてくれたのですよ。 私の方こそ、聞いていただけたことで、とても、楽しかったです。 それに、エルメアーナと話をしていた事で、また、新たな世界が広がったように思えました」
ベンガークは、とても疲れたようだが、こちらも満足そうな様子で答えくれた。
そんな2人の話を聞いて、モカリナは、似た者同士と思ったのか、フッと息を吐くと、多少呆れた様子になる。
「そうなの、それは良かったわ。 さすがは、ベンガークね。 誰からでも、ヒントを得るのね」
ただ、1人、フィルランカは、自分には、少し分からない話だと、少し困ったような表情をしていた。
「エルメアーナ。 そろそろ、帰りましょう。 夕飯の準備もあるから、市場にも行きたいの」
「買い物は、昨日のうちに終わってたんじゃないのか?」
エルメアーナが、不思議そうにフィルランカの話に質問で返してきた。
「うん。 でも、ちょっと、足したい食材があるのよ」
エルメアーナは、そんなフィルランカの答えに、目を輝かせた。
「ひょっとして、新しい料理を思いついたのか? フィルランカ、また、美味しい料理ができると思ったんだな。 ああー、今日は、また、至福の時間を味わえるかもしれないんだな」
エルメアーナは、かなり喜んだ様子でフィルランカに答えたが、フィルランカは、少し困ったような表情をする。
「あ、ああー。 でも、思い付きだから、試してみないと、美味しいかどうか、分からないわよ」
「いや、フィルランカなら、どんな料理も美味しくしてくれる。 きっと、フィルランカの思った通りの美味しい料理になる」
フィルランカに顔を近づけるようにして、かなり、期待を寄せた表情で、エルメアーナは答えた。
エルメアーナの期待を受け止めきれない様子で、フィルランカは、苦笑いをしているが、エルメアーナは、嬉しそうにフィルランカを見ていた。
(あら、何だか、ペットに餌をあげようとしている飼い主みたい。 エルメアーナもカインクムさんも、胃袋を、フィルランカに握られているのね)
2人の会話を聞いていたモカリナは、少し嬉しそうな顔を見せた。
すると、そこに、モナリムが戻ってきた。
「モカリナ様、馬車の準備ができました」
「ああ、ありがとう」
そう言うと、フィルランカ達の方に向く。
「フィルランカ。 家の馬車に送らせるわ。 それと、エルメアーナ。 ここの中庭は、季節毎に使う花も変わってくるから、また、いらっしゃい。 その時、また、ベンガークにコンセプトも聞くことができるようにしておくわ」
ベンガークの表情には、嫌そうな様子は見えなかった。
「ええ、少し疲れましたが、エルメアーナさんと話ができるのは、私も楽しいので、次に来る日が楽しみですよ。 そうですね。 うん。 次は、エルメアーナさんに、もっと喜んでいただけるようにしましょう」
「おおー。 そうか。 うん。 絶対に、また、お邪魔させてもらう。 本当に楽しかった」
「はい。 お待ちしてます」
モカリナは、2人の話を不思議な感覚で見ていた。
「では、玄関に行こう」
モカリナが誘うと全員が中庭の休憩場から移動を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます