第82話 宥められるフィルランカ
フィルランカは、自分の出している料理には、自信があったのだが、料理の食器については、カインクムの家にあったものを使っていた。
カインクムの家には、庶民が使う一般的なものだったのだが、モカリナの家は、侯爵家ということもあり、食器も良いものを使って、料理を楽しませるために使われていたのだ。
その事をエルメアーナが、嬉しそうにモカリナに話していたのを聞いて、自分の出す料理が、そこまでこだわってなかった事を指摘されたようで、悔しさからフィルランカは、涙を流してしまったのだ。
そんなフィルランカに、周りは、どんな対応をしたら良いのかと、おどおどしていたのだ。
エルメアーナとしたら、フィルランカの事を考えずに、モカリナ家の料理に使われた皿について、褒めまくった事で、フィルランカは、ショックを受けているのをどうしたら良いかと困っていた。
モカリナも何と言って、宥めたら良いのかと思っていたのだが、モナリムに助けを求めようと思った様子で、周囲を確認する。
しかし、モナリムは、見当たらないので、モカリナも、どうしようか困っていた。
モナリムは、部屋の外で、中の様子を伺っていたのだが、今、ここで入室すると、モカリナに解決策を求められると思って、入室せずに、中の様子を伺っているのだ。
(何だか、よく分からないけど、今、私が入って行ったら、絶対にモカリナ様に助けを求められてしまうわ。 お茶も入れておいたのだから、ここで、もうしばらく、様子をみてましょう)
モナリムは、扉に耳を当てて、中の様子を伺っている。
面倒事には、首を突っ込みたくないようだ。
困ったのは、モカリナだ。
モカリナの目の前でフィルランカが、大粒の涙を流しており、それをエルメアーナが宥めていた。
ただ、その間接的な原因として、モカリナが、ソワソワしていたエルメアーナに声をかけたことから始まっているので、わずかではあるが責任を感じているのだ。
いつもなら、そばにモナリムが居るので、このような場合は、モナリムに振るのだが、今日は、モナリムも居ないので、この場を、どうやって、取り繕ったら良いのか困っていた。
エルメアーナは、自分の言ったことが原因なので、必死にフィルランカを宥めていた。
今まで、フィルランカの涙は見たことが有るが、ここまで、ボロボロと涙を流したのは見たことが無かったのだ。
「フィルランカ。 モカリナの家は、貴族の中ではとても偉いんだ。 だから、家には、お金もある。 だから、食器にもお金をかけられるんだ。 父は、鍛冶屋としての腕も良いから、家はそれでも帝国臣民の中では裕福な方だが、モカリナの家と比べたら、数段下になる。 食器の違いなんて、当たり前のことじゃないか」
フィルランカは、泣いていた。
「お前は、美味しいものを、私や父に食べさせるために、必死で頑張ってくれた。 私は、いつも美味しい料理を食べられた。 フィルランカが家に来てから、食事の時間が決まるようになったのは、フィルランカの料理が美味しいからじゃないか。 お前は、美味しい料理を食べさせるために、味を覚えて、そして、自分でも作れるようになったじゃないか」
「うん」
フィルランカは、辛うじて返事ができる程度だった。
「フィルランカの料理は、美味しいんだ。 綺麗なお皿に乗ってなくても美味しいことを、私も、父も知っている」
「ねえ、フィルランカが、エルメアーナの家に引き取られたのって、10歳の時でしょ。 そんな時から、フィルランカは、あなた達の料理を作っていたの?」
モカリナは、何か気になり出した様子で、エルメアーナに聞いた。
「ああ、そうだ。 私も父も、それまで、仕事になったら、何も食べずに工房に入っていた。 でも、フィルランカが、料理を作ってくれるようになって、食べるようになったんだ」
「あら、そんなに仕事に熱中していたの?」
「うん。 それまでは、料理と言っても、腹を満たすだけだから、パンを温めただけだとかで腹を満たすだけだから、結局、後回しになっていた」
「あら、そうだったの。 でも、フィルランカが、料理を作り出したら、ちゃんと食べるようになったのよね」
「ああ、そうだ。 最初に食べた料理は、とても美味かったぞ。 何せ、朝から工房に入って、夜に初めて食事をしたんだが、その時は、美味しすぎて、料理以外に気が回らなかった」
(えっ! 朝から仕事をして、夜に初めて食事をしたってことなのかしら。 エルメアーナったら、とんでもない食生活をしていたのね)
モカリナは、エルメアーナの話を聞いて、微妙な表情を浮かべた。
「まあ、エルメアーナ。 そんな食生活で、よく、病気にならなかったわね」
「ん? 父も同じだったから、あまり、気にしなかった」
(あら、エルメアーナの食生活は、カインクムさんの影響だったのかしら。 ……)
「そうだ。 フィルランカが、一緒に住むようになってからだ。 私も、父も、ちゃんと食事をするようになったんだ」
モカリナは、エルメアーナの話を聞きつつ、考えるような仕草をしていた。
そして、思いついたようにエルメアーナに聞く。
「ねえ、じゃあ、フィルランカが、家に来るまでは、1日に1食、しかも、パンをかじるだけの生活をしていたの?」
「ああ、そうだ。 私も父も、いつもそんな感じだった」
モカリナは、話を聞きつつ、何かを考えている。
「だから、最初にフィルランカの作ってくれた料理を食べた時は、びっくりしたぞ。 この世の中に、こんな美味しいものが有ったと、初めて気がついた。 ああ、それは、父も一緒だったと思うぞ。 あの時、父も私と同じように、食べていた。 フィルランカが、まだ、お代わりが有ると言ったら、私は安心したが、父は、一気に食べて、お代わりをしていた。 あんな、美味そうに食べていた父を、私は、初めて見たぞ」
「そうなのね。 本当に、フィルランカの料理は美味しかったのね」
「ああ、そうなんだ。 だから、あれ以来、父は、工房に入っても、食事の時間を気にするようになったんだ。 私が時間を忘れそうになっても、父が、時間になると、私を呼んでくれるようになったんだ。 だから、父も、フィルランカの料理が、とても美味しいと思っていたんだろうな」
「まあ、エルメアーナだけでなく、カインクムさんも、そんなに、フィルランカの料理が好きなのね。 カインクムさんは、フィルランカの料理を食べるのがそんなに好きだったのなら、今日のようにお昼にフィルランカを呼んでしまったら、悲しんでいるのかもしれないわね」
「いや、そんな事はない。 私も父も、フィルランカの居ない時は、ちゃんと用意してくれているので、それを温めて食べるようにしている。 それも面倒な時はあったが、食べ忘れるとフィルランカが怖いんだ。 だから、ちゃんと、食べている。 きっと、今日も、父は1人で温め直して食べているはずだ」
(また、学校を辞めると言いかねないからな。 父は、今日も、時間にちゃんと食べているはずだ)
エルメアーナは、言い終わると、少し考えるような表情をしていたので、その間合いを埋めるようにモカリナが話し始める。
「きっと、カインクムさんは、フィルランカのことが、とても可愛いのね。 何だか、フィルランカの言う事なら、何でも聞いてくれそうな感じね」
モカリナは、カインクムが、エルメアーナと同様に、自分の娘として可愛がっているのだと思い、言葉にすると、フィルランカの顔を見る。
しかし、フィルランカは、泣き止んでいたのだが、とても恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
モカリナは、泣き止んだフィルランカを見てホッとしたようだが、なんで、恥ずかしそうに顔を赤くしているのか不思議に思ったようだ。
なんで、恥ずかしそうな表情をしているのかと思い、モカリナは、エルメアーナを見る。
エルメアーナは、泣き止んでいるフィルランカにホッとしたようだが、何でそんな表情をしているのか、気にもとめてないようだ。
「ねえ、フィルランカ。 大丈夫?」
モカリナは、フィルランカに尋ねると、フィルランカは、ビックリした様子で、モカリナを見る。
「ヒャ、にゃ、にゃんでみょにゃい、ミョ」
フィルランカは、突然、尋ねられて、びっくりして答えてた。
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