第78話 食事におけるお互いの思惑


 3人が席に着くと、モナリムが中心になって料理が運ばれてきた。


 それは、フィルランカが、時々行く、第1区画の飲食店で出されるコース料理のようだった。


 フィルランカは、エルメアーナが、粗相をしないかと思いつつも、それ以上に、出された料理が気になっていた。




 フィルランカは、カインクムから、毎日の食事の世話を行なっているので、その報酬をもらっている。


 ただ、フィルランカは、カインクムの家で、部屋を間借りしている下宿人の扱いとなっているので、その費用を引いた分を、フィルランカに、毎月渡している。


 その他に、3人の食材の費用も預かっている。


 カインクムとしたら、フィルランカとエルメアーナを姉妹として育てていくつもりだったのだが、フィルランカが拒否したこともあり、家政婦として住み込みで働いてもらっているようにしたのだ。


 その結果、フィルランカは、毎月、カインクムから、一定額のお金を給与という形で支払われていたのだ。


 学校については、必要な投資ということで、カインクムというより、カインクムの店が支払う事になっていた。


 ゆくゆくは、フィルランカが、カインクムの鍛冶屋の店主となって、エルメアーナの作る物を売る事になっている。


 高等学校に通わせているのも、ゆくゆくは、エルメアーナのためになるからと、費用については、カインクムではなく、カインクムの店が支払うことで、フィルランカに納得させた。


 その毎月、カインクムからもらう給与を使って、飲食店を巡って、様々な料理を食べ歩いていたのだ。


 フィルランカとしたら、カインクムに美味しいものを食べさせたいと思った事もあり、自分で作るにあたり、カインクムから、美味しい味を知ることから始めるように言われた事を、忠実に守っているだけなのだ。


 フィルランカは、将来のために、美味しいものを食べて、それを自分でも作れるようにする。


 カインクムに言われて、フィルランカは、自分に渡されているお金を使い、食べ歩いて、カインクムに美味しいものを食べさせることが目的なのだ。


 そして、最初に購入したスパイスについても、カインクムから預かっている食材用のお金ではなく、自分がもらっているお金の中から使っている。


 フィルランカは、律儀に食材用と、自分用のお金を分けているのだ。


 自分のスキルアップのためには、自分のお金を使い、3人の食事の為には、食費の中からとしっかり分けて使っている。


 毎回、カインクムに購入品については、報告を上げている。


 フィルランカとしたら、そんな会話でもカインクムと話ができることが嬉しいことなのだ。




 最初は、フィルランカも家の周りの第3区画の飲食店を、食べ歩いていたが、今では、第1区画の飲食店にも行くようになった。


 ただ、最初は、第3区画で、一般的な帝国臣民の服を着ていたので、第1区画の飲食店から入店を断られてしまった。


 それは、第1区画では、貴族や大商人のような裕福層が、来店することもあるので、衣装もそれなりのものを着ている事が求められた。


 それを、第5区画のミルミヨル達が、自分達の宣伝を兼ねて、フィルランカに提供したことで、フィルランカは、第1区画の飲食店に入れるようになった。


 そして、フィルランカは、そのフィルランカの嫁入りのために料理を食べ歩いているという噂が、フィルランカに運をもたらせた。


 第1区画の、最初に入った飲食店では、フィルランカが、その店の副支配人に気に入られたこともあり、貴族のためのテーブルマナーを教えてもらえたのだ。


 そのおかげで、フィルランカは、その店以外に入っても、着ている衣装も、テーブルマナーについても、文句を言われることも無く、良いお客として、迎えられていた。


 なお、フィルランカにテーブルマナーを教えてくれた、副支配人については、皇族や貴族にもテーブルマナーを教えるほどの人物であったこともあり、モカリナも副支配人から、テーブルマナーを教わっている。


 その際に、フィルランカの話をモカリナは、聞いていたのだ。


 モカリナにしてみたら、高等学校に入学した時に、話に聞いていたフィルランカを見て驚き、更に、フィルランカが、次席入学だったことで、興味をそそられたのだ。


 帝国臣民の身で、学力も次席であり、9位の自分より上だということもあり、モカリナは、今後の自分の自立の為にも有益な相手だと思ったのだ。


 そのおかげで、モカリナの成績も徐々に順位を上げている。




 モカリナとしたら、フィルランカと一緒にいることで、時々、授業で分からなかった部分を教えてもらえることもあり、そして、上級生の補修授業に一緒に付き合ってもらえる同性が居ることで、不安になることもなく、授業に参加できているのだ。


 フィルランカとしても、高等学校は通過点であって、帝国大学に入ることが目的なので、モカリナに誘われて非常にありがたいと思っているのだ。


 お互いにお互いを利用しつつ、2年で単位を取得して、推薦入学の枠に入りたいと思っているのだ。


 ただ、モカリナとしたら、侯爵家ということもあり、それに次席のフィルランカ、自分より上位なので、上位で、しかも、帝国臣民であるフィルランカを利用していることに、少し後ろめたさがあるのだろう。


 今日の食事の誘いも、モカリナの、僅かな後ろめたい気持ちを解消させたい気持ちもあるのだ。


 モカリナとしては、常に、友人のフィルランカとして付き合いたいという思いから、もらった恩義に応えるつもりで、昼食に誘ったのだ。


 そんなこともあり、モカリナは、料理長に頼み込んで、フィルランカの知らなそうな料理を出してほしいと頼んでおいたのだ。

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