第71話 モカリナの家へ 〜2人の準備〜


 フィルランカは、モカリナに食事に誘われた。


 食事には、エルメアーナも一緒にと言われていたので、前日の夕食の際に、エルメアーナには伝えている。


 その時、カインクムからは、いく時にお土産を持っていくようにと言われており、出発の時までに用意すると言われた。


 夕食後にフィルランカは、湯を沸かすとタライを使って、エルメアーナと一緒に湯浴みを行う。


 エルメアーナは、嫌がるのだが、モカリナの家に行くのに、臭うようでは困ると思い、一緒に湯浴みをすることにした。


 お互いに髪の毛を洗いあって、体も綺麗に洗う。


 フィルランカは、エルメアーナが、いい加減な洗い方をしないかと思いつつ、手の届かない部分を手伝うようにしていた。


 その後は、髪の毛を乾かすのだが、タオルだけでは、なかなか、うまく乾かないのだが、エルメアーナは、段カットにしていたので、フィルランカより早く乾かせていた。


 その後は、お互いの髪の毛をブラッシングして、丁寧に整えていた。




 朝は、朝食を済ませると、カインクムは、店の中を探して、フィルランカに持たせる物を用意し始める。


 エルメアーナは、のんびりとお茶を飲みつつ、ニヤニヤしていた。


 その様子から、今日のナキツ家の昼食が楽しみなのだろうと思えるのだが、その格好は、普段着のままで、そのまま、工房に行って仕事をしてもおかしくないものだった。


「ねえ、エルメアーナ。 今日は、これから、モカリナの家に行くのよ」


「おお、そうだな。 貴族の家の料理が食べられるなんて、こんな幸せな事はないな。 フィルランカには感謝しているぞ」


 フィルランカの話を聞いて、エルメアーナは、嬉しそうに答えたのだが、一向に動く気配がない。


「ねえ、まさか、その格好で行こうとしてないわよね」


「ん? そのつもりだが、この前、洗濯して綺麗にしたのを着たんだ。 いいだろう」


 その答えを聞いてフィルランカも困った様子をする。


「あのね。 モカリナの家に行くのよ」


「ああ、フィルランカの友達だ。 それに、私にも友達になろと言ってくれた。 とても気さくでいい子だな。 とても、貴族とは思えなかったぞ」


 フィルランカは、流石にイラッとしたようだ。


「あのね、モカリナは、貴族の家の人なのよ。 だから、私達は、モカリナの家に行っても、おかしくない格好をしなければいけないのよ。 その格好でも、仮にモカリナが許しても、モカリナのお父さんやお母さんもだけど、使用人の人だっているのよ。 モカリナに対して恥ずかしくない格好じゃないと、モカリナに悪いでしょ」


「ん? 昨日の話だと、普段通りの格好で来いと言われたと言ってたじゃないか。 だから、普段の格好の中でも、綺麗なものを選んだんだ」


 フィルランカは、昨日の夕食の際に、カインクムを安心させるために、そう答えていたのだが、それをエルメアーナは、真に受けていたのだ。


 そのエルメアーナの話を聞いて、フィルランカは、肩を落とした。


「はい、わかりました、って、そんな風に行く訳ないでしょ。 もう、じゃあ、私と一緒に着替えましょう。 あちらの家に行って、モカリナの家族に後ろ指を刺されないようにしていくの!」


「え!」


 フィルランカは、エルメアーナを連れて、自分の部屋に行く。


 そして、エルメアーナに自分の服の中から、二つほど選ぶと、エルメアーナに見せる。


「あなたは、どっちが好き?」


「うーん。 どっちもいいな。 突然、選べと言われても困るぞ」


 そのエルメアーナの対応に、また、イラッとしたフィルランカは、右に持っていた服を渡す。


「じゃあ、これに着替えて。 それと、コルセットもつけるのよって、ねえ、そのまま着ないで!」


 エルメアーナは、フィルランカに服を渡されると、すぐに、今、着ている服を脱ぎ出したのだ。


 エルメアーナは、ただ、着ようとしたので、フィルランカに注意された。


「あっ、え! わかった。 今、持ってくる」


 脱ごうとしていた服を戻すと、服をフィルランカのベットの上に置き、部屋を出ていった。


「もう、エルメアーナったら、また、面倒がっているのね。 エルメアーナだって、着飾ったら、とても可愛いのに」


 そう言いつつ、フィルランカも今まで着ていた服を脱いで、下着姿になると、コルセットをつけ始めた。


 フィルランカがコルセットをつけ始めると、エルメアーナも戻ってきた。


 エルメアーナが、ドアを閉めると、フィルランカは、慣れた手つきでコルセットを閉めていた。


 そんなフィルランカをエルメアーナは、ジーッと見ていたのだが、ゆっくりとフィルランカに近寄って行く。


「ああ、エルメアーナも、早く着替えましょう。 まだ、上手くコルセットが付けられないようなら、手伝うわよ」


 フィルランカは、そう言って、コルセットの下を手で擦りつつ、絞られた部分を上に上げようとしていた。


 すると、エルメアーナが、フィルランカの横に来て、マジマジと胸の辺りを見ていた。


 そんなエルメアーナに気がついたフィルランカは、エルメアーナが、自分の胸を見ているのに、少し驚いたようだ。


「ねえ、ちょっと、エルメアーナったら、私ばかり見てないで、あなたも用意してよ」


「なあ、フィルランカ。 お前の胸だけど、昨日の湯浴みの時より大きくなっているな」


 エルメアーナが、真剣な表情で言うので、フィルランカは、恥ずかしくなったのだろう、顔を赤くして、片方の手で胸を隠す。


「可笑しなこと言わないで! あなただって、コルセットを付けたら、大きくなるのよ。 だから、早くあなたも付けるのよ」


「わかった」


 そう言って、エルメアーナも上着を脱ぐと、下着姿になるのだが、その下着は、少し破けており、隠せるものが隠せてなかった。


「ねえ、ちょっと、ミルミヨルさんのところで買った下着はどうしたのよ」


「ん? ああ、勿体無いからしまってある」


 フィルランカは、下着まで確認してなかったことを後悔していた。


 全ての事を、一つ一つ言わないと、まだ、エルメアーナには通じないのだと実感したようだ。


「あのね。 外側だけじゃなくて、下着もちゃんとしたものをつけるのよ。 だから、ミルミヨルさんのところで買った下着を付けて」


「下着なら、見せるものじゃないから、これでも良くないのか? それに服を着たら見えないぞ」


 その言い訳を聞いて、フィルランカは、イラついたようだ。


「いいから、下着も新しいものに交換して!」


 フィルランカには珍しく、大きな声でエルメアーナに言うので、エルメアーナは、下着姿のまま、自分の部屋に取りに行った。


「エルメアーナ! お前は、なんて格好をしている!」


「すまん、父! 見るな!」


 部屋の外から、カインクムの声がした。


 エルメアーナが、下着1枚で廊下を出た時に、たまたま、カインクムに見られてしまったようだ。


 だが、ドタバタと走り回るような音がしたと思うと、直ぐに部屋のドアが開いて、エルメアーナが帰ってきた。


「ああ、父に見られた」


 そう言って、両手で体を抱えるようにして、フィルランカの方に来ると、履いている下着を脱いで、新しい下着に履き替えていた。


 今度は、破れた下着ではなく、綺麗に体にフィットする下着を着けた。

 エルメアーナは、お尻のラインを気にするように体をひねって確認すると、少し位置を直した。


 下着をつけると、コルセットを取り付け出す。


 ただ、フィルランカほど慣れてないので、なかなか上手くいかないようだ。


「すまない、フィルランカ。 手伝ってもらえないだろうか」


「仕方ないわね」


 そう言うと、コルセットを着けたところのフィルランカが、エルメアーナのコルセットをつけるのを手伝うのだった。

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