第84話 中庭の休憩場
モカリナは、フィルランカとエルメアーナを連れて、大広間を出ると中庭に出る。
中庭の中央付近には、石造りのドーム型の休憩場があり、建物と一緒に、石造りのテーブルと椅子が、備え付けられていた。
モカリナは、そこに2人を招いた。
エルメアーナは、中庭に入ると、周りをキョロキョロとみつつ、後についてきたのだが、その石造りのドーム型の休憩場にも興味をそそられたようだ。
モカリナは、その休憩場に座ると、モナリムが、お茶を用意すると、準備が終わる頃にモナリムに話かける。
「モナリム。 庭師のベンガークを呼んで」
「かしこまりました」
モナリムは、お茶の準備を終わらせると、中庭を見渡し、手入れをしている庭師の元に行くと、その庭師と何かを話をする。
話終わると、直ぐに、モナリムは、移動を始めた。
その様子を確認したモカリナは、エルメアーナを見る。
エルメアーナは、その休憩場をジロジロと眺めていた。
休憩場のドームも柱もだが、テーブルにしてもベンチの椅子にしても、彫刻を施してあり、かなり高級な造りになっているので、興味津々で、ジロジロ眺めたり、触ったりしていた。
「エルメアーナは、こういうものが本当に好きなのね」
「ああ、とても精巧な細工がされている」
エルメアーナは、見るもの全てが珍しいらしく、何もかも興味津々で見ているので、視線は、モカリナに向けず、自分の興味を優先して答えた。
「うん。 この細工を私もできるようになってみたい」
「ごめんね、モカリナ。 エルメアーナは、興味を持つと、いつもこんななのよ」
フィルランカは、モカリナに恥ずかしそうに答えるが、モカリナは、何も気にしてない様子だ。
「ああ、大丈夫よ、フィルランカ。 今、エルメアーナの相手を用意したから、もう、そろそろ、来ると思うわ」
そこに、モナリムが戻ってきた。
「モカリナ様。 直ぐに来ると言っておりました」
「そう。 ありがとう」
「いえ、もったいのうございます」
モカリナの謝辞にモナリムは、恐縮するように答えると、テーブルの上を確認すると、三人にお茶菓子を用意し始めた。
すると、1人の中年の男が、休憩場に歩いてくる。
「モカリナ様。 お呼びでしょうか?」
「ああ、ベンガーク。 お仕事中に呼び出してしまったかしら」
「いえ、細かな作業の指示は、済ませてあります。 今は、次の季節のための計画を考えていたところなので、問題ありません」
「そう、ありがとう。 実は、あなたの作った中庭を、たいそう気に入ったらしいのよ」
そう言って、モカリナは、エルメアーナに視線を向けると、ベンガークも、エルメアーナに視線を向ける。
そこには、興味津々でテーブルを見たり天井を見たりして、落ち着かないエルメアーナがいた。
そのエルメアーナの目に映っているものが、ベンガークにも理解できたようだ。
「エルメアーナは、造形されたものについて、とても興味があるのよ。 彼女自身は、鍛治仕事をして、金槌を使っているのよ。 ここの大広間もですけど、ここの中庭もとても興味があるようなのよ。 申し訳ないけど、ここの中庭を見せてあげて、聞かれたら、説明をしてあげてほしいのよ」
すると、エルメアーナは、モカリナの話を聞くと、ベンガークを見た。
「おおー。 あなたが、この中庭を作ったのですか。 とても素晴らしかった。 見る位置で違った形に見えるなんて、とてもすごかった。 これほど、人を楽しませる事に特化した庭を見た事は初めてだ。 それに、この休憩場のドームもすごい。 ここの細工もとても凝った作りになっている。 フィルランカの料理を、初めて食べた時のような、とても、甘美な感覚になった。 見た目だけで、こんなに、心を震わせるような思いになったのは、初めてだ」
エルメアーナは、武器や日常品を作っていたので、美術・芸術に関する造形を見るのが初めてだったのだ。
特に、貴族に知り合いも居ないので、初めての貴族の屋敷を見て、感動していた。
華美な建物や庭が、エルメアーナには、芸術品として写ったのだ。
その何もかもを見て感動したのは、自分の作るものとは、全く違うことに感動していた。
エルメアーナには、概念的な部分で、実用性というものがあるので、使い勝手の良さを追求するのだが、見た目の美しさについては、今までに考えた事が無かった部分でもあるので、モカリナの家の全てが、エルメアーナには、新鮮に写ったのだ。
(私の作るものにも、こんな、素敵な細工を施す事ができたら、とても優雅だ)
エルメアーナは、周りの造形を見て、少し酔い気味になっていた。
そんなエルメアーナを、ベンガークは、面白いと思ったようだ。
(この子は、私の娘たちより年下だな。 だが、うちの娘達より感性が高いのか。 見る位置で表情を変えるこの庭は、私にとっても、やり甲斐があった。 面白い少女を、モカリナ様は連れてきたのだな)
ベンガークは、エルメアーナを面白いと思ったようだ。
一般的に自分の仕事を褒めてくれる人には、好感を持つものだが、エルメアーナの表情は、それにも増して、まるで子供が、新しいおもちゃを与えられたような表情をしていた。
「それでは、私が庭をご案内いたしましょう。 エルメアーナ様」
「いや、様は不要だ。 私は、貴族でも無いし、今日は、そこのフィルランカのオマケで付いてきただけだから、呼び捨てで構わない。 これを考えた人と一緒にいられて、それに話ができるだけで、私は、幸せなのだ」
ベンガーク自身も、話の流れから、貴族には思えなかったが、2人の着ている衣装が、貴族と見劣りしないものだった事と、モカリナの友人だったので、2人の身分が確定するまでは、貴族として扱っていたのだ。
「そうですか。 でも、モカリナ様のご友人ですから、主人同様に扱わさせていただきます」
そう言って、ベンガークは、笑顔を向けた。
ただ、ベンガーク自身も、エルメアーナと話をしてなければ、ここまで友好的に扱うことは無かったはずなのだ。
エルメアーナの感性が、ベンガークの感性をくすぐったので、快く思ったようだ。
「では、すまないが、ベンガーク。 エルメアーナの案内を頼む」
「かしこまりました。 モカリナ様」
ベンガークは、モカリナに挨拶した。
「では、エルメアーナ、庭の方をご案内します」
「おおー、助かる。 本当に素敵な庭なのに、その設計者と話ができるなんて、なんて幸せなんだ」
そう言うと、エルメアーナは、ベンガークと一緒に中庭を散策し始めた。
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